#15 “ノンプレイヤーキャラクター”

レアが《“殺戮”のサイクロプス》に殺された……。

こんなはずではなかったのに……。


俺だけのハーレム楽園を築くはずだったのに……。


巨人は棍棒を振り下ろしてくる――。

彼女たちは俺の指示を待っているのか、その場から動かない。

俺は今にも挫けそうだったが、なんとか意識を保つ。


「に、逃げるぞ……ッ!」


「「えっ?」」


彼女たちは突然の命令に驚く。


「走るんだ!」


「「はいっ!」」


「走れっ!」


俺達は街から外へ脱出しようとする。

巨人は走って追ってくる。

街の門が見えてきた。俺達は門をくぐり抜ける。


まだ巨人は追ってくる――

いつまで追ってくるんだ!

俺は走りながらメニュ―を開きログを見た。


モンスタ―の消去まで、残り一分......。


あと一分ッ!


俺達は走り続ける――


モンスタ―の消去まで、残り三十秒......。


モンスタ―の消去まで、残り十秒......。


いくら巨人から離れようとしても、ドシン、ドシンと。


巨人の足音が遠くならない……ッ!


       残り五秒……


もう少しだッ……!


残り三秒……まもなく《“殺戮”のサイクロプス》の消去を開始します――


       残りニ秒……

 

       残り一秒……

 

   《“殺戮”のサイクロプス》の消去を開始―― 


    消去完了……不具合は取り除かれました。


「はぁ……はぁ……」


単眼の巨人は消滅した。

あの巨人のHPはなんだったのだろう?

いや、HPだけじゃない。

攻撃力も防御力もあきらかに“桁”が違っていた。


桁が違う……?


まさか――。


俺はこのゲ―ムを作る時に、モンスタ―のステ―タスを設定した。

雑魚モンスタ―のステ―タスはAIが自動で処理しているが、

《ネ―ムド》のステ―タスは拘りをいれたかったから、自分で設定した。


《“殺戮”のサイクロプス》のHPは確かに2万くらいに設定したはずだった。

だが、実際は213000もあった。

“桁”を幾つか多く設定していたんだ……。


俺は《ネ―ムド》のステ―タス設定をする時に、

強敵を作る為にテンションが上がっていたのか、

誤ってゼロを一つ多く増やしていたとしてもおかしくない。


他のステ―タスも同様に“桁”を間違えていたのだろう。

だから角を破壊してもHPは50しか減らず、


レアは一撃でやられたんだ――。



◇◆◇◆



俺は彼女たちを見た。

リシテア、コ―デリア、イオが息を切らせている……。


レアが居ない……


「レア……」


馬鹿な。そんなハズは……。


「レアッ……!」


レア。レア。レア……。


「れ、あ……」


俺は我慢していたのか、突然涙がこぼれ落ちてきた。


「ちきしょう! 俺のせいで! 俺のせいでこんな……レアはこんな目にッ!」


俺は周りを見渡す……が。


彼女たちは危機をしたことで喜び合っていた。

俺は感情的になる。

 

「リシテアッ! お前はレアのことを妹みたいに思っているって言っていたじゃないか!」


俺はリシテアの襟首を掴んだ。

リシテアはとしていた。


「レアが殺られたんだぞッ! どうしてお前は平然としているんだッ!」


「ハヤトくん、?」

「な、んだと!?」


俺はリシテアの襟首を掴みながらコ―デリアとイオの方を向いた。

コ―デリアとイオもきょとんとして突っ立っている。


「なんだよその態度は……ッ! 仲間が殺られたんだぞッ! 悔しくないのかッ!」

「どうしてそんなに怒っているんですの?」

「急にどうしたのですか、ハヤトさんっ!」


ふざけるなよッ……


こんな狂った世界、もうヤメてやる。


俺はメニュ―を開きログアウトをしようとする――


        ログアウト不可


ログアウト条件:全てのクエストをクリアしてください。


なんだよこれ……

クエスト数は五百もあるんだぞ?!


俺はこのゲ―ムのシステムを設定していたときのことを思い出していた。


そうだった……。


俺はこの世界をリアルに満喫しようと思ってこのような条件にしたんだった。


畜生ちくしょう! ちくしょう……!」


くそぉ……くそくそくそっ!


「レア! れあぁぁ……」


気がついたら俺は、レアが倒れている《ディオ―ネ》に走っていった。


街の門をくぐり抜け、《ディオ―ネ》に戻った。


――そこには、単眼の巨人に破壊されたままの建物や、大量のNPCが倒れている。

俺達が注意を惹きつけたからか……まだ生存しているNPCも歩いているようだ。


そして、その中にいる彼女を見つけ出した。


「レアッ!」


俺はレアの方に走ろうとした。


レアの目の前には男が一人歩いている。


男はレアに近づき――。


レアの顔を石ころのように踏みつけ……そのまま通り過ぎていった――。


「なっ!?」


今、アイツはなにをした?


俺は男に怒鳴りかける。


「おい、お前ェ!」

「なにかな?」


男はなにも気にしてる様子を見せず言った。


「なにかな? じゃねぇだろ!」

「よくも……彼女を――レアの顔を踏みつけたなッ……!」

「はあ……そういえば、確かに踏みましたね」


……なんだコイツの態度は!?


「謝れッ……! レアに謝れよッ!」

「なぜ謝らなければいけないのです?」

「んだとっ!?」

「なにが問題なのです?」


「たかが――」


レアを踏みつけた男は少しだけ考える素振りを見せ、


「――ですよ?」


そう言い切った。


「貴様ァ!」


俺は怒りに身をまかせ剣を引き抜き――。


男に剣を振り下ろす。


――ズシャア!


「なにをするのです!」


男のHPはもうゼロだった。


まだだ、まだ足りない……


「よくも……よくもッ!」


俺は、スキル:《三連撃》を男に向かって発動する。


その直後に男の腹を剣で突く。


――ザシュ!


そして……剣を引き抜いた。


「ハァ……ハァ……」


レアを踏みつけた男は倒れる。


「きゃああああああああ!」


と、倒れている男を見たNPCが叫んでいる。


「き、騎士を呼べッ!」


すると、騎士が俺の方へやって来た。


「彼を取り押さえろ!」


俺の腕はなわしばられる。


そして、ディオ―ネ教会裏の牢に放り込まれた――。

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