第9話 アリスのパフォーマンス
「お母さん、これで良かったの?」
「えぇ、バッチリよぉ?」
今回のお披露目会の主役である俺を抱えあげ、まるで悪戯が成功した少女のようにくすくすと笑うお母さん。その横に並ぶリーザさんも同様に笑っている。
俺はこのお披露目会に向けて、魅了を制御するという何だか良く分からない特訓を受けていた。試行錯誤しているうちに制御することに成功した……らしい。だって魅了向ける相手お母さんとリーザさんしかいないわけで。まぁその2人のお墨付きをもらえたから成功なんだろう。そう思うようにした。
でだ。お披露目会当日となってステージ登場となるとお母さんが急に「照明を落とすから光魔法で自分の周りを照らしてねぇ?あ、その時魅了は制御しなくてもいいわよぉ?」だなんて言うもんだからその通りにしました。しましたよ?
その結果が静まり返った会場だ。商人っぽい人から筋肉隆々とした人。サキュバスもいればシスター服を着たおばあちゃんもいる。あれが聖女クラリエルさんかな?はぇーなんか魔王っぽい人もいるしそうそうたる面子って感じだなぁ……お母さん本当に何者?
なんてボーッと会場を見渡しながら考えていたらお母さんが耳元でささやいた。
「ほぉら、挨拶しなきゃ?」
「そうだった。お母さん、降ろして?」
抱えられたまま挨拶なんて恥ずかしすぎる。だからそんな名残惜しそうな顔しないでよお母さん。あなた毎日抱えてるじゃん!よし、背筋を伸ばして前を見て!ボイスアッパーを発動っと。
「ご紹介に預かりました、ベリスの子アリスと申しましゅ」
噛 ん だ。 噛 み 申 し た。 やらかしたああああああああああああ!!!!
ぶふぉっと噴き出す声。発生源は真横。間違いなくお母さんですね、はい。くそう、くそう!あんなに手のひらに人という字を飲み込んだのに!緊張しているのか俺は!ええい、何か参加客も下向いて震えてるけど気にしてられるか続けるぞ!
「失礼しました。改めましてアリスと申します。え、えー皆さま本日は俺……じゃない私のお披露目会にお越しくださいましてありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」
そう締めくくるとぺこりと頭を下げる。
正直こんな簡潔なあいさつでいいのかと思ったんだけどお母さんから長ったらしく話さなくてもいいわよというお達しが出たので有難くそうさせてもらった。長文、面倒。アリス、子供。
さて、最初は噛んでしまったものの何とか挨拶が終わった。あー、いやまだだ。まだやらにゃいけないことがあった。
「えーっと、お披露目会と言うものは何かしら発表しなきゃいけないってお母さんから聞いたので……えっと"アイスメイク"!」
アイスメイクという魔法は自分の頭の中で思い描いたものをまるで3Dプリンターのように氷で作り出す魔法だ。俺はその魔法を用い前世でとても有名なカードゲームの青い眼をしたドラゴンの氷像を作り上げた。あのドラゴンなら映像化とかで立体的なイメージが浮かびやすいからね。少し気合を入れて結構大きめに作っちゃったなぁ……ちなみにポーズは初期の奴。
いやぁ我ながら良い仕事しましたよ。
「あらぁ、アリスちゃんったら気合入っちゃったのねぇ?練習したのより大きくて精巧になってない?」
「これで十分?」
「十分すぎるわぁ?だってほら見なさい?」
そう言われ会場に視線を移すと、おおう、みんな氷像に釘付けだ。……いや、何か嫌な視線も感じるぞ?後ろ辺りに……うわっ!感じた視線をたどるとその持ち主と目が合った。いかにもいやらしそうな顔をしたその男は俺と目が合ったことに気付くと顔を喜色に歪め舌なめずりした。うわっ気持ち悪っ!
「む、いけませんね。警備員、お客様を1人お帰りになっていただいてください」
「っ!はぁーい!」
不快に感じたその時、リーザさんの鋭い声が会場に響いた。それに反応した会場の壁際で等間隔に並び待機していたサキュバスたちが氷像から意識を引き戻し、俺に変な視線を向けていた男に一斉に飛び掛かり強制的に会場から連れ出されていった。こういう時、何かしら一言発すると思うんだけど声に出す間もなく猿轡かまされちゃったみたい。ってかサキュバスたち強いね。
「誰かしらぁあれ」
「トッレルノの商人ギルドのマスター、オーガイ様ですね」
「ふぅん、じゃそこは今後はいいわぁ。あの視線はアリスちゃんを我が物にしようとしてたみたいだしぃ」
「そうですね、そこまでいい商品を扱っているという訳ではございませんでしたし」
「あっちの方も衰えてきたしねぇ」
あの、お母さんにリーザさん?目が怖いんですけど?俺2人のそんな表情初めて見るんですけど?さしずめ養豚場の豚を見るかのような視線ですけど?あ、こっちに顔向けたらどっちもいつもの優しい顔に戻った。……あれだ、この2人怒らせると怖いんだね。
「さてぇ、変なトラブルもあったけどぉ、改めてみんなぁ私の可愛い可愛いアリスちゃんをよろしくねぇ?それじゃあお食事を楽しんでぇ?」
そんなお母さんの締めの一言でまずは俺の挨拶が終了した。そんな訳で青目のドラゴンは邪魔だし冷気放って寒いだろうからとっとと壊して――
「アリス様、残しましょう」
「えぇ?でも寒くない?」
「大丈夫よぉ、確か中の物の時間を止めて保存する透明な箱があったはずだからぁ、それに入れましょう?」
「そう?お母さんがいいなら残しておくけど」
俺もここまで完璧に出来たドラゴンを壊すのもちょっと忍びなかったしね。壊さなくて済むならそれでいい。でもどこに置いておくつもりなんだろう……?あ、一旦サキュバスさんたちが会場から運び出すのね。あんなに肌露出させたい服で氷の塊持って寒くないのかな?
「大丈夫ですよ、彼女たちは各娼館の警備も担当するほどの実力のあるサキュバスなのです。――まぁ私には及びませんが、あれくらいの氷像を持ち上げるのは訳がありません」
「寒そうだけど」
「……普通の氷なら苦ではないと思うのですが、アリス様の氷ですからね」
俺の氷だからとは?なんて首を傾げていたら――
「どういうことなの、アリス!?」
「誰の子なのよあの子!あんな可愛い子!」
「もぉー2人とも落ち着きなさいよぉ?」
お母さんがさっき見つけたおばあちゃんとお母さん並みに気品を感じさせる女性に詰め寄られていた。どういう状況?
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