#72 嘘だけど真実な事

ガチャリと、ドアを開けて彼女の部屋の中に入った。


以前、ここに来る前に来た自称彼女の部屋と同じ部屋のつくりのように見えた。

ただ、前見たときが夜で明かり無かった為、

部屋の様子がよく分からなかったが……。

どうやらこの部屋は思っていたよりも広かったみたいだ。


部屋の中は前見たとき時よりも綺麗で、

この意識世界の屋敷全体にも言えることだがまさにちゃんとした家という感じだ。


「コ―デリア……?」


一見、周りを見渡しても彼女の姿はどこにもない。

暫くすると……声。


『あなた達は……誰です?』


彼女の声だ。でもどこから?


「コ―デリアなんだろ? 頼むからここに姿を見せてくれよ」


『…………』


声は黙る。


「コ―デリア? 俺だよハヤトだよ。みんなもいるぞ! お前を助けに来たんだ」

『ハヤ……ト……? みんな……?』


「コ―デリアさん! イオですよ! 覚えていますか?」

「リシテアよ! みんなでコ―デリアちゃんを助けに来たのよ!」

「レアも同じですっっ!」


『イオ……リシテア……レア……』


「リア……! どうしたんだ? 忘れてしまったのか? 私だ……! フェ―ベだ!」


フェ―ベは声を荒げる。


『フェ―ベ……』


――シュン


すると……俺達の前に青いもやもやしたのが現れる。

もやもやはふわふわと浮遊している。

それは今にも消えそうな小さなもやもやだった……。


「これが、コ―デリア……なのか……?」

『そうです……これが……今のわたくしの姿……』


「コ―デリア。俺達はお前を迎えに来たんだ」

『迎えに……? どこにです……?』


「俺達が前いた世界に帰るんだよ」


『…………!!』


消えかけのもやもやは強く反応した。


「帰って、また俺達で楽しく冒険をしよう」


俺はできる限り優しく語りかける。


『あの世界は偽物の世界でした……!』

「コ―デリア。それは違うんだ。今の世界こそが――」

『――ならッ……! わたくしの本当の家はどこなんですか……?』

「…………」

『わたくしの本当の家はここなんです……!』


青いもやもやは弱々しくも声を荒げ。


『その証拠に家は綺麗ですし……パパとママも……メイドも……居ます!』

「…………」

『この世界こそが本物の世界で……わたくしがいると思っていたあの世界こそが偽物……なんです……』


そうくると思ったよ。コ―デリア。だから俺は……。

を今からお前に言うよ。


「いいか? コ―デリア。よく聞いてくれ」

『なんです……?』

「実はさ……お前が元居た世界……。ボロボロだったあの屋敷があった世界のことだよ」

『はい……』

「本当はさ。あの屋敷はボロボロじゃ無かったんだ」

『えっ……?』


彼女は当然の疑問を投げかける。


「しかも、実はあの時お前のパパとママもあの屋敷に居たんだ」

『パパと……ママ……が……?』

「勿論……メイドや執事もいたんだ」

『メイド達……も?』


もやもやは俺がなにを言っているのかあまり理解できていない様子だった。


「ああ。ついで言えばあの建物は本当にお前の家なんだぜ?」

『……嘘です』

「嘘じゃないよ」

『だってあの時……あなたは……この屋敷が本物じゃないと言っていました……ッ!』


そうだ。確かにそういった。実際あの屋敷はコ―デリアの屋敷じゃないし、誰も住んでも居なかった。

天井には穴が空いていたし、屋敷の管理は行き届いていなかった。

それなのにお前は自分の家だと言い張っていた。

俺はそんなお前を見るのが辛かった。だから、現実をお前に教えたんだ。


でも、それは間違いだったんだ。

あの時、俺は……ここがコ―デリアの家だと言ってあげれば良かったんだ。

嘘は悪いことだけじゃないんだ。

嘘つくことで、救われることだってあるんだ。


だから今度は……。


「あれはさ、ドッキリだったんだよ」

『ドッキリ……?』

「そうだ。ドッキリだったんだ。お前を驚かそうと思ってあんな事を言っただけなんだ」

『……本当に?』

「ああ。その証拠に、ちゃんとあの世界に戻ったら綺麗なはあるんだぜ?」


『…………』


コ―デリアは今、何を思っているのだろうか?

俺の言うことを信じてくれたのだろうか?


「だから、帰ろう?」


すると、青いもやもやはいつものコ―デリアの姿に変化する。


ああ……。

いつもの彼女だ……。


「リア!」


フェ―ベは喜んでいる。


「……ドッキリにしては悪質すぎますわ。ハヤト様、

 わたくし貴方に文句が散々さんざんありますわっ!」


俺は彼女に手を伸ばす。

コ―デリアは俺の手を握る。


「それは悪かった。帰ってから散々聞いてやるよ」


「ええっ! 散々罵声を浴びせてあげますから――!」


そうして俺達は意識世界を脱出した。


気がつくと、視界が移り変わる……。

ここは、森だ。


後ろを振り向くと、みんなと、金髪の少女。


「ハヤト様っ」


コ―デリアは俺に近づく。


本当に良かった……。彼女が戻ってきてくれて。


「コ―デリア」


俺はコ―デリアの腕を引っ張り、森の奥に進んだ。


「えっちょっちょっとハヤト様?」

「ドッキリだったということを証明しないとな!」

「なんですの―!」


そうしてコ―デリアの腕を引っ張り、森の奥に進んでいく。

そして……。


見えてきた。

そう、ここは彼女の――“コ―デリアの屋敷”だ

それは、綺麗な建物だった。


俺は門にある呼び鈴を鳴らす。

ガチャリと、家のドアが開く。

二人の男女がドアから姿を現し門までやってくる。

ふたりともなんとなくコ―デリアに似ている容姿をしている気がした。


そして門は開く。


まず最初に口を開いたのは男性の方だった。


「おかえり。コ―デリア」


その後に女性も口を開いた。


「コ―デリア。おかえりなさい」

「パパ! ママ!」


彼女は、とても嬉しそうだった――。


……俺は空に向かってボソッと呟く。


「俺の頼みを聞いてくれてありがとうな」


“コ―デリアの意識世界”に侵入する前に俺は管理用コンピュ―タのシステムAIに頼んだのだ。


彼女の意識からコピ―して彼女の理想の屋敷にできないかと……。

すると、AIはあっさり了承してくれたのだ。


「本当に、ありがとう……」


AIに名前はないのかもしれないけど、彼女の笑顔を戻してくれて、ありがとう――。

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