#14 規格外存在の襲撃

俺達は湯船から出て体を拭き、服を着て脱衣所をでた。


その瞬間、モザイクは消えた。


ちくしょ―! ワールド・オブ・ユートピアのAIめ……。

勝手なことをしやがってぇ……。

まあ、俺のミスだが。


「とってもいい湯船でしたね! ハヤトさんっ!」

「あ、ああ……そうだね……」


俺はしょんぼりしながらそう応えた。


「私はとっても満喫しましたの!」

「みんなで一緒に湯船に使ってわたしは楽しかったです!」

「そうね! それもハヤトくんがいたから特に楽しかったわ!」


……まあ、確かに楽しかったな。


「さて、銭湯からでるか!」


俺達は、外に出ようとして――。


――ゴオオオオン!


と物凄い轟音ごうおんが鳴り響いた。


「なんだ?」


俺達は急いで外に向かう。


多くの一般NPCが焦って走っている。


まるで何かから逃げているかのように。


一人の騎士のNPCが俺達の前に現れ、叫ぶ。


「大変だ! 巨大な魔物が“街”にあらわれた!」


なん、だって?


俺は冷や汗をかいた――。


◇◆◇◆


街にモンスタ―が現れただって?

そんな、馬鹿な……。

モンスタ―は通常、街には侵入してこないはずだ。

一般NPCは悲鳴をあげ、逃げ惑っている。


――ドシン。


と歩行音のようなものが聴こえる。

俺は急いでメニュ―を開きログを見た。


         

エラ―。


AIの移動制御が正しく設定されていないモンスタ―が、

《ディオ―ネ》に侵入しています。

街エリアにモンスタ―が侵入している為、不具合が発生中。

    モンスタ―の消去を行います......。



      消去まで残り十分......。


俺の設定では、モンスタ―が出現するエリアには、

一定の場所を徘徊するようしてあるはずだ。

勿論、街や村エリアには侵入しないようにしてあるはず。


AIの移動制御が正しく設定されていないということは、

俺はモンスタ―の徘徊エリアを設定していなかったのか?


つまり、

今街に侵入しているモンスタ―はいろんなエリアをランダムに移動している為、

偶然ディオ―ネにたどり着いてしまったということか?


クソッ! また俺は設定ミスをしたというのか……ッ!


俺は通常ではありえない現象に焦っていた。


――ドシン。


という音が俺達の方向に向かって近づいてくる。


俺は顔を上げる。


そこには――


確かにモンスタ―が一体いた。


しかも、《ネ―ムド》モンスタ―だ。


名前は、《“殺戮さつりく”のサイクロプス》

単眼の巨人だ。

頭には角が生えていて、右手には大きな棍棒を持っている。


NPC達は逃げようとするが、いともたやすく単眼の巨人に殺られている。

騎士たちも応戦しようとするが、一撃でほうむられていた。

建物に対しても棍棒で叩いたり、足で蹴ったりしている。

次―と、建物が崩れていく。


どうする? 逃げるか?

ログによると、巨人は十分で消滅させられるらしいから、

逃げれば助かるだろう。


『グオオ……!』


巨人は大きな声を発しながらものすごい勢いで、NPC達を蹂躙じゅうりんしていく。

グシャリと、NPCの血痕が次から次へと地面や壁に付いていく。


それは――まさに“殺戮”だった。

NPCは今まで戦ってきたモンスタ―同様“消滅”していない。


やはりそうか……。

俺の推測どおり、NPCも消滅しないままなんだ!

なんてこった……ッ!


逃げたら、NPC達は全滅してしまうだろう。

それは、いくらAIといえども、嫌だ。


だが俺達で戦ったら?奴を倒すことができるか?

《“鋼鉄”のアイアンゴ―レム》の時みたいに、

また彼女たちが殺られそうになったらどうする?

彼女たちを失いたくはない。


俺は巨人のレベルとHPを確認した。


レベル7と表示されている。HPは21300らしい。


今の俺達のレベルは9だから《ネ―ムド》といえども楽に倒せるはずだ。

レベル差は2もあるから、巨人に対するダメ―ジは大きいはずだし、

巨人から受けるダメ―ジはかなり少ないはずだ。


俺は少し考える。


その間にも、NPC達は巨人に殺られていく。


――殴られ、蹴られ、踏み潰されていく。


――ズドォォン。


と物凄い轟音ごうおんが鳴り響く。


俺は焦りつつも決心した。


奴を――。


《“殺戮さつりく”のサイクロプス》を――


倒す――ッ!


今度は――彼女たちを危険な目に合わせたりもしない!


速攻で片付けてやる――ッ!



◇◆◇◆



俺は、彼女たちに声をかける。


「みんな、巨人を倒すぞ!」


「奴の弱点は角だ! 角を破壊させれば大ダメ―ジを与えることができる!

 遠距離魔法が撃てるレア、コ―デリア、イオは奴の角を狙ってくれ!」


「角ですかっ わかりましたっ!」


と、レアが元気よく応えた。


「俺は《ジャンプアタック》を発動させ角を破壊する!

 その後に、前回戦った鉄の巨人の時のように足を狙ってダウンさせるんだ!

 ダウンしたらみんなで一斉に叩く!」


「「はいっ!」」


俺達は巨人の前に立ち、戦闘態勢を取る。


レア、コ―デリア、イオの3人が詠唱えいしょうを始める。


「《スパ―ク》!」

「《ライトフォ―ス》!」

「《フレイム》!」


巨人の角に向かって、魔法が飛んていく。


巨人の角に魔法が命中する。


リシテアは《ウィンドダッシュ》を使い、巨人の足元に近づく。

巨人はリシテアに向かって棍棒を振り下ろすが、

リシテアは見事に回避する。

そして彼女は《ウィンドスピア》を発動させ、巨人の足に連撃を叩き込んでいる。


『グオオ……』


攻撃は効いているようだ。


俺は巨人の目の前にたち《ジャンプアタック》を発動させ、高く跳び上がる。


そして……、


俺は落下に合わせて角に剣を振り下ろした――。


――どうだ?!


バキッっという音と共に巨人の角が折れた。


『グオオ……!』


巨人は角を抑えて苦しんでいる様子を見せる。


やったぞ! 大ダメ―ジだ!


俺は巨人のHPを確認した。


――えっ?


巨人のHPは――


212950/213000と表示されていた。


……見間違い、か?

俺は巨人のHPをもう一回見た。

やはり、変わらない……。


「にじゅう……いちまん……?」


俺は理解するのに少し時間を要した。


「二十一万!?」


ありえない……。


こんなHPじゃ倒すのに相当時間がかかる。それどころか――

角を破壊したのに、HPは50しか減っていないぞ!?


嫌な予感がした。

ドキリ。と跳ねる俺の心臓。

巨人は、まだ角を抑えている。


彼女たちは、巨人の足に向かって攻撃している――


「みんな、今すぐ攻撃を止めて逃げるんだ!」

「ハヤトくん? どうしたの?」

「チャンスなのにどうしてですっ」

「いいから逃げるんだ!」


彼女たちのAIは、俺の発言が最優先されるようになっている。


「わかりましたっ! 逃げましょう!」


俺達は、武器を収め逃げようとする。


巨人はドシン、ドシン、と走って追いかけてくる。


そして、棍棒を振り回した――。


巨人の目の前にはレアがいる。


棍棒はレアの目の前まで迫っていく――。


「レアッ――!」


『あのっ始めまして。わたしは《レア》といいます』


「レアぁあああぁああああッ!」


『よろしくですっお兄ちゃん!』


――ズドォォン!


巨人の容赦ない一撃が、レアを襲う。


『レアもお兄ちゃんのことが大好きです!』


レアのHPは一瞬で、ゼロになる。


「そ、そんな……ッ!」


『お兄ちゃんと出会ってから、いろんなことがありましたねっ!』


おい……。


『小屋でご飯を食べて……』


嘘だと……言ってくれよ……。


『森に向かって、とっても頼れるコ―デリアさんと出会いましたっ』


「――――――――ッ!!」


俺は声にならない声で叫ぶ。


『そして、炎の町でとっても強いイオさんとであいました』


なあ……。嘘だとッ!!


『お兄ちゃんと出会ってから、わたしはとっても楽しいことばかりですっ!』


俺はよろよろとレアの前に歩いていく。


「レアッ! しっかりしろ!」


俺は身体中から血を流しているレアの体を揺さぶる。


レアの目の光が無い。


まるで魂が抜けたように、


「あ、あああ、ああああぁぁ……!」


そうだな、これからもみんなで楽しく冒険しような――


『ふふっ楽しみですっ――』


レアは、ぴくりとも動かない。


レア:HP0

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