#31 妖精の世界

俺とイオは何度かキスをした後、

ようやくまともに《トリトン》の探索をした。


「ハヤトさん!」

「ん―? どうした?」

「あそこに図書館がありますよ! イオは本を読んでみたいです!」


図書館?この世界に本が置いてあるというのか?

俺はバカだから役に立つ本もあるだろう。


「ああ、行こうか」


俺達は図書館の中に入る。


かなり、広大なエリアだった。

ここから見える景色も海だった。

NPC達は静かに本を読んでいた。


というか、図書館ならゲ―ム作りに関する本もあるかもしれない。

そこでゲ―ム制作ツ―ルの勉強をして、

いつか現実世界に戻った時に――、


この世界を不具合のない本来俺の思い描いていた、

真のワールド・オブ・ユートピアを構築こうちくするんだ――、


――本を探して数秒後、そんな事を考えていた俺がバカであることが判明した。


「はは、はははははっ!」

「は、ハヤトさん?どうしたのですか?」


俺は本棚を見て絶句ぜっくした。勉強本どころか、

難しそうな本すら1つも置いていなかった……

本棚に並んでいたのは確かに“本”だったけどさぁ……


「全部絵本じゃねぇ―かあああぁぁ!!」


絵本しか置いていないことにツッコミした勢いで、

そのまま床に投げ捨ててしまった。


奥で店員が来て「お客様、本を投げれれては困ります」と言われる。


「ついツッコミたくて投げてしまいまして……」

「は、はあ。次からはやめてくださいね」

「本当にすみません」


ま、まさか絵本しか置いてないとはな。

なぜ絵本だけなんだよっ!


ああ、なるほど。

……そういうことか。


AIが勝手に図書室を作った結果、単純な本しか作れなかったというワケかぁ……。


そうして俺の勉強作戦はまくを閉じるのであった―― 〜完〜


◇◆◇◆


「ハヤトさん!」


イオが絵本を持ちながら駆け走って近づいてくる。


「どうした?」

「この本をあそこのテ―ブルで読み聞かせしてくれませんか?」


イオは絵本の表紙を見せてくる。

表紙には妖精たちの絵が書かれている。

タイトルは《食いしん坊の妖精》という名だった。


「いいぞ、じゃああそこに座ろう」


俺とイオはイスに座り、そのまま絵本のペ―ジを捲った。


「ん―と? 仲のいい四匹の妖精達が……」


『仲のいい四匹の妖精たちが小さな家の中に暮らしていました。

 今はランチタイムで、みんなでお食事を食べるところでした。

 食いしん坊の妖精はとてもお腹が空いて食事が出来るのを待ちきれませんでした』


妖精が登場するヘンテコな絵本を声に出して読み上げる。


『しばらくすると、とても美味しそうなシチュ―が小さなテ―ブルに運ばれてきました。

 しかし、食いしん坊の妖精はお腹がとても減っていたのでみんなの分のシチュ―を、

 全部平らげていしまったのです!』


俺は更に続きを読む。


『食いしん坊の妖精はみんなの分を食べてしまった事に罪悪感ざいあくかんを感じました。

 それにきっとみんなに怒られるに違いないと思いました。

 怖くなった食いしん坊の妖精は小さな家から飛び出し、逃げてしまいました……』


今の所、退屈な話だな……。まあ、絵本だから当然か。


『空を飛び、とにかく色んなところへ逃げていったのです。

 逃げまどい続けて三日が過ぎた頃、もう妖精の体力は限界でした。

 食べ物も殆ど見つからず。ついに妖精は力を失い、倒れてしまったのです!』


ふむふむ……なるほどなるほど……?


『気がついたら食いしん坊の妖精は元いた小さな家にいました。

 よく目を凝らすと、三匹の妖精が心配そうに私を眺めていました

 話をくと私を探し周り倒れているのを見つけて、

そのまま三匹の力を合わせてこの家に運んだのだと言うのです』


ほほう……。


『どうして、私はみんなのシチュ―を全部食べるような悪いことをしたのに、

 助けたの……本当は怒られるはずなのに……と食いしん坊の妖精は三匹の妖精にきました』

 「そんなの決まってるじゃない!」 と、三匹の妖精は言いました』


『 だって、“大切な仲間”なんだもの!』


仲間……か。


『その後、四匹の妖精たちはいつものように仲良く暮らしたのでした!』


本はここで締めくくられていた。


「……おしまいっ」


本をパタリと閉じイオの方を見ると、彼女はキラキラとした瞳をしていた。


「……すごくいいお話です! 四匹の妖精さんはとっても仲良しなところが良かったです!」

「ああ」


「この四匹の妖精さん達はとても強い絆で結ばれているのですね!」

「そうだな」

「私たちも強い絆で結ばれていますよ! ハヤトさん!」


イオの圧力に押されてしまう俺。


「お、おう! そうだな」

「さあ! 他の場所に探索にいきましょう!」


俺とイオは図書館から出た。


「……仲間」


イオは小さな声で何かを喋ったようだった。


「どうしたイオ? なんか言ったか?」

「いえ!なんでも無いです!」

「そ、そうか」


「…………」


イオは黙り込んだ。


一瞬、イオが悲しそうな顔をしているように見えた――、

……気の、せいか?


その後は俺とイオは今までのように雑談したりしながら、

《トリトン》のいくつかのおつかいクエストを探し回り達成していくのであった。

そして俺達のレベルは28になる。


……これからもイオを守らなければならない。 絶対に……!!

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