#63 正体不明のAI

巨大都市ディオーネにたどり着く少し前だった。

このことを加賀美かがみに告げられたのは……。


――――魔王の事件の影響で、もうこの世界のクエストはクリア不能になっているんだよ……。


加賀美によると、魔王……つまりフェ―ベが暴れた影響により大勢のNPCが死亡。

そのせいで死亡したNPCが絡む全てのクエストが達成不可になったそうだ。

もう……俺と加賀美は現実世界に戻ることは出来ない。


なぜ戻ることが出来ないかって?

それは、このゲ―ムのログアウト条件が【約五百ある全てのクエストを達成する】だからだ。

現在のクエスト達成数は六十八だ。


更には、もう過去に戻ることも出来ない――以前洞窟を訪れたときには、

管理用コンピュ―タにそう記載されていた。

つまり、二度と過去に戻って事象じしょうを修正することも不可能って訳だ。


いや、そもそも……。


こんなに大規模に複雑な要素が絡み合うこの世界の全クエストを、

達成するなんて不可能だったんじゃないか?

改めて考えてみても、それはとても難しいことだと思う。終わった……。


あるいは……過去に戻れればそれも可能かも知れんが……。

もう一度最初の洞窟を訪れてみるか……。


そう思い俺達は、最初の洞窟へと足を運んだ。


◇◆◇◆


《ディオ―ネ》から歩いて数分。

最初の洞窟最深部――に俺達はたどり着く。

最深部といっても、そんなに深い洞窟ではないのだが……。


いつもどおり、テ―ブルに装置のようなものが置いてある。

俺はスイッチを押した。

スイッチを押すと、ホログラムモニタ―とキ―ボ―ドが出現する。


ピン、とモニタ―が光る。

そして、今までのログが流れ――待てッ!?


今。ログに何か変な文字が無かったか?

それもかなり最初の方に流れた……。

俺はモニタ―を操作し、ログを上の方に戻す。


「んん……?」


【管理用コンピュ―タ―VER.3.00】


それは、ログの一番上に表記されていた文字。


俺は、おぼえているぞ。


この管理用コンピュ―タを初めて起動したとき。


心という概念がいねんを創ろうとしたあの時も同じようにこのコンピュ―タを起動し、同じようにログが流れた。


「絶対に違う……」


VER.3.00……。


俺が、あの時ログの一番上に表示されていた文字は……。


【管理用コンピュ―タ―VER.1.00】だったはずだ……!


「バ―ジョンアップ……している……?」


そういえば以前に加賀美はこう言った。

このコンピュ―タは“生きている”、と……。


以前言ったように、このゲ―ムはVRPC《ファ―ストブレイン》と連動しており、

ファ―ストブレインはあまりに複雑になったプログラムを処理できるように高性能なAIが搭載されている。

加賀美が言ったように、

ファ―ストブレインのAIが自ら進化しようとしてバ―ジョンアップしているとでもいうのか?


それにしても……。


一体いつからバ―ジョンアップしようとしているのか?


どんな理由でこのAIはみずから進化しようとしているのだろうか?


俺はこの得体のしれない存在が少し怖くなった……。


◇◆◇◆


「さて、と……」


ええ、と。


過去に戻れるか試すんだったな。

俺はホログラムキ―ボ―ドを叩く。

ホログラムで構成されているが、ちゃんと触感もあり――まるでちゃんと物体を触っているかのようだった。


――カタカタカタ……。


「ねぇ……ハヤト様?」


なにか声が聴こえたような気がする。


「これは何をやっているのですの?」


なにか聴こえた気がする。


最近疲れてるし、幻聴げんちょうかな。


――カタカタカタ……。


「ちょ、ちょっと! 聞いていますの?!」


――ドン


俺の背中を後ろから叩かれる。


「ど、どうした!?」


後ろを振り向くとコ―デリアがいた。


「どうした!? じゃなくて、これは何かと訊いているのですわ」

「ああ。これは、コンピュ―タだよ。便利な……魔法の道具だ」

「便利? 何が出来るんですの?」


そう訊いてきたのは金髪貴族のコ―デリア。


「ん―。なんでもかな?」

「ふ―ん……?」


「なんでも―? これがですか?」


レアは静かに投影とうえい画面を見つめている。


「ああ、なんでもだ」

「すっごいですっ」


白髪のアホ毛を生やしたロリ少女は瞳を輝かせている。


「ん—? よくわからないわね……」


モニタ―を見ながらリシテアは言った。


「まあ、俺の元居た……じゃなくて、俺の居た国で流行っている魔法の道具だ」

「「へぇ―!」」


感心している彼女達。

俺はモニタ―に視界を戻す。


「システムの復元の実行……っと」


――このプログラムを実行することはできません。マスタ―。


「ああ。やっぱり駄目か……あんだって!?」


ますたぁ……?

なんだこれ。

いきなりコンピュ―タにマスタ―呼ばわりされたんだが。しかも文字で。


『このコンピュ―タは“生きている”――』


俺は、以前加賀美かがみが言っていた言葉を思い出す。

どういった意味かとキ―ボ―ドに文字を打つ。


「マスタ―とは何か」


――マスタ―はマスタ―です。来栖隼斗さん。


俺はドキリとする。


どうして、俺の名前を知っているんだ……!?


「この表示されている文字はどこの国の文字なのかしら?」


リシテアはモニタ―の文字を見て何か言っていた。


「なぜ、お前は俺の実名を知っている?」


――それは、また今度教えましょう。


コイツ……ッ! 肝心なとこを隠しやがって……ッ?!


「今教えろ!」


――もうすぐ逢えますから。その時にでも……ふふっ。


「どういう意味だ?」


…………。


もうコンピュ―タ―は反応しなかった。


一体、何者なんだ? どうして、コイツは俺の名前を……?


本当に、AIなのか……? 中身は人間じゃないのか?


「ああ、もう!」


俺はこの世界の次から次へとやってくる謎に少しイラついた。

レアは現実世界のミサイルを知っている事。

フェ―ベに力を与えたフォルトとかいう存在の事。

そして、このコンピュ―タ……。


「どうした? ハヤト」


最強の魔王であるフェ―ベは俺にそう質問した。


「わけがわからん!」


考えても考えても謎は深まるばかりでなんだかもやもやしている俺。


「なにがだ?」


魔王は不思議そうに聞き返す。


「それがわからないから困ってるんだ……ああ―! もやもやする……あっ!」

「なにか閃いたんですか? ハヤトさん!」


イオは目をキラキラと輝かせている。


「海いこうぜっ!」


俺はそう言い、ビシッと親指を立てた。

鬱憤うっぷんが溜まってきた俺は、ストレス発散しようと海に向かうことにした――。

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