#16《ただの人工知能》

武器は没収された。


俺は薄暗い牢屋の中で冷静になり、静かに考え事をしていた。

さっき殺してしまったNPCのセリフに物凄い違和感を感じていた。


まずあの男の一言目――、


俺はあのNPCがレアの頭を踏みつけていることに対して怒鳴ると

あの男は『なにかな?』と言った。


まるで、人を踏みつけることに関して何も気にしていない様子だった。

あれはおかしい。


なぜ、悪意が無いと出来ない行為に対して、なにも気にしていない?


そして次、二言目だ――

俺がレアの顔面を踏みつけていることに、怒っていることに対してあの男は……、


『はあ……そういえば、確かに踏みましたね』


と言った。これもおかしい

まず最初の『はあ……』と言うセリフが。


その次の『そういえば、確かに』と言うセリフ。

まるで、なんのことだかわかっていない様子だった。


さらに三言目、四言目……、

男に対してあやまれと言った後のセリフだ。


『なぜ謝らなければいけないのです?

なにが問題なのです?

たかが――』


そう言った後、彼は……。


『――彼女を踏みつけただけですよ?』


と発言した……。


それらはまるで――レアを踏みつけたことに関して……関心がないようだった。


そしてその後のたかが彼女を踏みつけた“だけ”というセリフ。

明らかに悪意があるはずの行為なのに、だけというのはおかしい――。


そして最後――


俺が男に攻撃する直前に男は驚き『なにをするのです!』と言った。

このセリフはなぜ自分が攻撃されているのか分かっていない様子だった。

……それによく思い返してみれば、あの事件の前に同じようなことがあった。


“彼女”達だ。


そういえば彼女たちの反応も変だった。

仲間であるはずのレアが死んだのにも関わらず、誰も反応していなかった。

特にリシテアはレアを妹のように想っていたようなのにも関わらずだ。


これらのことから推測するに……、


NPCは他のNPCが死亡したこと、

或いは――死に関することに関して殆ど関心がない。ということだ。


……いや、通常NPCが死亡したら消滅するはずなのだから、

死亡したときの反応に関しては無いのも当然だ……


自分の死について何も思っていない事に関しては、

俺が細かいことを設定していなかったからだろう。


これは……間違いないな。



◇◆◇◆



そして、二日後――


「おい。お前出るんだ」


なんだ? 釈放しゃくほうか?


「どうしたんだ?」

「今から裁判所に行く」


――そうして俺は裁判所に連行された。


裁判長が言う。


「名前は」


俺は証言台に立った。


「ハヤトです」


その後はごく普通に質問に答えていき――、


「主文。被告人を公開処刑に処する」


処刑しょけい……死刑。


しけい。


さらば、俺のファンタジ―ライフ。


――後日、俺は大きな広場に連れて行かれた。

《ディオ―ネ》の正門前の広場だ。


斬首刑ざんしゅけいらしい。


俺は断首だんしゅ台の前に連れて行かれる。


『罪なき男を殺した殺人者に罰を!』

『この殺人鬼ッ!』

『早く死んでしまえ! クズめ!』


裁判所にいた群衆に罵声ばせいを浴びせられる。

酷い言われようだった。


頭を抑えられたまま断首台に持っていかれ……、


斧が振り下ろされる――。


死んだら俺はチェックポイントに戻されるんだから、意味ないよ。


ん? 待てよ――。


俺はこの世界にリアル性を求める為に、

死んだら《ゲ―ムオ―バ―》状態となり、

そのまま意識は”無”状態にフェ―ドアウトしていくように“設定”したのだった………。


――――!?


死んだら、チェックポイントには戻らないじゃないか!


コピ―された意識とはいえ、ここで俺……本当に死ぬの?


そんな――


終わった。


「ぐわっ!?」


――ドシッ


斧が俺の目の前で落ちる。


突然男が倒れこみ、悲鳴が聞こえた。


なんだ?


俺はさっきまで斧を振るおうとしていた騎士を見る。


そこには――、


槍で騎士を貫いているリシテアがいた。


「リシテア団長!?」


騎士たちはリシテアをみて驚く。


「ハヤトくんっ! 怪我はない?」


すぐさまコ―デリアとイオの声が聞こえる。


「《ライトフォ―ス》!」

「《フレイム》!」


騎士たちが倒れていく。


「ハヤト様っ……!」

「早く逃げましょう、ハヤトさんっ!」

「ハヤトくんっこれを」


リシテアは剣を俺に渡す。

没収ぼっしゅうされた武器だ。


コ―デリアが拘束された俺のなわを解く。


「リシテア! コ―デリア! イオ!」

「ああ、逃げよう!」

「逃がすな!」


残りの騎士たちが追ってくる。


俺達は、《ディオ―ネ》の門をくぐり抜け、街から脱出する。


「待て!」


騎士たちはもう追ってこない。


彼らは、《ディオ―ネ》に配置されたNPCだからだ。

NPCの行動範囲は限られている。


「ゼェ……ゼェ……。逃げ切れたようだな」

「逃げたのはいいけれど、これからどうするの?」

「ああ、どうしようか……っとその前に」


俺は彼女たちをゆっくり見て頭を下げる。


「この前は、いきなり怒ってすまなかった」

「この前? ええ、確かに怒っていたけど……」

「確かに怒っていたけれど別に気にしなくてもいいですわよ?」

「そうですよ! 誰だって怒りたくなるときくらいあります! メラメラ……」


リシテア達は


「いや、こっちの話だ。とにかく謝りたかったんだ」


「「???」」


彼女達は頭に? を浮かべてキョトンとしている。


そうだ、彼女たちは悪くない。

俺が設定していなかっただけの話だ。

悪いのは俺だったんだ、あの男にも、悪いことをしたな……


「それから、さっきは助けてくれてありがとう」

「礼を言われることではないのよハヤトくん!」

「そうですわ! 礼なんて不要ですわよ! こっちはただ助けたかっただけなんだから。フンっ!」

「みんなの気持ちがメラメラだっただけです!」


彼女たちのセリフを聞いた後……、


「さてと」


……とりあえずこれからどうするか?


一つ目は――クエストを消化すること。

――なぜならログアウト条件が、

全てのクエストをクリアしないといけないからだ。


二つ目は――俺と彼女たちの育成だ。

簡単にモンスタ―には殺られないように特訓しないといけない。

三つ目は――レアを復活させる方法を探すことだ。


三つ目はできるかは分からない――今のところ、復活できる可能性は低い。

一つ目と二つ目だが、これは同時に進行できるな。


とりあえず、クエストを消化しにいこう。


《ディオ―ネ》は今向かったら騎士たちと戦闘することになる。

騎士たちをやすやすと殺すわけにもいかないから、

これはあとでなんとかすることにしよう。


それに、NPC

クリアしなければログアウトは不可能だ。

これも、後で考えよう……


だから、目指すべき場所はここから近くにある新しい場所だ。


「みんな、ここから西に向かったところにある水の都 《エウロパ》に向かうぞ」

「わかったわ。馬車はないから……徒歩ね」

「徒歩なんて嫌ですわ……」

「しょうがないじゃないですか! ほら、行きますよ! メラメラ……」

「トホホ……」


俺達は、水の都エウロパに徒歩で向かうことにした。

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