第5話 初めての魔法
「アリスちゃん、前世で何か得意だったこととかない?」
お披露目会の開催を知った翌日の朝食の席で何の前触れもなくお母さんがそんな話題を振ってきた。
得意だったことって……俺、自慢じゃないけど運動も平均、勉強も平均の至って普通の学生だったんだが。これといった特技もない。……改めて思うけど、俺転生するような人間じゃないよなぁ。
そのことを伝え、ついでに何故そんなことを聞いてみると、お披露目会で何かしら披露できればと思ったそうだ。
「ほら、アリスちゃん可愛いでしょう?そんなアリスちゃんが可愛いだけじゃないってことをみんなに知ってもらいたいのだけれど……」
「と言われても……」
「でしたら魔法を覚えていただくのは如何でしょうか。」
うんうんと悩まし気に唸るお母さんと俺にお茶のお代わりを注ぎながらそう提案したのは、リーザさんだ。
「あらぁ、いいわねぇそれ!アリスちゃんはどぉ?」
「えっと……俺、魔法使えるの?生後一年なんだけど。」
使えるものなら使ってみたいけれども。実は何度か魔法を使ってみようと赤ん坊ながらチャレンジしたことはあった。最初は定番であろうファイアとかウォーターとかありきたりそうな魔法名を口に出してみた。不発。前世で読んだ中二病な小説を思い出し、『紅蓮の炎よ』とか『絶対零度の』とか小難しい詠唱を唱えてみた。やっぱり不発。
ここは一番身近なお母さんとリーザさんの真似をしてみる。――アカン、この2人詠唱も魔法名も言わずに指先を動かしたり目線を動かすだけで魔法発動させてる。参考になりません。
もしかして、俺には早いのではと2日ほどで魔法を使うことを諦めたのだけれど……
……あの?お母さん?なんで抱き着いていらっしゃるのでしょうか?何で俺をダイナマイトボディに埋めているのでしょうか?いい匂いしてますね、お母さん。
「あら、あらあらあら。凄いわぁアリスちゃん!沢山の魔力を感じるわぁ!」
あの、お母さん。喜んでいらっしゃるところ申し訳ないんですけどそろそろ苦しいです。
バンバンと背中を叩いたことでようやく気付いたようで、拘束を緩めてくれた。まさか第二の人生が母親の胸の中で終えそうになるとは思わなかったぞ。
「ごめんねぇ、アリスちゃん。」
「大丈夫ですか、アリス様……?」
「うん……息苦しかっただけ。」
「え?あのそっちもですが……いえ、流石でございます。」
ん?そっちってどっち?額に汗浮かべ、恭しく頭を下げるリーザさんに、俺は首を傾げる。窒息に耐えただけで流石とはこれ如何に。
でだよ。何でお母さんは俺にいきなり抱き着いたかというと、俺の魔力量を調べるためだったとか。で、魔力あったそうです。それもお母さんが驚くほどには。
「じゃあ何で俺はこれまで魔法を使えなかったの?」
「あら、使おうとしてたのぉ?自分の体の魔力の流れとか把握してないと魔法って使えないのよぉ?」
「え。」
何それ俺知らないんだけど。つまりあれか?俺は大前提をすっ飛ばして魔法を使おうとしていたわけなの?配線を繋がずにパソコンを起動しようとしていたわけ?そりゃ発動しないわけだよ……
という訳で、お披露目会関係なしに改めて魔法を学ぶことになりました。
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いやぁ、魔法を学ぶことの第一歩が再びお母さんのハグとは思わないでしょ。流石に2回目は最初から緩めてくれたから苦しくは無かったけれども。
さて、このハグもただのハグではなく、体の中の魔力の流れを把握するためだとか。現に抱かれながら集中するとお母さんの中で温かい何かが流れているのを感じ、同時に俺の中にも流れているのを感じた。なるほど、これが魔力なのか。体中に常に流れているってまるで血液みたいだなぁ。
「……ちなみに手をつなぐだけで宜しいのですけど。」
「リーザさん今なんて言った?」
「じゃ次よぉ!」
リーザさんがボソッと何かをつぶやいたようだけれど、聞き逃してしまった。聞き返そうとしたところでお母さんが次のレッスンへと進めた。リーザさんも素知らぬ顔をしてるし何だったんだ?
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魔法を発動するには体中を流れる魔力を発動させたい場所――基本的には手のひららしい――に集中させ、頭でイメージを浮かべ魔法名を唱え、発動させるらしい。
試しにお母さんが指を立て「ファイア」と唱えた。すると、ライターのような小さな火が指先に現れた。
「熱くないの?」
「うふふ、自分の魔力で発動した魔法は自分の体には悪影響は無いのよぉ?だから熱すぎるとか凍えるなんてことは無くて、精々温かいとか涼しいくらいねぇ。」
「へぇ……それじゃあ俺もファイア!」
「え、アリス様待っ!」
うん?ファイアを使おうとしたところでリーザさんが止めに入る。が、唱えた後な訳で。指先に炎が灯るわけで。おぉ、我ながらちょっぴり感動。初めての魔法、成長しちゃったよ。ちょっと指先に魔力を追加で送ってみる。おぉ、バーナーみたいに火が立ち上った。
「まぁ!アリスちゃん凄いわぁ!」
「え、あれ?完璧すぎません?あれ?」
うん?リーザさんなんか言った?お母さんの歓声で良く聞こえなかったよ?
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