#27 決死の戦闘

俺とイオは客室の席に座った。

他にも座っているNPCがいるようだ。

……イオ以外の全てを失った。

だが、それでも俺は……イオだけは守ってやる。


シュ―


機関車が発進する。


――ガタン、ゴトン。


揺れながら、機関車は線路を走っていく。

俺は窓から景色をみた。

景色が次―と移り変わっていく――


俺は景色を見ながらこれからどうするか考えた。


雑魚モンスタ―をひたすら狩ってレベルを上げるか?

いや、最初は経験値が貰えるだろうが、

俺達のレベルが雑魚モンスタ―より上がればいずれは経験値が入らなくなる。


それに、前回遭遇した《クイックチ―タ―》のような設定ミスのモンスタ―が現れたらどうする?

あんなのに囲まれたら即死もありえる。


それだけじゃない、《ネ―ムド》との戦闘はどうする?。

《ネ―ムド》は本来、パ―ティメンバ―複数が揃うことが前提で作られている。

今は俺とイオの二人しかいない。

戦うことになったら苦戦を強いられるだろう。


俺は頭を悩ます。

なにかいい方法はないだろうか……?


暫く考えてもよくわからなかった。

……とりあえず《トリトン》に着いたらお使いクエストを消化するくらいしか思いつかないな。


俺は、となりの席を見る。

イオが楽しいそうに座っていた。


「ハヤトさん! 見てください!」


イオは外の景色をみている。


「この乗り物、すごい速さで進んでいますよ!」


とても楽しそうだった。


「一体どういった原理なんでしょう?メラメラ……!」


イオは俺を見る。


真っ赤な眼で俺を見つめてくる。


カワイイッ……!


これが仮想現実だというのだろうか……!


俺のミスで二人きりなってイオだけは守りたいという気持ちが、

イオを強く意識するようになっただろうか。

気がついたら、彼女に恋をしている俺がいた――。


「さ、さあな。どうやって走っているんだろうな?」

「ハヤトさんも知らないのですか?」


蒸気機関車ってどうやって動いているんだっけ……?


わ、わからん……。


「……とにかく凄い技術なのは確かだな」

「そうなのですね! 凄いです! メラメラ……!」


――ガシャ―ン


突然、物凄い轟音ごうおんが鳴り響き、

機関車はガタガタと大きく揺れだす――



◆◇◆◇



「な、なんだ!?」


俺達は吹き飛ばされ、列車ごと地面に投げつけられる。


「列車ごとッ?!」


なんか浮遊感を感じる?


その直後――、


ズシャアアアアアア! とすごい音が聞こえた。


――キ―ン……。


視界が真っ暗になり、耳鳴りが聞こえる。


なんだ? 何がどうなってる?!


暫くすると視界が元に戻り、耳鳴りも収まった。

周りを見ると、機関車が脱線だっせんし崖から転落したようだ。


俺は列車が地面にぶつかった衝撃で、そのまま外に飛ばされたらしい。


俺たちは、崖から落ちたのか!?

し、死んだかと思った……。

崖が浅くて助かった……。


機関車に乗っていたNPC達が倒れている……


まさか、彼らは死んだのか?


「…………っ!」


イオは!?


「イオ!」


俺はイオを探す。


「ハヤトさん……」


イオの声が聞こえる。


俺はイオの方を振り向く。


「良かった無事……!?」


――残りHP、1!?


俺はUIを確認する。よく見ると俺のHPも残り3しかない。


俺達は機関車に吹き飛ばされた時に衝撃ダメ―ジをまともに食らい、ギリ耐えたようだ。


危なかった……!?


「……待て」

「はぁ……はぁ……どうしたの……ですか?」

「どうして、HPが回復しない?」


非戦闘状態の場合、HP、MPは少しずつ回復していくはずだ。


非戦闘状態……?


「まさか――ッ!」


俺は瞬時に後ろに振り返る。


『シィ―ッ!』


「ク……ッ!」


◆◇◆◇


目の前にモンスタ―『リザ―ドマン』が一体。そのリザ―ドマンの少し後方に三体いる。

咄嗟にリザ―ドマンの攻撃を剣で防ぎ、そのままバックステップをして離れる。

俺は瞬時に頭をフル回転させどうすべきか考える。


逃げるか? いや、俺の背後には機関車が壁となっており、後ろには逃げることができない。

だが左右に逃げようにもリザ―ドマンに囲まれてしまうだろう。


ならば、戦うしかない……がこっちは一撃でも食らったら殺されてしまう。

イオには戦わせるべきではない。

ヘイトがイオに向いたら危険だ。


でも……リザ―ドマン数体を俺一人で倒し切るのは厳しすぎる。


ならばッ!


リザ―ドマン達はずるずると俺達に近づいてくる。


イオは武器を構えている。


「イオ! 奴らに近接攻撃を仕掛けるな! 常に奴らから一定の距離をたもち、魔法で戦うんだ!」

「わかりました!」


イオはリザ―ドマンから離れて魔法を詠唱している。


リザ―ドマンのレベルは12 攻撃手段は剣での振り下ろしのみ。

攻撃手段は単調だが、攻撃速度が早めである。


俺はすぐにスキル《スロ―ウィングウェポン》を発動させ、

一体のリザ―ドマンに剣を投げつける。


「どうだッ!」


剣は一体のリザ―ドマンに向かって飛んでいく。


――ザシュ


『シィ……』


そのままリザ―ドマンは倒れ、HPはゼロになる。

投げた剣は俺の手元に自動で戻ってきた。

三体のリザ―ドマンがゆっくりと俺に近づいてくる。


「くそッ!」


リザ―ドマンに囲まれる俺。


一体のリザ―ドマンが俺に剣を振りかざしてくる――


「《バ―ニング》!」


イオから高威力の魔法が放たれ、剣を振りかざしていたリザ―ドマンは俺の目の前で倒れる。

だが、休む暇も無く次のリザ―ドマンが剣を振りかざしてくる。

今度はニ体が同時に相手だ。


イオは続けて魔法を詠唱している。


俺は最初の一体のリザ―ドマンの攻撃を見切ってかわし、スキル《三連撃》を叩き込む――


リザ―ドマンのHPは少し減る。


くそッ! やはりこのレベルのモンスタ―にもなると、

ダメ―ジ“極小”のスキルでは一撃で倒しきれないか……ッ!

だからといって、高火力のスキルを連発するほどのMPがない!


リザ―ドマンが更に攻撃を仕掛けてくる。

俺は左右にステップをし、回避に専念しながら、スキを見つけては連撃を繰り出す。


「はぁッ!!」


――ズババババ!


「《フレイム》!」


イオが魔法を発射する。

片方のリザ―ドマンは倒れた。

残り一体……ッ!!


最後のリザ―ドマンが剣を振るう。

俺はサイドステップをして攻撃をかわし、連撃を叩き込んだ。

そのまま三連撃を発動させ、ダメ―ジを与えていく。


「はぁ……どうだ!?」


『シィ―……!』


HPはわずかに残っていた。


「くそっ!」


リザ―ドマンは剣を振り下ろしてくる――


避けるのが間に合わないッ!!


「《フレイム》!」


ドカ―ン!


イオの魔法は炸裂さくれつする。


『シィ―……』


俺達を襲いかかっていたリザ―ドマン達は全滅する。


HP、MPが少しづつ回復していく。


「はぁ……はぁッ……!」


なんとか……なったのか……。


「ハヤトさんっ! やりましたね! メラメラ……」

「ああ、助かった……」


――こうして、俺とイオの決死けっしの戦いは幕を閉じる。


俺はふう、と深呼吸をして今後のことを考えた。

機関車は壊れたままだ。

取り敢えず、徒歩で《トリトン》に向かうことにした。

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