第10話 魔王様にご挨拶

「リーザさん、お母さんに詰め寄ってるあの人達って?」

「魔王妃リリアナ様と聖女クラリエル様ですよ。お2人ともベリス様のご友人です」


 正直、お母さんって美人で男食いまくっているから、女性からあまり快く思われてないのかと勝手に思っていたけれど、そんなことはないんだね。2人は凄い剣幕で問い詰めているけれど、お母さんはどことなく楽しそうだ。っていうか、会話の内容って十中八九俺のことだよね?


「誰よ!誰との子なの!?」


 そう言ってガクンガクンとお母さんを揺さぶるのが魔王妃リリアナさんかぁ。王妃ってより年頃の女性って感じがするなぁ。お母さんはお母さんで揺さぶられても全然平気そうだし。


「知らないわよぉ、私今まで食べた男の数憶えてないもの。1回きりの男なんて顔すら覚えてないわよぉ?それに誰の子だってアリスはアリスだからいいのよぉ」

「にしてもね、ベリス?サプライズが過ぎると思うのよ。子供を産んだのならせめて私たちに教えてくれても良かったんじゃないかしら?」


 頬に手を当てて困ったように微笑むのはシスター服を着たおばあちゃん、クラリエルさん。この人、しわしわのおばあちゃんのはずなのに、背筋はピンと立っていて衰えているって感じがしない。これが聖女と言う存在なのかな。


「みんなを驚かせたかったのよぉ。それと、暫くはアリスちゃんを独り占めしたかったしぃ。ほらぁ、アリスちゃん可愛いから周りが放っておかないでしょう?」

「ま、そうね」

「そうよねぇ?」


 お母さんの言葉に2人は同意し大きく頷く。いやいや、確かに俺は俺自身が可愛いというのは分かるけど、流石に放っておかないなんてことは無いでしょう。まだまだケツの青い小娘ですよ?

 なんて苦笑いを浮かべていたらリーザさんに声を掛けられた。何だろ。


「アリス様、魔王ギルヴァレン様がお話ししたいと」


 ん?今なん言いました?あ、何かリーザさんの後ろに浅黒い肌をした偉丈夫が。見た瞬間気付いた。というか、ステージ上でも見えましたもんね、この日と魔王だよ。


「魔王様?」

「はい」


 はいじゃないが。いや、魔王様でしょう?こっちから挨拶に行くべきじゃないのかな?なーんで魔王様本人が自分の足で私のところ来てるんですかね?

 ええい、戸惑っている場合じゃない。相手は魔王様だ。待たせていては不敬だろうからね。魔王様に向き合って顔を見……え、ちょ、魔王様背高い。首が痛い!


「お、お初にお目にかかります魔王様アリスと申します。こちらからご挨拶に行かねばならない所申し訳ございません」

「構わぬ。……いや、こちらこそすまぬ。気が利かなかった。」


 へ?魔王様が気が利かなかったとか謝るとか何事……あ、魔王様片膝ついて私に目線合わせてくれた。これなら首痛くならないし安心だねじゃないよ!?だから魔王様何小娘に片膝ついちゃってんの!?王様でしょあなた!?

 周りもほら諫め……てないな。リーザさんも何も言ってないけどいいのかこれ。お母さんたちはまだ話してるし。ええと、とりあえずお礼はいっておこう。


「ありがとうございます」

「何、小さな姫に礼を尽くすのは王以前に男として当然のことだ。それにしてもアリス嬢は礼儀正しいな。ベリスの娘だとは思い難痛っ!」


 魔王様が言い終わるよりも先に、魔王様の側頭部にスコーンと小気味いい音を立て何かがぶつかった。あ、お母さんの扇だこれ。ちょっお母さん何投げてんの!?しかもまだ話してるからノールックで投げたの!?


「だ、大丈夫ですか?」

「いや、こちらこそベリスの地獄耳を忘れていた。」

「あはは、でもおr……私のお母さんは間違いなくベレスお母さんですよ」

「嘘を言っていないというのは分かる。分かるのだが、これまで一切の避妊無しの数多の行為で一度もヒットしなかったベリスだ。疑う気持ちもどうしてもな」


 あー、はい。子供相手に何言ってんだって言いたいところだけど理解できちゃってるからなぁ。魔王様も私がサキュバスってのを分かってるから躊躇なくそういう話をしているんだろう。サキュバスの子供は性に関しては超早熟らしいからね。俺もまぁ前世の知識とお母さんの性教育があったからなぁ……

 ん?何リーザさん耳打ちなんて


(ちなみにギルヴァレン様もベリス様と床を共にしてます。それも何回も)

(あ、そですか)


 その情報は別に要らないです。複雑な気分になるだけなんで。


「ギルヴァレン様、お疑いするお気持ちも分かりますが、証人もいますよ。産婆のガリーさんにお手伝いして頂きましたから」

「ガリーか!?……そうか、あの時ガリーが一時行方不明になっていたのはそのためか。本人に聞いても覚えてないの一点張りでな」

「ベリス様の御意向で秘密にしていただきました」

「そうか。うーむ、しかし改めて見るとベリスに似ているな」

「親子ですから」


 何を当たり前のことを言ってるんだろうか。そりゃ親子だから似るのは当たり前でしょうに。そういう意味で返したら魔王様は「違うのだ」と頭を振った。違うとは?


「いや、父親似のところはあれば分かるかと思ったのだがな?残念と言えばいいのか」

「そういうことですか。でも私は父親とか正直どうでもいいです。お母さんとリーザさんがいれば」

「アリス様……っ!」


 アカン、リーザさん感極まってる。そんな泣かせるつもりは無かったんだけど。

 魔王様も魔王様で微笑まし気にこちらを見ている。やめてください、恥ずかしい。


「ふむ。ではどうだ?私の息子と婚約を結んで私がお義父さんにでも――ぶふぉぁ!?」


 おぉっと魔王様横方向に吹っ飛ばされた!んでもって壁にぶつかって減り込んだ!

 ……あの、何一国の主吹っ飛ばしてるんですか。お母さんにリリアナ様。

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