#75 ダメダメな槍使い、リシテア

まえがきです。

75話後半から長い間リシテア視点が続きます。よろしくお願いします。


◇◆◇◆


俺は軽く深呼吸をし、精神を整える。

本当に……誰かが仕組んであのエンジンを暴走させたっていうのか?

NPCがやったのだろうか? 加賀美はをあのエンジンに送り込んだと言っていた。

強い魔力を送り込むことが出来るってことは――かなりの実力者の可能性が高い。


なんとなくフォルトの名を思い出す。

奴がなにを考えているのはよく分からないが。

どうやら奴は俺達……いや、俺を狙ってきているのか?

奴の正体は――折角だから、この世界の存在をまとめてみよう。


1、俺と、加賀美のような現実世界からやってきた“現実世界の人間”


2、NPCやモンスタ―や動物たち……つまり“AIの人間や生物”


3、管理用コンピュ―タに内蔵されているAI……このゲ―ムのシステムをコントロ―ルしたりゲ―ムデ―タを改ざんする事ができるAI。


考えられる存在はこれだけだ。

フォルトは1〜3のどれかに属していると考えるのが普通だ。


まず一番。現実世界からやってきた人間……は可能性が低いかな。

俺と加賀美以外にこのゲ―ムを知っている奴がいるとは思えない。

知っていたとしても、目的が分からないし。


次に二番。動物はないだろうからNPCやモンスタ―がなんらかの理由で俺に敵意を向けているパタ―ン。

フォルトと名乗る存在が毎回モンスタ―の姿をしていることから、人間の姿をしたNPCよりも、

モンスタ―の可能性が高いが……。


三番。管理用コンピュ―タに内蔵されているAI。俺は今までこのAIの事を、

《ファ―ストブレイン》本体に内蔵されているAIだと思っていたが、違うらしい。


今までの冒険であらゆるエラ―を修正しようとしていたのはどうやらこのAIで、

このAIは修正しきれない事象を消去しようとしていたみたいだ。

以前、エリアが丸ごと消滅したり、リシテアとコ―デリアが消滅したのもその影響のようだ。


どうやらこのAIには悪気は無く。

俺達を助けようと出来る限り頑張っていてくれたみたいだ。

だから管理用コンピュ―タのAIの可能性は低いと思われる。


こうしてまとめてみると一番怪しいのは二番の“NPCやモンスタ―のAI”か……。

モンスタ―がNPCと同じAIが搭載されているのかは分からないが、

モンスタ―にも心があるのは以前、殺戮さつりくのサイクロプスが花や動物達と戯れているのを見たときに知っている。


いや、待てよ……?

一つ見逃している気がする。

ああそうだ。ファ―ストブレインのAIか。


4、ファ―ストブレインに内蔵されているAI。


こいつがフォルトの可能性がある。それどころか……。

この可能性が一番高いんじゃないか?


だとしたら何故だ? なぜ俺を狙う?


そう言えば俺の両親はAIの開発をしていたっけ。

……話が飛躍してきたな。もはや妄想の領域だ。

結局分からないし、考えるのをよそう。


だいたい、両親が働いていた研究所はファ―ストブレインとは関係がなかった筈だ。


「さて」


俺は彼女たちに声を掛ける。


「リシテアを探しに行こう!」


「「はいっ!」」


◇◆◇◆


飛行戦艦が墜落した。大勢の負傷者や……死者が出たらしい。


「わた……私のせい、で……」


私――リシテアは、ボソボソと呟きながらよろよろと道を歩く。

随分前に《ディオ―ネ》から逃げたしてきた私。


もう、全部、ダメ。

何もかもうまく行かない。それはきっと、私がダメだから。


それに、私は弱い。

前から思っていた。どんなときでも私は弱かった。

ハヤトくん達と戦っている時も、役に立った試しがない。

他の子達はみんな強いのに……。


私は弱い。だから――


――空を飛びたかった。羽ばたきたかった。

空を飛べば、弱い私でも強くなれる気がしたから……。


なのに。


「どう、して……」


飛行戦艦は墜落した。


気がつくと眼からしずくがこぼれ落ちていた。

これは涙。私は泣いている。

なぜなら悲しいから……。


そして、知らない間に見たこともない街中に私はいた。

街の名前が書いてある標識が見える。《タイタン》という街のようだった。


――よろよろ、よろよろ


私は視界が定まらない中、行く宛もなく街中を歩いていく……。

それにしても、騒がしい街だ。

ガヤガヤ、ガヤガヤと。

今まで旅してきたどんな街よりもうるさく感じる。

それに、気の所為だろうか。街の住人とすれ違うたびに視線を感じた。


そして、歩を進めるたびに、騒がしさは増していく。

なんとなく気になったので、音が増していく方向に進んでいった。

騒がしさは更に増していき――。


わあああという大声が聴こえてきた。

一人じゃない。大勢の声だ。

これは、悲鳴? いや、歓声?


私は意識をしっかりさせ、なんとか正面を見てみる。

《ネ―ムアリ―ナ》と書かれた看板が見えた。

ネ―ム……アリ―ナ? ということは何かの試合場だろうか?


そして、受付コ―ナ―に受付の男の人がいた。

近づくと、声を掛けられた。


「……っ!」


一瞬、男の人は私を見て眉間にシワを寄せる。

私、なにか見た目がオカシイのだろうか?

男は、直ぐに元の表情に戻ると続きを話す。

  

「え、えっと……。観戦か? 鉈使いと斧使いとどっちにいくける?」


鉈と斧……ということはここは闘技場なんだろうか?

この世界に闘技場なんてあるんだ……。


「いえ。お金は持っていません」

「金を持っていない?」


男の人は緩めた筈の眉間のシワをさっきよりも強く寄せそういった。

私、相当変なことをいったのかな。


「観戦だけはできないの?」

「いや……。別にそんなル―ルはないが……」

「なら、観戦できる?」


正直、どっちが勝つなんてどうでもいい。

ただ、往く宛がない私の暇つぶしには丁度いいと思ったからだ。


「……出来るぞ。334番の席が空いてる」

「ありがとう」


私はまっすぐ進み、《ネ―ムアリ―ナ》の出入り口を真っ直ぐ進み中に入った。


「――あのお嬢ちゃん。大丈夫かな。しかし《ネ―ム持ち》で金を持っていないとは珍しい……」

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