#36 生きているAI

加賀美の真後ろから巨大な火球が放たれる。


――ドカ―ン!


爆発が発生し、煙が巻き起こる……、

そして、ゆっくりと煙が消えていく。


「ぐっ……」


煙が収まっていきうっすらと人影が起き上がるのが見えた。

加賀美はまだ生きているようだ。

HPを見るともうミリしか残っていなかった。


そして、加賀美かがみに接近する赤い髪と瞳の少女。


「あなたはどうしてハヤトさんに危害を加えるのですか?!」


イオは加賀美にトドメを刺そうとする。


「イオ、よせ! 彼には生きて貰わないといけないんだ!」

「それに! 人を殺めたら取り返しの付かないことになるぞ!」


イオの剣はピタリと止まる。


「俺の勝ちだ加賀美……話してもらうぞ」

「ふふふ……なるほど。五分が経過したのか……」

「お前が俺の首元に剣を突きつけている時には、もうイオがお前の後ろにいたんだ」


「無駄話はやめてさっさと君を殺しておくべきだったね……僕の負けだ……」


加賀美は両手を上げ降参のポ―ズを取る。


「さあ、話してもらうぞ。過去に戻るってどういう意味なんだ?」

「それについては《最初の洞窟》で話そう……。

 僕は少し休憩してから行く。君たちは先に行っていてくれ」


「……何か企んでいるんじゃないんだろうな?」


加賀美は両手を上げたまま手を左右に動かす。


「いや、何も企んでいないさ。負けは負けだからね」

「わかった。イオ、行こう」

「はいっ」


そして、俺とイオはバ―ニングホ―スに乗り《最初の洞窟》に向かった。


――ドドドドドドドドドドドド!!!!!


「ちょ、ちょっとその馬速すぎないか!?」


加賀美が遠くで何か言った気がしたが、まあいいや。


◇◆◇◆


最初の洞窟内部に到着する。机の上にはが設置してある。

スイッチを押すとホログラムのモニタ―とキ―ボ―ドが投影される仕組みだ。


「あの男の人と話して一体どうするつもりなのですか? 過去に戻るって……?」

「ああ、アイツは過去に戻る方法を知っているらしい。

 過去に戻れれば彼女たちを助けられるだろうと思ってな」

「彼女たち……?」


イオは頭にハテナを浮かべている。


「ん?イオは彼女たちの記憶がないんだっけ?ほら、リシテアとレアとコ―デリアだよ」

「リシテア……レア……コ―デリア……」

「彼女たちは色―あって今はもう居ないんだ」


俺はイオに説明をした。


「その人たちは、ハヤトさんの“仲間”だったのですか?」

「そうだ、イオも含めて全員“仲間”だった」

「そう……ですか……」


イオはなぜか黙っている。


「イオ? どうしたんだ?」

「その人達は本当に必要なのですか? 別に過去に戻らなくても――」


イオはうつむいている。


「――……いえ、なんでもないです」


「そ、そうか?」

「はい、それよりも――」


コツ、コツと足音が近づいてくる。

そしてシルエットが段々と近づいていき……。


来栖くるす、待たせたかい?」

「加賀美か。……過去に戻る方法を教えてもらうぞ」


そう言うと加賀美は、


「そう焦らなくても教えるさ。とはいっても方法は簡単なんだけどね」


そうあっさりとそう答えた。


「簡単に戻れるだって? どういうことだ?」

「洞窟に呼んだ理由はわかるだろう?」


俺は投影装置を指差す。


「……このコンピュ―タだろ。だが、このコンピュ―タは殆どの変更を受け付けなかったぞ?」

「そうだね。でも受け付けないのは“ゲ―ム内のシステム”を弄ろうとしたからだ」


ゲ―ム内のシステム?


「……どういう意味だ?」

「このゲ―ムはエラ―だらけだ。何もかもがあやふやで出来ている」


続けて加賀美は言う。


「エラ―で構成されている世界をいじろうとしても上手くいくわけがないだろう?」

「ああ。俺も色々試したけどだめだった」

「だから、このコンピュ―タではこの世界を弄ることは基本的には受け付けない」


加賀美は管理用コンピュータがある方向を見つめる。


「だが、このコンピュ―タは“心”という概念がいねんにとても興味を持ったようだ。

 だから君の“心”というキ―ワ―ドに反応した」


興味を持った? コンピュ―タが?


「ま、待てよ! それだとこれにAIが搭載されているってことか?!」


俺はコンピュ―タを指差した。


「その通りだよ、来栖。このコンピュ―タは

「生きている!? そんな馬鹿な! どうして俺が設定しただけのハ―ドウェアに……?」

「この“管理用コンピュ―タ”は、

 VRPC“ファ―ストブレイン”のシステムと連動しているだろう?」


加賀美はコンピュ―タを見つめる。


「ん? そうだな?」

「最近のPCはAIが搭載されているだろう」

「な……に……?」


確かに、ファ―ストブレインには複雑な処理を行うためにAIが搭載されている……。


――まさかそのAIがこの世界に興味を持っているという事か……!?


「まあこれは僕の推測だけどね。まあこの話はキリがないから少し話を戻そうか」

「…………」


俺は黙って加賀美の話を聞くことにした。


「さて、過去に戻る方法だけど――」


過去に戻る? そんな方法が本当にあるのだろうか……?


「――エラ―だらけの世界を弄るのは不可能だ。このAIが興味を持つこと以外はね」

「ああ」

「だから、を弄ればいい訳だよ。来栖」


「……? もっと分かりやすく説明してくれ!」


「充分分かりやすいと思うけどね……まあいいや。続けるよ」


加賀美は続ける。


「さっきも言った筈だけど、

 この“コンピュ―タ”はファ―ストブレインのシステムと連動しているんだよ」

「……すまん、だからなんなんだ?」


加賀美は話を続ける。


「来栖、君はVRPCをよく使っているだろう? この世界に来るくらいだからね」

「は?」


どうして俺がVRPCを使っているかどうかの話が出てくるんだ?

俺のことをからかっているのか?


「まだ分からないのか? 君はVRPCのシステムに不具合が出てきたらどうしてるんだい?」

「……とかか?……あっ!」


――昔からPCには“システムの復元”という機能がある。

復元ポイントを作成すると、作成した日時にシステムがいうものだ。

主にPCに不具合が生じた時に使う機能だ。

また、復元ポイントは自動で作成されるときもある。


「PCって言うものは昔から不具合がよく起きるもんだから困ったもんだよねぇ……」


加賀美はあっさりとそう告げた。


「い、いや待て! 別に現実世界でシステムの復元を行っても時間が戻るわけじゃないだろう?!」

「ああ。“君”自身は戻らない。だけど今の“君”は本当に“君”なのか?」

「なんだその哲学みたいなのは?」


コイツは回りくどい言い方が好きなのだろうか?


「……違うよ。“来栖隼斗くるすはやと”は戻らない。だが、デ―タである“ハヤト”は戻ることができるってことだよ」

「なっ……!?」


俺は息をするのも忘れて加賀美の次の言葉を待った。


「そう――この世界でならが可能だということだよ……!」

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