#54 とてつもない勘違い

俺は魔法結晶投影システムを使って、

《ジュピタ―》と《ディオ―ネ》が全体に収まるよう表示させる。


「なぜここに五百人の騎士を集めたか説明しようか」


俺は適当に格好つける。


「はい、お願いします」

「現状俺達はとても危機的な状況に置かれている」


 騎士達は危機的状況という言葉を聞いてざわざわしだした。


「どう危機的なのですか? 勇者殿」


「えっと……ここに《ジュピタ―》という街がある」


俺は投影画面を拡大させ、《ジュピタ―》を拡大させる。


「ありますね」


と、騎士の一人が言う。


「現在、この街は“魔王”を名乗る存在に支配されている……だったはず」


魔王という言葉に驚く騎士達。


「“魔王”は“魔王軍”を結成し、ここ――《ディオ―ネ》まで侵攻している……そうだ」


俺は投影画面を使い、《ジュピタ―》から《ディオ―ネ》までに矢印を引いた。


「魔王軍だって?」

「魔王? それは本当ですか?!」

「この街に向かってきているのか!?」


騎士達は慌てふためく。


本当は俺が狙いっぽいのだけど……というのは黙っておくことにした。


「だから魔王軍を迎撃する為と、この街を防衛する為の騎士達が必要というわけなんだ」

「……勇者殿」

「な、なんだ?」


なにか問題があったかな?


「魔王軍の詳細な戦力はどれくらいでしょうか? 」

「せ、戦力は……」

「詳細の述べていただかないと、我々は動けません」


『来栖。適当に誤魔化すんだ』


加賀美から俺の思考に声が入る。


「……《ジュピタ―》で冒険していた俺の仲間千人が瞬殺されたんだ」

「なんですって!?」


騎士達は驚く。


「伝説の勇者の仲間が……千人も……」


 騎士たちは勇者の突然の発言に驚愕きょうがくしているようだった。


「えっそうなの?」

「そんなの初耳ですわっ」

「可愛そうなハヤトさん……」


リシテアとコーデリアとイオの三人はツッコミを入れる。

い、今は黙っていてくれ……! という願いも叶わず……、


「お兄ちゃんの仲間って千人もいたのですかっ?!」


レアがトドメの一撃を入れる。

て、適当にごまかすしか無い……!


「……そうだ。だから君たち全員の協力が必要なんだ……

 みんなで俺の仲間の仇を取って欲しい。頼む……」


俺は悲しそうな表情を見せてから両手を合わせ、悲願のポ―ズを取る。


「……わかりました! そういう事なら是非我々騎士団に任せてください!」


◇◆◇◆


騎士の言葉にホッとする俺。

適当なこと言ったけれど……、

多分魔王も魔王軍も相当強いだろうし、これくらいハッタリかましてもいいだろう。


「話を戻そう――《ジュピタ―》に攻める騎士を三百人。残り二百人をこの街の防衛に回したい。異論はあるか?」


さっきからカッコつけて色々言いまくりだが、ハッキリ言って心臓バクバクである。

正直言って、こういう人をまとめる役は嫌いだっ……。


「異論はありません。話を続けてください」

「じゃあ次、情報によると、魔王軍は《ジュピタ―》から真っ直ぐこの街に向かってきているそうだ」

「真っ直ぐ……ですか」


「そうだ。だから俺達と攻める側の騎士も真っ直ぐ《ジュピタ―》に向かい、

 迎撃、敵地まで侵攻する」


「成る程……」


騎士達はうなずく。


「それで、攻める側が無事ジュピタ―まで到達した場合の話だけど」


俺は続けて言った。

えっと……俺の記憶が正しければ……。

投影画面を拡大しようと試みる。


すると、《ジュピタ―》の街の詳細までがはっきりと映し出された。

この投影結晶装置……ここまで出来るのか! ほとんどゲ―グルマップだ!


「《ジュピタ―》には巨大な城がある。《ディオ―ネ》に引けを取らないレベルの巨大な城なんだ」


さらに続けて言う。


「城は七層に分かれていて、上に登っていくほど豪華な作りになっている……はずだ」


つまり? と騎士は質問する。


「……恐らく、“魔王”は城の最上層に潜んでいる可能性が高い。

 王だから城の一番上の層にいると考えるのが普通じゃないか?」


俺は適当に推測し、それらしい言葉を並べた。

 

「成る程。王は城の最上階に居ると」

「その通り。そして、階層を登るごとになんらかの仕掛けが施されていると考え

 てもいいと思う」


「仕掛けとは?」


騎士の一人は質問を投げかけた。


「罠や強大な魔物だな」

「罠や魔物に用心するべきという事か」


魔王というくらいだ。罠や魔物が用意されていても不思議ではないからな。


「ああ、そして俺の仲間がこの城の外側の地下一階にいるんだ。俺達はまずそこに向かおうかと思う」


「勇者殿の仲間の一人がそこにいらっしゃるのですね。分かりました。

 我々はどうしたらいいのでしょう?」


騎士たちは俺の回答を待っていた。


「さっき言った“城内部”の侵攻を始めてくれ。俺達はその仲間を助けたらすぐに合流するよ」

「わかりました。《ディオ―ネ》を防衛する側はどう致しましょうか?」


「えと……奴らがどこから侵入してくるかわからない。

 だから街の全方位を監視していてくれ。何かが見つかったら報告し合うこと! 以上!」

「……話は以上でしょうか?」


なにも問題はない……ハズだ。


「ああ。終わり……でいいよな? みんな準備をするぞっ!」

「ハッ!」


「偉大なる勇者に敬礼をっ!」


騎士達は俺に敬礼をする。

いや、そこまでされても反応に困るんだが……。


「ああ、どうも……」


緊張するからヤメてッ!


その後、騎士達はぞろぞろと解散していく。

みんな準備に向かったのだろうか。


ブリ―フィングってこんなのだっけ?

何故か勝手にまとまったけど……。まあいいや。


「素晴らしい作戦会議だったわよ。ハヤトくん!」

「さすがはハヤトさんです!」

「格好いいぶり―ふぃんぐでしたっ! ぱちぱちぱち」


リシテアとイオとレアは素直な感想を漏らす。


「す、素敵でしたわ! ……って嘘ですわっ! ハッ! 本当は素晴らしかったですっ……間違えましたわっ!」


一人だけ素直では無かったが。


「よし。……俺達も準備を始めるぞッ!」

「「はいっ!」」


待ってろよ《フェ―ベ》……。

魔王軍を殲滅せんめつして、今すぐ助けてやる――――!

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