#41 違和感の正体

高速で放たれた弾丸は煙をあげ、《ブレイズウッド・モンスタ―》の胴体に風穴が開く。


「やったか?!」


俺はの怪物のHPがゼロに近づいていくのを確認する。


「よし……」


俺はきびすを返し、樹の怪物から離れる。


来栖くるすッ! まだヤツは生きている!』

「なにッ!?」


――にゅるん


「……ッ! 《シ―ルド》!」


俺は咄嗟とっさに危機を感じ、スキルで“相手の攻撃”を防いだ。

そのまま樹の怪物がいた方向に向き直す。

樹の巨人はケラケラと笑っているように見える。


――えっ!?


「風穴が……治ってる!?」

『それだけじゃない。あの化物のHPをよく見ろ』

「HPが……回復してる?!」


樹の怪物のHPが四割まで回復していた。


『再生能力持ちだろうね、ヤツのHPを見ると徐―に回復しているようだ。』

『更に、HPがゼロに近づけば近づくほど回復量が増える仕組みのようだ』


「な、なるほど……」


だからさっき切り倒そうとしていたときにキズが回復したのか……


「なら――回復が追いつかない速度で攻撃を叩き込めばいいだけだ……!」


――ヒュン。


――ズシャ―ン! 


よし! 命中した!


だが……、


「な……に……?」


怪物は触手のような枝の右腕にあたる部分を盾のような形に変形させ、銃弾を防いでいた。

おかげで、ヤツのHPは殆ど減らずそのまま減った分を回復していった。


「コイツ……銃弾が飛んでくるのを理解したというのか!?」


これも、“心”という概念を創ったからだというのか? それとも……?


◇◆◇◆


「来栖! 次の攻撃が来るぞッ!」


触手を伸ばし、こちらに攻撃を仕掛けてくる。


――スッ。


俺は触手をサイドステップで回避する。

くそっ! 銃弾を防がれてはダメ―ジが通らない!


どうすれば……ッ!


『来栖。落ち着け!』

「落ち着けって、どうすればいいんだよ! 銃弾が防がれたらダメ―ジが通らない!」

『聞け。さっきヤツは腕にあるを盾なようなものに変形させ防御した。

 だから、枝部分をへし折ればもう変形などできないはずだよ』


「そうかッ!」


考えている間にも触手が俺を狙って攻撃をしかけてくる。

俺はサイドステップで避けてから、ほぼゼロ距離で枝に向かってレ―ルガンを撃ち込む。

――この距離なら枝も折れるだろッッ!


「吹き飛べ!」


ぐしゃりと枝が真っ二つに折れ、折れた先が吹き飛ぶ。


『…………!』


ケラケラと笑っていた樹の表情が驚きの表情に変わり、更に怒りの表情に変貌する。

感情の起伏が激しいヤツだな……。


『来栖。まだもう片方の腕が残っているぞ』

「分かってる!」


怒った樹の怪物は残った触手をこっちに伸ばしてくる。


「もらった!」


俺は近づいてくる触手に対してレ―ルガンを撃ち込んだ。


――ズシャ―ン!


ころん、ともう片方の腕も吹き飛んだ。


「これでもう――防げないだろッッ!」


俺はトドメの一撃を食らわそうと、レ―ルガンを構え――。


「これでッ! 終わりだァ――ッ!」


――ヒュン


ズシャ―ンと物凄い爆音が響く。


そして、今度こそヤツのHPはゼロになり、樹の怪物は微動だにしなくなった。


『…………』

『ハ、ハ、ハハ、ハヤト……』


「――!?」


樹の怪物は――《ブレイズウッド・モンスタ―》は死に際に俺の名前を叫んだ。


『キキキ、キサササ、マデハ、ワ、ワワタ、シニ、カ、カテテ、ナイイ』

「ど、どういう意味だ……!」

『オオ、オボエ、テテ、テ、オケ……』


最後ニ勝ツノハ私ダ――。

そして、の怪物は静かになった……。


◇◆◇◆


「な……んだ……? さっきのは……?」

『来栖。君は喋るモンスタ―を設定したのか?』

「いや……そんな設定をしたモンスタ―はいない……」


喋るモンスター、一体何者だ……?


『そう……か……』

「あれはなんだ?! ……もしかして最近感じる違和感と関係があるのか!?」


俺は喋るモンスタ―という存在に動揺どうようしていた。


『違和感? なんだいそれは?』

「知らないのか? 人が多い場所で視点を動かした時に何かの違和感を感じる。あれはなんなんだ?」


加賀美かがみはふむ……と言いながら続きを喋る。


『視点を動かした時? ……ははっそれは簡単な事だよ来栖。

 そしてこのモンスタ―とは一切関係がない話だ』

「簡単な話? どういうことだ?」

『説明するよ。君が違和感を感じる原因はこの世界にを創ったからだ』


続けて加賀美は喋る。


『心という概念はこの世界に存在する全ての生き物に反映された』

『その膨大ぼうだいなデ―タ量は……想像も付かない量になっているはずだ』

「膨大なデ―タ量……」


加賀美は話を続ける。


『“心”という概念が存在しなかったこの世界にそういった概念を導入したらどうなるか』


心という概念。世界を覆しかねない心というデ―タ……。


『……あとはわかるだろう?』

「……俺の視界に映っている映像だけがデ―タが処理される?」

『いや、正確には違う。視界に映っているデ―タが高速に処理されるんだ』


「高速に処理?」

『そうだ。君の視界外の生き物のデ―タは大まかに動いている。

 そして、視界に入った瞬間に複雑な処理が行われるって訳だ』


加賀美は落ち着きながら続きを喋る。


『だから、人や動物などの生き物が多く存在している場所で君が視界を移動させた時に……』

「……視界に映っているデ―タを処理するから重くなり、違和感を感じたって訳か」

『そういうことだ』

「成る程。違和感の正体は掴めた。……もう一ついてもいいか?」


俺はずっと気になっていた質問を加賀美にした。


『このモンスタ―のことかい?』


加賀美は倒れている《ブレイズウッドモンスター》を見つめる。


「そうだ。コイツは一体……」

『それは分からない……だけど』

「だけど?」

『僕は言ったハズだよ。“心”という概念を創ったらどんなエラ―を引き起こすか分からないってね……』


心という概念……ここまで影響を及ぼすのか……?


「…………」


『来栖。もう後戻りは出来ない。この先どんなことが起ころうとしてもね……』

「……分かってる」


『最後ニ勝ツノハ私ダ――』


あの言葉の意味は一体……? 戦いに勝ったのは俺のハズだ……

またヤツが現れて俺に挑んで来るのか?


そもそもアイツは何者なんだ?


……俺はとりあえず考えるのをやめて、彼女たちのところへ戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る