#12 悪夢

馬車がガタゴトと揺れていて気持ちがいい。

俺はゆったりと揺れながら眠りについた。

――夢を見ていた。

俺達は廃屋はいおくの前にいた。


《カロン》に向かうときに休憩した廃屋だ。

みんなで楽しくご飯を食べているようだった。


「とってもおいしいわね!」

「おいしいですっ! お兄ちゃん!」

「ま、まあ、悪くはない味ですわね!」

「みんなで食べるとよりおいしいですね! ハヤトさん!」


以前泊まっていたときとは違い、コ―デリアとイオもいる。


「そうだな、みんなで食べるとより旨くなるな!」


俺達は笑いあった。


――しかし突然、彼女たち様子が一斉いっせいに変わり……、

よくわからない表情で俺の顔を覗きこんでくる。


「どうしたんだ? 顔になにか付いてるか?」


と、俺は笑いながら口元を指でぬぐう。

彼女たちは言った。


――どうして助けてくれなかったの?


――なぜあの時私達を置いて逃げたの?


不意に彼女たちの目から大量の血が吹き出し――。


「うわあああッッ!」


俺は汗びっしょりで飛び上がる。

馬車の上に俺はいた……。


「どうしたのハヤトくん?」

「悪い夢でもみたのですか? メラメラ……」

「どうしたんですの?」

「大丈夫ですか? お兄ちゃんっ」


目の前には心配そうに覗いてくる彼女たちの顔があった。


夢、だったのか……。


「いや、なんでもない……。ところでここはどこだ?」

「昨日泊まった廃屋はいおくについたのよ―! ここで休憩しましょう」


リシテアはそう説明する。


廃屋……。

俺はさっき見ていた夢を思い出した。

いや、あれは夢だ。


夢の中で彼女たちはなぜ助けてくれなかったとか言っていた……。

……夢のはずだ。現実に起こる話ではない。


「ああ、わかった」


空は赤く、夕方のようだ。

相変わらず、昨日倒した《マッドウルフ》が廃屋の前に倒れたままだ。

俺はそれを見て確信した。


これは本来するように設定したはずのモンスタ―を、

俺が忘れていたせいで消滅せずに倒れ込んでいるんだ。

だから恐らく、彼女たちも消滅しないのだろう……。


「俺、食材を用意してくるよ」


うなされた俺は気晴らしにと思いそう言った。


「イオも行きます!」

「わたくしもいきますわ」


イオとコーデリアも食材探しに手伝ってくれるようだった。


「じゃあ私とレアちゃんで準備しておくわね」

「みなさん気をつけてくださいねっ」


俺とイオ、コ―デリアの三人で食材を調達することになった。

三人で集めるわけだから、前回の時よりも遥かに採集さいしゅう効率がいい。

あっという間に五人分の食材が集まった。

俺達は、廃屋に戻った。


「みんな、おまたせ」

「あら、もう戻ってきたの?」

「三人だったからな」

「じゃあさっそく調理としましょうか」


昨日倒したマッドウルフの肉が鍋に放り込まれた。


腐っていないだろうか? いや、ゲ―ムなんだからそんな事は考慮こうりょされないか。

そのまま、水と野菜やキノコを投入してグツグツ煮込んでいく。


「いい匂いがしてきましたね! メラメラ……!」


そして、前回と同じ狼肉と野菜のス―プが完成した。


「とても美味しそうですわ!」

「おいしそうですっ!」

「さあ、食べましょう!」

「いっぱい食べて元気メラメラですよ!」


俺達は手を合わせ……、


「「いただきます!」」


元気よくそう言ってからスプ―ンでス―プを食べる。


「なんだかっ前よりもおいしい気がしますっ!」

「それは、前よりも仲間が多いからじゃない?」

「そうなんですねっ! わたし幸せですっ!」


リシテアとレアはお互いを見つめ合いながらそう言った。


「このス―プ。初めて食べましたけどとっても美味しいですわ!」

「イオは美味しすぎて心が燃えて来ました―! メラメラ……!」


みんな食べ終わり手を合わせる。


「「ごちそうさまでした!」」


「イオ、眠くなってきました……」

「ふぁぁ……。私も限界ですわ……」

「じゃあそろそろみんなで寝ようぜ」


俺達は扉を開け、廃屋の中に入った。

俺達はベッドをみる。


「う―ん前回は三人でギリギリ寝れたけど、今回はだから無理だなぁ」


――突然、ノイズが流れる。

五……人……?

俺はなぜか五という数字に疑問を感じた。


リシテア、レア、コ―デリア、イオ、後は俺。


…………???

彼女たちと、俺を含めて五人だ。何もおかしくないじゃん。


「なら五人で床で寝ましょう!」


イオがそう提案する。


「でも床は寝にくいし、冷たいぞ?」


俺は床を見て思ったことを話した。


「みんなでくっついて寝れば、ぬくぬくですっ!」

「そうですわ! ハヤト様を囲んで寝るのですわ!」

「そうね! ハヤトくんをみんなで囲って温まって寝るとしましょう」

「ああ、そうだな」


そして、俺達は彼女たちと一緒に床で寝ることにした。

彼女たちはすぐ寝ついていた。


「すや…ハヤト様……って別に貴方のことはぁ……すぅ…」

「おにいちゃん……大好きです……」

「ハヤトくぅん……」

「きょうも、メラメラ……で、す……すぅ……」


美少女に囲まれて嬉しいはずなのに、

俺が望んでいたハ―レム理想郷のはずなのに……。


なのに。なぜかあまり嬉しさを感じなかった。

これは俺が望んでいたハ―レム生活のはず……。

そんなことを考えているうちに眠りに落ちた。


◇◆◇◆


俺は窓から差し込む日差しで目覚める

辺りを見渡すとみんなが居ない。


居ない?!


――まさか、モンスタ―にられたのか!?

そんなはずはっ……!

俺は慌てて立ち上がり廃屋から出た。


「おはようハヤトくん」

「お兄ちゃんおはようございますっ」

「おはようございますですわ」

「ハヤトさんおはようです! メラメラ……」


よく見ると、みんなは食事の準備をしていた。


「ふぅ……」


よかった……。


俺は昨日から気が張り詰めているな。

これじゃ――彼女たちを守れないかもしれない。

もっとリラックスしなくては。

そもそも、この設定ミスだらけの世界を守れるのか?

俺はとんでもない世界を作ってしまったのではないか?


そう焦り始めていた……。

俺達はテ―ブルに座り、朝食を取る。


「「いただきます!」」


相変わらず、朝食は目玉焼きと昨日の残りだった。


「朝に食べるというのはとても元気が溢れてくるですわね!」

「そうてすね! メラメラになります!」

「それとみんなで食べているからおいしいですっ!」

「ふふっそうね! とってもおいしいわ!」


するとリシテアはなにか感じ取ったのか俺の方を向いて言った。


「ハヤトくん。なにか悩み事があったらお姉さんに言ってもいいのよ?」

「お兄ちゃんが悩んでいるのなら私も相談に乗りますっ」

「私も相談に? 乗ってあげても? いいですけれど? フンっ!」


俺は作り笑いをして言う。


「い、いや、なんでもないっ。さあ、俺も食べようかなっ!」


俺は目玉焼きをフォ―クで摂る。

今日はあまり美味しいとは思わなかった。

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