第6話 お披露目会当日!?

「アリス様……前世が男性というのは嘘では……?」

「いや、間違いなく男だったはずなんだけど。」


 俺とリーザさんが顔を見合わせて首を傾げる。

 というのも、魔法の練習と合わせて礼儀作法の練習もしているのだが、1回リーザさんのお手本を見ただけでとてもスムーズに行えるのだ。

 俺の前世はごく一般的な男子高校生で、そんな貴族っぽい所作とか縁もゆかりもなかったはずだ。でも体は自然に動いちゃう……悔しい!ビクンビクンはしないけど。


「いいじゃないのぉ、出来るに越したことは無いわぁ?」


 紅茶を優雅に飲みながらこちらを見て微笑むお母さん。しかし、お母さんも結構自由な人なんだけれどそういう所作が様になっているよね。普通にしていればサキュバスだなんてわかるはずもない。それを言うならリーザさんもなんだけれど。


「それはそうなのですけれど……しかしやっぱり不可解ですよ。元男性で作法に知識のないアリス様が即習得できるなんて、あり得ませんよ。あ、いえ勿論アリス様が嘘を言っているという訳では」

「分かってる分かってる。俺も出来なかったことが出来ることにビックリしてるから。」

「ふぅん?気になるなら鑑定すればいいんじゃないかしらぁ?」


 ほう、鑑定?異世界の醍醐味の1つでもある鑑定スキルがこの世界にも存在するのか?でもお母さんたちの魔法の技術なら使えてもあり得ない話でもないのかな。ちなみに俺も最初「ステータス」!だなんて声高らかに唱えたけどゲームのようなウィンドウは現れませんでした。


「鑑定、出来るの?」

「えぇ。でも私は使えないわよぉ?使えるのはこの前話した私の友人のクラリエル。彼女なら細部まで鑑定してもらえるのよぉ?人間の間で出回っているのは精度に欠けるから。」


 クラリエルさん……確か二世代前の聖女の人だって言ってたよね。そんな人が鑑定するなんて普通あり得るのだろうか。すげぇなお母さんの繋がり。

 にしても鑑定かぁ。どんな感じで分かるんだろうな。魔法が使えるってことは俺はそっちの才能があるかもしれない。まぁ前提サキュバスとしてのスキルも高いんだろうけど。それはちょっと憂鬱だな。なんて思いを馳せながら俺はリーザさんの指導の元礼儀作法の練習に取り掛かった。

 あ、次の日にはマスターしました。



"お披露目会当日 オークの商人エドガス"


「うーむ、ここに来るのも3年ぶりくらいか?」


 私は2週間前の朝、いつの間にか枕元に置かれていた招待状の封筒を手に、迷いの森の中にあるサキュバスクイーンであるベリス様が住まう洋館の前まで着ていた。

 ベリス様とお会いしたのは私がまだ旅の商人だった頃、森で彷徨っていたところでこの洋館にたどり着き、招き入れてもらった。そこではメイドであるリーザ殿が作った食べたことの無いような美味なる食事を出され、舌鼓を打ち――気付いたときには私は性的に食べられていた。

 その当時の行為の記憶は殆どなかった。ただ、気持ちよかったとしか……だが、私とベリス様の縁はそこで終わらなかった。私が一宿一飯の御礼に持っていた商品の一部をお譲りしたところ、ベリス様は大変気に入ってくださり、定期的に私から商品を買っていただけるようになった。


 そこからだ、私の商売の流れが来たのは。ベリス様が愛用しているという売り文句は瞬く間に広まり私は一気に魔王様が納める城下町の一等地に店を構えられるようになるまで成長したのだ。

 いやもう、本当にベリス様には感謝しかない。あの出会いがなかったら今更私は野垂れ死んでいただろう。勿論、今もベリス様との取引は継続中だ。

 しかし、この2年程ベリス様からの連絡がぱったり途絶えた。リーザ殿は時折、商品に買いに来られるのだが、ベリス様の事を聞いてみると「今主人は誰にも会われません。」の一点張りだった。病気なのかと聞いても「お答えできません」とのこと。

 もしかして最悪のケースなのではと思い至った時に招待状が届いたのだ。中身には"お披露目会を開催します♡2週間後に来れる人はこの封筒を持って適当な森に入ってね♡みんなのベリスより♡"との文が。

 その文を見た瞬間、私は安堵のため息を漏らし、今日に向けて準備を行った。


「お披露目会か。何をお披露目されるのだろうか?」


 見たところ、私以外にも招待客がいるようだ。む、大農家のキャベディやマッサージ師のナルターもいるではないか。むむっ!?あそこに見えるは城下町屈指の娼館、『ヘブンズ・ヘル』の長ラウレア!?あっちは姉妹店の『ダーク・ピンク』のファビアナまで!?他にも有名どころのサキュバスが多数集まっている。もしかして中で行われるのは……!


「らんk……!」

「では、無かろうな。」


 私が言おうとしたところで何者かが被せるに否定してきおった。誰だ人が折角期待胸込めて言おうとしていたのに……っててて!


「ま、魔王様!?」

「その方、エドガスだったな。お前もベリスに招待されたか。」

「は、はいぃ!」


 魔王様の威風溢れるそのお姿に、自分が未だ棒立ちしていることに申し訳なさを感じ、慌てて跪こうとしたところで手で制された。


「止めよ止めよ。今回は我は一招待客としてきておる。そのような態度は不要だ。」

「ありがとうございます……!」

「うむ、それでよい。しかしなんだな、ベリスは何故いきなりお披露目会などという催しものを企画したのだ?」

「さ、さぁ……私にもさっぱりでして……」

「ま。旦那さまってば、ベリスにあまりお会いになってないからって彼女が突発な女性だって忘れたのかしら?」


 え?魔王妃であるリリアナ様まで来ておられたのか!?魔王様の陰に隠れられてて気づかなかった。でも女性であるリリアナ様も招待されているってことは本当に私が考えていたこととは違うのか。

 うーん、ちょっとがっかり。

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