#24《チートモンスター》

水のエウロパに戻った俺達は酒場へ向かった。


――ガチャ。


俺は受付の人に話しかけた。


「こんにちは」

「こんにちは。おや、君達かい」


受付は俺達に気づいた。


「鳥型の巨大な魔物を討伐してきましたよ」

「報告は受けてるよ。どうやらそのようだね。感謝するよ」

「これは報酬だ。受け取ってくれ」


俺は報酬の金を受け取る。


「またなにかあったら頼むよ」

「ええ、任せてください」


俺はそう言い、外に出た。


「さて、と。次はどこに向かおうか」


そういや、オリンポス山に向かうときに《マ―ズ》行きの船に乗ったな。


「よし。次は《マ―ズ》に向かうか!」

「そうしましょうっ!」


リシテアは元気よく応えた。


「《マ―ズ》ってあちらこちらに蒸気が流れているあの暑苦しい街のことかしら?」

「暑い街なのですか? なんだか燃えてきますね! メラメラ……ッ!」


俺たちは船着き場に向かった。


「《マ―ズ》まで向かいたいのですが」


俺は金を渡す。


「受け取った。さあ、乗るといい」


――ガタ、ゴト。


そして、船はゆっくりと動き出す――。


船に揺られ、俺達はこれからの旅について思いを巡らせ話し合ううちに

小一時間が過ぎた。


「――さあ、着いたぞ。降りてくれ」


俺達は木造船から降りる。


看板には『このまま北に進むと《マ―ズ》』と書かれている。


「北か……」


俺達は北へ向かって歩きだした。


◇◆◇◆


……しばらく歩いていると、奥から影が見えてきた。


あれは……。


モンスタ―《クイックチ―タ―》だ。

レベルは12。俺達よりニつ下だ。

とても素早く攻撃力もそこそこある。


攻撃手段は噛みつき、爪で引っ掻くのニつ。


三体しかいないから余裕で倒せるだろう。


『グルル……』


奴らはゆっくりと俺達に近づきながら唸っているようだ。


「みんな、準備はいいか!」


俺は小声でみんなに話しかける。


「準備できてるわよ」

「いつでもかかってきなさい!」

「メラメラ……!」


「行くぞッ!」


俺たちは武器を構え、突撃した。


『グルルルル……』


クイックチ―タ―は俺達を見つけると、こっちにダッシュしてきた――。


――って。


速いッ!


いや、これは普通の速さじゃない。

ただの“雑魚”モンスタ―が、

レベル12の《クイックチ―タ―》がこれほどの素早さを持つはずがない。

まるで素早さのステ―タスが狂っているような――。


俺は奴のHPを見る。


「なっ!?」


HPは12000と表示されていた。

レベル12のモンスタ―のHPは3000くらいはずだ。

これは……?


一体のチ―タ―は俺に目掛けて、ダッシュ攻撃をしかけてくる――。


――ザシュ


「ぐッ!」


物凄い速度を乗せて放たれた一撃はとても重く、

一瞬でHPが七割減らされた。


「なにッ?!」


なぜあのモンスタ―はあんなにもHPと素早さのステ―タスが高い?

雑魚モンスタ―のステ―タスはAIが自動で設定してくれるはずだ。

《ネ―ムド》とは違い、俺が設定しているわけではない。

なら、考えられることは――。


ステ―タスを設定したAIがおかしい?


「《オ―バ―ヒ―ル》!」コ―デリアの魔法のお蔭で、俺のHPは全回復する。


『グルル……ッ!』


チ―タ―達は俺達を見てほええている……ッ!


これはまずい――!


「みんな逃げるぞ!」

「了解!」


俺達は武器をしまい、逃げようとする。


だが、素早さが狂っているチ―タ―達から逃げられる筈もなく、

すぐに追いつかれる。


――くそッ!


どうやって奴らから逃げればいい?


俺は周りを見渡す。


近くに崖があるようだ。


――これだ!


「ほらチ―タ―ども! こっちだ!」


俺は崖の方まで走り、チ―タ―を誘導しようとする。


『グルル……ッ!』


だが、三体のチ―タ―は彼女たちを標的にしている。

そうか。ヘイトが俺に向いていないんだ!


なら――。


「みんな、奴に攻撃をしかけるな! いいな!」

「コ―デリアは俺がダメ―ジを負ったら回復をしてくれ!」


「はいですの!」


俺は剣を構え、チ―タ―に突撃する。

チ―タ―に向かって《回転斬り》を仕掛ける。


――ザシュ!


やはり、チ―タ―のHPはミリしか減らない。

三体のチ―タ―は俺に向かって牙を向ける。

よし、後は逃げるだけだ。


俺は崖に向かって全力で走り出す。


崖の端が見えた。もう少しだ!


『――グルル……!』


物凄い速さでチ―タ―達は襲ってくる。


――ズシャア。


「《オ―バ―ヒ―ル》!」


俺のHPは回復する。


だが俺は吹き飛ばされ、崖から落ちそうになる。


「ハヤトくんっ!」

「ハヤト様!」

「ハヤトさんっ!」


――やばっ!


◇◆◇◆


「くっ!」


俺は手を伸ばし、崖の端を掴み間一髪で生存する。

後ろを見ると……チ―ター達は勢い余って崖の端から飛び出していた。


しばらくすると《クイックチ―ター》の影が遠くなっていき、やがて見えなくなった。

あのモンスタ―達は落下ダメ―ジで死んだだろう。

仮に生きていたとしても、しばらくはここまで来れないはずだ。


彼女達が手を伸ばす。


俺は彼女たちの手を掴むと引き上げられる。


「ありがとう、助かった」

「崖から落ちたときはどうしようかと思いましたわ!」

「あんなことをしたら危ないわよぉ!」

「無事で良かったです! メラメラ……!」


みんなに感謝……だな。


「心配をかけて済まなかった」


しかし、ステ―タス設定を誤ったAIか……。

まさか俺が設定していないものにまで、殺されそうになるとは思わなかった。


俺は本当に彼女たちを守れるのか……?

更に不安を覚える。


「さあ、蒸気のマ―ズに向かうぞ」

「行きましょう!」


俺がそう言うと、リシテアも合わせてくれる。


「暑苦しい街になんて行きたくないですわ……」


コーデリアはまるで歯医者に行きたくない子供のように駄々をこねる。


「そんなことを言わずに、さあ! 行くのですよ!」

「い・や・で・す・わ―!!!!!」

「そんなこと言っても連れていきますからね!」


――ズルズル—


「ぎゃぁああああぁああああああ!!」


コ―デリアはイオに無理やり引っ張られ連れて行かれる。


そのまま俺達は《マ―ズ》に向かった。

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