#47 魔王軍襲来

倒れたままのレアを雷のサタ―ンの宿屋のベッドに横にさせていた。

そしてそれをじっと見つめる俺達。


「っ……んっ……」


レアは寝息を立てているようだ。


その寝息を聴いた俺は一安心した。

しかし……その息はとても苦しそうだった。


「レアちゃん……」


リシテアは心配そうにレアを見つめている。


「大丈夫……かしら……?」


コ―デリアは横になっているレアを心配そうに見つめている。


「大丈夫ですよ! レアちゃんはすぐ目覚めます!」

「そうだといいけれど……」


本当の妹みたいに思っているリシテアが一番心配しているようだった。


◇◆◇◆


「んっ………」


閉じていた彼女の目がゆっくりと開いていく。


「レア!」

「レアさん!」

「……ほっとしましたわ」


レアは以外にも倒れてから一時間程で目を覚ました。


「レアちゃん! 目が覚めたのね!」


「…………」


レアは沈黙していた。

暫く寝ていたからか意識がはっきりしていないようだった。


「私……私っ……もう目覚めないのかと思ってっ……!」


リシテアは泣いていた。

レアはベッドから起き上がる。


「…………。お姉ちゃん……心配させてごめんなさいっ」


意識がはっきりとしたのか、レアはようやく喋る。

レアとリシテアは互いに身を寄せ抱き合っていた。

しばらくした後、二人は離れる。


「みなさんも、心配させてごめんなさいっ」


レアはぺこりと頭を下げる。


「別にレアが謝ることじゃないよ」


そうだ、別にレアは何も悪くない。


「……そうですわ。あのコウモリをもっと早く倒せなかった、わたくしにも落ち度がありますし」

「ですね! 謝ることじゃないです!」


コーデリアとイオもレアに優しく言葉をかける。


「みなさん……」


レアは目をうるうるさせていた。


「……さて、レアも目覚めたことだし――」


俺はレアが目覚めたのを見て安心する。


「――冒険の再開ねっ!」


「「お―!」」


俺達は宿を出る。


それにしても――あの《ライトニングバット・モンスタ―》の正体は何なのだろうか?

以前戦った樹の怪物――《ブレイズウッド・モンスタ―》と関係があるのか?

なぜ喋るんだ? 何者かがあのモンスタ―を操っているのか?

レアを襲った赤い光はなんだったんだ? 


考えれば考える程謎は深まるばかりだったので俺は考えるのをやめた。


◇◆◇◆


そして――《ライトニングバット・モンスタ―》を倒し、

レアが目覚めてからゲ―ム内時間で約ニヶ月が経過した後……。


この欠陥だらけのゲ―ムを始めてから今日でちょうど半年になる。

ちなみに、“心”という概念がいねんを創ってから四ヶ月だ。


あの後は特に変わったこともなく俺達は冒険をしていた。

俺達パ―ティメンバ―のレベルは最高値の50まで上昇したから、

《ネ―ムド》相手でも簡単には殺られる心配もなくなっていた。


そして俺達はディオ―ネの噴水広場にあるベンチに座り、

屋台で買ったパンを食べようとしていた。


水色の変な虫のような形をした大きめのパンだ。

見た目は最悪だが、この街では評判がいいらしい。

俺はパンをちぎり口に運んだ。


――ぱくっ


「んぐんぐ……美味い!」


食べてみると、意外と美味かった。

外はカリカリで中はふんわりとしている。

甘すぎるわけでも無く、だからといって味がないわけでもない。

とても絶妙なバランスだった。


しかし――この見た目で損をしている気がする。

水色のパンなんて食欲が失せるし、そもそも何を混ぜたらこんな色になるんだ?

それに、なぜ虫の形をしているんだろうか。屋台の人の趣味か?


「ぱくっ! んん〜おいしいですっ!」

「もぐもぐ……見た目は最悪ですけれど、とても美味ですわ!」


「イオ、こんな美味しいパンを食べたことありませんっ!」

「この食感と味……やみつきになるわ!」


彼女たちの評判もいいらしい。


「ところでですね、ハヤトさん!」


イオはキラキラした瞳をしている。


「なんだ?」

「次はどこに向かうのでしょう?」

「冒険のことか?」


「そうです! そういえば最近あんまり新しい場所に行っていない気がします!」


そういえば、クエストの消化に集中していたから、あまり新しいエリアに行っていなかったな。

そろそろ次の場所に向かってもいいか。


「そうだな……」


俺はメニュ―画面からマップを開き、いい場所はないか探す。

色んなエリアや街の名前が記載されている。

まだまだ行っていない場所があるな……。


「よし、ここに――えっ……?」


俺はある事を思い出し、手に持っていたパンを地面に落としてしまう。


「ハヤト様、パンを落とすなんてうっかりしすぎですわ」


そんな馬鹿な……信じられない……。


「ハヤトくん? どうしたの?」


今まで緊迫する状況が多かっただろうか……。


なぜ……。


俺達が今から向かおうとしている《ジュピタ―》という街……。


この街の名前――、


……この街にはがいた?


俺は何をした?


――頭の中でノイズが走る。


『俺の仲間になるNPCはみんな美少女にしておいたし

 登場するはずのが――俺の仲間になるようにも設定した』


何故だろう……俺はこのタイミングで、

のことを思い出していた。


いる……!」

「ハヤトさん?」

「もう一人ってなんですの?」


「俺が設定したヒロインはもう一人いる――――!」


そう、だ。

完全に忘れていた。

おかしい、忘れるはずがない……。

俺の記憶デ―タにもなにかエラ―があるのか?


《ジュピタ―》に十年間冤罪えんざい牢獄ろうごくに囚われているという設定の五人目の少女……。

本来なら、イオが仲間になった後すぐに仲間にする予定だった筈だ。


彼女――《フェ―ベ》はまだ囚われているんだろうか?


“心”という概念が創られた後も牢獄の中でずっと耐えているんだろうか?


だとしたら――それはとても苦しいことだ。


「今すぐ助けないと!」


俺は立ち上がる。


『来栖! 大変だっ!』

「なんだ……?」

『“魔王軍”を名乗る連中が《ディオ―ネ》まで攻めてきている!』

「なんだって?!」

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