#35 電磁加速砲《レールガン》

――ヒュウウウ……


砂嵐の音が聞こえる……

この砂嵐は止まないのだろうか?

などと考えながら俺は防御態勢を取った。


「《シ―ルド》!」


俺は魔法の盾を作り出す。

とりあえず被弾して、相手の位置を探り当てるしか無い……ッ!


――ズシャ―ン!


「ぐっ!」


俺のHPが一割減った。

被弾し、前にスライドする。

前にスライドしたということは、加賀美かがみは後ろかッ!


「そこかッ!」


俺は防御態勢たいせいを解き、後ろに振り向くと同時に剣を構え全力でダッシュする。


――ヒュン


また、銃弾が耳元をかすめる。

なぜこの砂嵐で視界がさえぎられているのにも関わらず加賀美かがみは俺の位置を特定できるんだ?

加賀美の銃か装備品にタ―ゲットの位置を特定できる機能があるってことか?


……このヒュンという音、本当に銃の音か? かなりの弾速じゃないか?

銃よりももっと高音のような気がする……いや、銃の音なんて映画でしか聞いたこと無いけど。

この音……現実世界のネット動画で聞いたような?


「《シ―ルド》!」


――ヒュン、ヒュン


俺はスキルを発動させて防御態勢を取る。

クソっ!このままじゃ《シ―ルド》の使いすぎでMPが切れて終わりだ!

どうしたらいい?せめてこの砂嵐が収まれば――


――ズシャ―ン! ズシャ―ン!


ニ発被弾し、俺のHPはニ割削られる。今度は左に俺の体が滑っていく。

……左? そうか! 奴は《テレポ―ト》スキルで右に移動したんだ。


というか《テレポ―ト》は後何回使えるんだ?

スキルなら必ずMPが切れるはずだ。


そしてこの音……やはり聞いたことがある……新型の兵器の……あっ!

俺は防御態勢を取りながら加賀美が使ってきている武器の正体に気づいた。


電磁加速砲レールガン……ッ!」


するとそれまで黙っていた加賀美が喋りだす。


「詳しいね……そうだ、これは携行型けいこうがた電磁加速砲だよ。

 今年実用化された兵器を参考にこの世界に創ったものだ」


加賀美の声が聞こえてきた方向は……まだ右にいるままだ。


砂嵐が止む。

そうか、このエリアは砂嵐が発生したり止んだりするエリアなのか――ッ。


俺は右を向いて走り出す。


「どのゲ―ム世界に置いても大抵は銃が強い」


加賀美はどこからか喋りだす。


「そして、この世界はファンタジ―世界だった。おかげで簡単にレベルアップが出来た」


また、声。


「ただ、このレ―ルガンは反動がデカイから命中率がそれほど良くないのが玉にキズだけどね……」

「わざわざ声を出して位置を知らせてくれるとは、舐めているのか?」


走っていくと、人影が見えてくる――

いた! あそこだッ!

加賀美の手元には巨大な武器――レ―ルガンが見えた。


「舐めている? 当然だよ! ……だって剣じゃ銃には勝てないからナァ! 《テレポ―ト》」


俺は更に走り、いよいよ加賀美の姿がはっきりと見える。


「近づいてしまえばこっちのもんだッ!」


俺は狙いを定め、一気に間合いを詰める。


「それに――」


だが、ヤツの姿は――


「――僕に攻撃を当てることは不可能だ」


――消えた。


俺の剣はむなしく空振りする。

くそっ! 外したッ!

そこでやっと俺は気づく。


……これ、無理ゲ―じゃね?

相手はスキル《テレポ―ト》で常に俺から距離を取って、

レ―ルガンで銃撃してくるから俺は《シ―ルド》で防ぎ切るしか無い。

ダメ―ジを与えようにも《テレポ―ト》ですぐ距離を取られる。一体どうすれば?


また、砂嵐が発生し、加賀美の姿は完全に見失う。

レ―ルガンの弾丸が俺に襲いかかる。


――ド―ン!


「ぐッ……!」


弾が直撃しそのまま吹き飛び、俺のHPは一瞬で残りニ割まで減る。


「なっ……!?」


俺は急いで体制を整え直す。


あと一回でも直撃したら終わり、《シ―ルド》で防いでも後ニ回被弾したら死ぬ……マズい!

……だが、なぜか次の攻撃が来ない。

なぜ、来ないんだ?


しばらくタイムラグがあった後、次の弾丸が襲いかかる。


「あっ……」


……そういうことかッ!


分かったぞ! アイツの弱点がッ!


あとは、砂嵐が消えるまで《アブソリュ―トディフェンス》を温存できれば……ッ!


「《シ―ルド》!」


俺は弾が飛んでくる前にスキルを発動させ、防御態勢を取る。


――ヒュン。


――ズシャ―ン!


レ―ルガンは俺を狙い、確実に俺のHPを削ってくる。

俺のHPはいよいよ一割になる。

もう時間はないはずだ。


砂嵐……。早く収まってくれ……。

心臓が高鳴る。

ゆっくりと視界がクリ―ンになっていく……


砂嵐が止んだ。


俺はドクンと跳ねる胸の鼓動を感じながら、意識を集中させ周りを見る。


加賀美はどこだ……?


――いた。


五十メ―トルほど先に人影が見える。


今だッ!


「《絶対アブソリュート防御ディフェンス起動オン!」


さらに続けてスキルを発動させる。


「《高速移動ファストム―ブ》!」


ファストム―ブの効果時間は三秒。

チャンスは一度きりだ。確実に仕留める……ッ!


――シュ


俺は物凄い速度で移動する。


「なに!?」


加賀美が焦り、レ―ルガンを乱射していく。


――ヒュン、ヒュン……。


弾が飛んでくるのを予測していた俺は左右に動き高速接近する弾を回避する。

俺はそのまま加賀美に向かってまっすぐ突き進む。


加賀美は砲を正面に向かって乱射してくる。


――キ―ン!


まっすぐ飛んできたレ―ルガンをそのまま《絶対防御》の力で弾く。

もうこのアクセサリ―の力は使えない。


加賀美はレ―ルガンを“リロ―ド”しようとするが間に合わない。

そう、レ―ルガンは銃だ。

なら――必ずリロ―ドするスキがあるはずだった。

さっき一瞬攻撃が止んだのは、加賀美がリロ―ドしていたから……ってワケだ。


「……ッ! 《テレポ—ト》!」


加賀美はスキルを使い、逃げようとする。


「逃がすかァ!」


俺は攻撃を避けながらさらに突っ込みスキル《武器ウェポン投擲スロー》を発動させる。

剣は加賀美に向かってまっすぐ飛んでいきそのまま突き刺さり、衝撃で後ろに引きづられていく。

ヤツのHPは一撃で残り三割まで削られる。


武器投擲ウェポンスロー》スキルで使った剣が自動で手元に戻ってくると同時に、

さらに前進しヤツの目の前まで近づき剣を振りかざす。


「これで終わりだ――」


俺は勢いに任せ、


「《武器装備ウェポンイクイップ》――」


そのまま加賀美に斬りかかろうとする……が。


「――《鋼鉄の剣スティ―ルソ―ド》!」


加賀美は詠唱えいしょうのようなものを素早く唱え、そして――。


――キ―ン!


俺の剣はヤツの“鋼鉄の剣”により弾かれ、そのまま押し倒される。

そしてそのまま剣を俺の首元に突きつけてくる。


「……さっきまでレ―ルガンを装備していたのにどうやって剣を……?」


追い詰められた俺は問う。


「昔のRPGロールプレイングゲ―ムにおいて、装備ウィンドウを開いてから、武器を装備するという手順があるだろう?」

「……それがどうした?」

「このスキルなら近距離武器から遠距離武器へ、あるいはその逆を瞬間的に行うことができる」


そういうことか……!


「地味だけど、こういったゲ―ムにおいては有利だろう?」

「なるほど、確かにそれは強いな……」


盲点だった。

このゲ―ムは一昔前のRPGゲ―ムをモチ―フに創られている。

だから、あえてゲ―ムシステムも昔のRPGに近づけて設定した為、

“武器の瞬時交換”は想定外だった。


「……でもまあ、君はおしかったよ来栖くん。さっきので僕のMPは完全に尽きた。

 ただ、僕のほうが一歩先を読んでいたようだね。……チェックメイトGAME OVERだ」

「ああ、お前がな」


加賀美の少し後方から魔法を詠唱している紅き少女の影。


「《ヘルフレイム》!」

「――なに!?」

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