#40 正体不明のモンスター

俺達は《ディオ―ネ》に戻ろうとする――


来栖くるす。待て』


突然、加賀美かがみから声が聞こえた。


『なんだ?』

『ああ、ここから隣接してるエリアに《ヴィ―ナス》というエリアがあるだろう?』


『……!』


……そういえば結構前に《カロン》と《ヴィ―ナス》が融合して消滅した時があったな。

またあの事件が起きてしまったら《ヴィ―ナス》付近のクエストや、

あの時同時に消滅した炎のマ―キュリ―も消滅してしまう……。


そうなるとクエストが消化できなくなる。

それに、《マ―キュリ―》はイオに初めて会った大切な場所でもある。


――なんとしても防がなくては。


『気づいたかい?あのエリアにある樹を破壊したほうがいい』

『アレを破壊すれば不具合は無くなるのか?』

『そうだ。間違いなく《カロン》にあるはずの樹がエラ―を起こしている』

『わかった、今から向かう』


「みんな、聞いてくれ――」


俺はみんなにあのときの事を話した。

――そして《ヴィ―ナス》に向かうことにした。


「着いたぞ……」


あちこちにマグマが流れているエリア《ヴィ―ナス》にたどり着く。


「あつッッ! 熱い! ですわ!」

「ここに来るのも久しぶりね〜」

「《ヴィ―ナス》久しぶりですっ! この先でイオさんと出会ったのを憶えています!」


「…………」


イオはさっきから俯いたままだ。


そして、エリアの中央――に巨大な樹が一本生えていた。

地面から一本生えてきているようだ。

周りにはマグマが見える。


前ここに来たときと明らかに違ったことがあった。

それは、以前ここに来たときは樹はいっぱい生えていたが、今回は一本だけだった。

前回ヴィ―ナスに来たときよりも早く来たことが関係しているのか……?


『加賀美、あの樹を伐採すればいいんだな?』

『そうだよ、このマグマのエリアに樹が――君が間違えて置いたんだろう?恐らくあれがその樹だ』

『わかった』


俺達は樹まで近づく。


「この樹を破壊すればいいんですの?」


「ああ、そうだ」


俺はさらに歩み寄り、樹に対して剣を振るう――。


――ザシュ


ん?


――ザシュ


剣は樹にキズが付くだけで、まったく切れない。


「この剣じゃ切れそうにないな……」


それどころか、よく見ると切った部分ののキズが徐々に回復しているように見えた。


「ハヤトくん! 私も手伝うわ」

「私も手伝います。ですわ」

「わっわたしもっ」


「……みなさん、私に任せてください」


イオは魔法スキルを詠唱する。


「……《ヘルフレイム》!」


ぼうっとイオの剣から火球が発射される――あれ?


なんかあの火球ちっちゃくね? 結構な上位魔法じゃなかったっけ?


――ゴッ


イオの剣から放たれた火球は樹に命中するも、大した威力ではなかった。


「……?」


イオは頭にハテナを浮かべている。


「どうしたイオ?」

「わかりません……」

「……まあ、そんなときもあるさ。イオは下がってろ」


俺は樹に対して剣を振るおうと――、


――ゴゴゴゴゴッ!


「な、なんだ!?」


剣を振るをうとした瞬間、地面が大きく揺れる。


ま、まさかまたこの世界の消滅が開始されようとしているのか?

だが、どうやら俺の考えていた事ではなかったようだ。


――にゅる


樹から手足が生えてきたのだから。


◇◆◇◆


「きゃあ!」


「な、なんですの!?」


レアとコ―デリアは突然生えだした手足に驚く。


「なっ!?」


腕だと思われるある部分は太い枝で構成されており、

手の部分からは細い枝のような物が六本生えている。


そして、樹の上の方からつり上がった眼と口が現れる。

上を見ると緑色だった葉っぱが燃え上がり、炎のエフェクトが見えだす。

そして、HPゲ―ジと名前――《ブレイズウッド・モンスタ―》と表示される。

更には、地面から小さな木のモンスタ―が合計5対出現する。


……なんだコイツは?

“ネ―ムド”じゃない?

雑魚モンスタ―にしては随分とデカイな。


いや、そもそも……。


「俺はこんなの設置していないぞ……」

『どういう事だ?』


加賀美が聞いてくる。


「俺がこのエリアに間違えて設置したのは樹オブジェクトであってモンスタ―じゃない!」

『なんだって? 忘れているだけじゃないのか?』


樹の怪物は触手のようにうねる枝を器用に操り、俺に攻撃を仕掛けてくる。

俺は剣で伸ばされた木の枝を防ぐ。


――カン


「ぐッ……!」


俺のHPは僅かに減る。


彼女たちも武器を構え、樹の怪物と戦おうとするが俺は制止する。


「みんなは戦わなくていい! コイツは危険だ」


「で、でもっ」


レアは杖を構えたまま少し焦っている。


「俺一人でなんとかするから離れてろッ!」


イオ以外のメンバ―はレベルが低すぎるし、

そのイオも魔法を使えないようだしな……


「わかりましたっ死なないでお兄ちゃんっ!」

「任せろ!」


彼女たちは離れていく。


とは言ったものの……。


「さて、どうするかね……」


樹の怪物の周りには小さな木のモンスタ―が五体。

なかなか面倒だな……


樹の怪物に関してはさっき剣で防いだ時にあまりHPが減らなかったから、

大した敵では無さそうだが。

だが、怪物含めて六対一だからな。


なんかまとめて相手を葬る方法とかないか……?


…………そうだ。


加賀美をインスト―ルしてレベルが上った時に覚えたばかりの技を使ってみるか。

木の雑魚モンスタ―がわらわらと近づいてくる。


「早速現れたばっかりで悪いが、消えてもらうぜ……ッ!」


俺は剣を前に突き出しスキルを詠唱する。


「《エクス―――プロ―ジョン》!」


――ドカ―ン!


突如――俺の正面に激しい爆発が起こり、大きな煙が立つ。


煙が静かに消えていく。すると、残った敵は樹の怪物だけとなった。


樹の怪物のHPは残り六割となる。


「さて、と。後はお前だけか」

「加賀美。お前のスキルと武器、使わせてもらうぜッ!」


「ウェポンイクイップ――《レ―ルガン》ッ!」


俺の剣は手元から消滅し、替わりにレ―ルガンが手元に出現する。

銃を構えるポ―ズを取りスコ―プを覗く。よし、タ―ゲットロックオン!

この距離なら外すまい!


そのままトリガ―を引く。


「これでッ――!」


決まったッッ!!


――カチ。


発射されない。


「あれ?」


――カチカチ。


「おい! 弾が出ないぞ!」


『そりゃあ安全装置を解除しないと撃てないよ』


「は?」


――ドシャアアン


カチカチしている間に樹の怪物に手で叩き潰された……。


◇◆◇◆


しばらくした後、俺はふらふらと起き上がる。


「ぐっ……うっ……」


俺はUIを確認する。残りHPは六割余っていた。


起き上がったところの逃すまいと更に樹の怪物から追撃が来る。


「――ッ! 《シ―ルド》!」


――ド―ン!


「来栖! 《テレポ―ト》で離れろッ!」

「……そうか! 《テレポ―ト》!」


俺はテレポ―トしたい位置を指定する。

すると、徐々じょじょに俺の姿が消えていく。


――シュン。


俺は樹の巨人の後ろ五十メ―トルに移動する。


「安全装置……そういや映画とかでそんなのあったっけ?

 ……って! なんでそんな機能をゲ―ムに持ち込んでるんだよっ!」

『そっちのほうがリアリティがあって面白いだろう?』


なにがリアリティだ……!


「意味分からねえよっ!」


俺は文句を言いつつレ―ルガンの横に付いてあるスイッチを反対側にする。


「よし! 安全装置セーフティ解除……ッ! 今度こそッ!」


タ―ゲットロックオン……ッ! 発射!


――ヒュン


高速で放たれた弾丸は目標へ直撃する――!

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