#62 《フォルト》

フェ―ベとコ―デリアの第ニラウンドが始まる。

レベル50と99。単純に火力では勝てないハズだ。

MPが減っていくコ―デリアに対し、MPは無尽蔵むじんぞう(らしい)のフェ―ベ。

どう考えても勝機はフェ―ベにある。

だからまあ……時間が経てばコ―デリアが力尽きて自然に戦闘は終わる筈……。


――彼女たちの第ニラウンドが始まってから十分程が過ぎた後……。


「おい“お前”疲れただろう?」


フェ―ベは偉そうに言うと、


「お前じゃないですわ!」


と、全力で言い返すコ―デリア。


「ああ、名前は……バカデリアだったか?」

「コ―デリア! ですわッ! そんなバカみたいな名前ではないですしッ!」

「……“リア”。少し休憩をしようか……」


「ちょっと! なんか省略されてますわ!

 私はコ―デリア……えっ? 休憩なんて必要ないですし……。ぜぇ……はぁ……」


貴族の金髪は息切れをしている。


「やはり少し休憩をしよう。リア……」


フェ―ベは息切れ一つすることも無い。


「……だから。私の名前を略さないでくださる? ふぇ……?」

「フェ―ベだ……」


「フェ―ベ……さん……? あれ? 

 私だけ貴方を敬語で呼んでいますわ? おかしいですわ?」


コ―デリアは理解できていないのか、

不思議そうにきょとんとしていた。


「まあなんでもいい……さあ、戦いの続きだ」

「ふぇ……“フ―ちゃん”と話していたら戦いのことなんて忘れて、

 どうでも良くなりましたわ……あれ? 私いまなんて?」


そう言うと、フェーベはにやりと笑う。


「フ―ちゃん……か、いい響きだ」

「ちょっとっ! 私はそんな事一言もいってないですし! ですわよね? ハヤト様?」


俺は少し考える。


「……いや、確かにフ―ちゃんと言っていたぞ」

「そ、そんな事いってないですわ―!!!!!!」


コ―デリアは頭を抱えて暴れている。


「さて、解決したようだし。馬車に乗るか―!」

「そうしましょう!」


風属性の槍使いのリシテアはそう応える。


「久しぶりのディオ―ネですね! ハヤトさん!」

「ああ。そうだな!」


俺は“いつも”元気いっぱいのイオに返事をした。


「――あっ! そういえばフェ―ベさんに挨拶していないですっ!」


大切なことを思い出すかのように白髪の雷属性の魔法使い、

レアはフェ―ベの方を向きそう言った。


「あ、そうね! よろしくねフェ―ベちゃん!」


リシテアはそう言いフェ―ベに挨拶をした。


「あ、ああ。よろしく」


フェ―ベは返答する。


「よろしくです! フェ―ベさん!」


イオはそういってからフェ—ベと握手を交わす。


「新しい仲間ができましたねっ! よろしくですっ!」


レアは笑顔いっぱいでにこっと笑ってみせる。


「こちらこそよろしく」


フェ―ベも返答する。


「さあ、コ―デリアさんもっ」


コ―デリアは頭を抱えるのを止めて、フェ―ベに近づく。


「よ、よろしくですわ……。ふ……」

「ふ?」


と、フェ―ベは面白そうにわざと訪ねる。


「フ―ちゃん……」


コ―デリアは顔を真っ赤にしてそう言った。


「よろしく。リア……」


フェ―ベは応える。


この後。フェ―ベと、コ―デリアは親友同然の関係になるのであった……。

そして、俺達は馬車に乗り《ディオ―ネ》に向かうことになった――。


◇◆◇◆


馬車に乗っている途中――俺はあることを思い出していた。

俺の正面にレアが座っている。


「なあ、レア」

「はいっ!」


レアは元気よく返事をする。


「前言っていた話だけど……」

「みさいるのことですかっ?」

「それっ。詳しくかせてくれないか?」

「勿論いいですよっ。えっと――」


俺はレアの話を聞く。


理由は分からないが、どうやらレアは俺が元々いた世界――、

現実世界の映像がレアの頭の中に浮かんだ事。


それと同時にミサイルの映像が頭の中に突然浮かんできたらしい。


「――という事ですっ!」

「そうか……ありがとうレア」


「はいっ!」


結局、どうしてレアが現実世界の事を知っているのか判らないままだった……。

そうだ。彼女にも聞きたいことがあったのだった。

勿忘草わすれなぐさの花の髪飾りを付けた魔王……フェ―ベだ。


「フェ―ベ。お前はどうしてそんなに強いんだ?」

「どうしてとはなんだハヤト?」

「いや、それはなんとなく……」


俺が現実世界で設定したことをフェ―ベにどうやって説明しようか……とか考えていると。


「“フォルト”」

「え? ふぉると?」


聞いたことのない単語だ。 新種のお菓子か?


「ああ。フォルトが私に力をくれたのだ」


お菓子がフェ―ベに力を……?

……いや、普通に考えたら人間の事か?


「それは誰だ?」


俺はフェ―ベに力を与えた“人物”は誰かと問いただす。


「……わからない」

「なんだそれ……?」


わからない? ますます疑問は深まるばかりだ。


「とにかく、フォルトを名乗る存在が突然私の脳内に直接声を掛けてきたのだ」

「存在? 思考に直接? 人ではないのか?」

「“人で無かったらなんなのだ”?」


現状俺達の中で一番強いであろう最強の魔王……フェ―ベは疑問符を浮かべる。


「いや、だから人がフェ―ベの元にやってきてフェ―ベに直接力を与えたのではなく……か?」

「……? だから思考に直接……」

「思考に直接……?」


俺は加賀美と、心で会話できることを思い出した。


フェ―ベは加賀美のような存在と話していたという事か?


「……ありがとう。なんとなく分かった」

「……そうか」


フォルト……か。フェ―ベに力を与えたソイツは何者なんだろうか?

加賀美のような存在だということは、俺と加賀美以外にも現実世界の人間がいるとか?

そんな筈はない……よな?


フォルトは俺達の味方なんだろうか? それとも……?


さっきのレアの話といい、今の話といい……謎は深まるばかりだな……。

後で加賀美かがみにも相談してみよう。

そうこうしてるうちに、馬車は《ディオ―ネ》にたどり着いたようだった――。

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