第7話 魔王は旧知を見つけた

"オークの商人エドガス"

 とりあえずこのまま外で突っ立っていても埒が明かないということで洋館に入ることにした。……後ろに魔王様が付いて歩くのは正直やりにくいな。別に悪いことしているわけではないのだが。

 大きな扉の前では1人のサキュバスが受付を行っていた。む?リーザ殿ではないな。


「招待状をお預かりしまーす。」

「よろしく頼む。……ところで君はここで働いているのかな?」

「いえ、オーナーに言われて1日だけお手伝いしているんです。でも憧れのベリス様の御屋敷で働けるなんてサキュバス冥利に尽きます!」


 おおう、翼広げて尻尾をくねらせて本当に嬉しいのだな。サキュバスからしたらベリス様は我らで言う魔王様のような方だ。その方の元で働けるのはそれだけで名誉なことなのだな。おっと、そうだ。働いているこの娘ならば知っているのではないか?


「そうかそうか。ところで、今回のお披露目会の事は知っているかね?」

「すいません、私も聞き及んでないんです……」


 残念だ、徹底しておるのだなぁ。知っているのはベリス様とリーザ殿くらいか。

 洋館の中に通された私たちは、これまた本日限りで雇われているサキュバスに案内され、中を進んでいく。それにしても魔王様、サキュバスに見惚れてリリアナ様に抓られるのはどうなのだろうか。英雄色を好むというし仕方ないのか?ただ国家を揺るがすのはやめて欲しいが。

 そして私たちが通されたのは広大なパーティ会場だった。毎度思うのだが、外で見た洋館の外見と中の広さ絶対合致してないよな、魔法によるものか?これがサキュバスクイーンと呼ばれる傍ら魔術妃とも言われるお方だ。


「席はどのように割り振られているのだ?」

「リーザ様より、ご自由にどうぞとのことです。」

「分かった。では私はそちらの席に……あの、魔王様?何故ついてこられるので?」

「ここまで一緒に来たのだ、いっその事テーブルも一緒で構わないだろう?」


 ふふ、この申し出を断れる私ではないのだよ。正直勘弁してもらいたいところではあるのだがなぁ……


"魔王ギルヴァレン"


 うん?エドガスの顔が固まった気がするが気のせいか?リリアナよ、どうして呆れたようにため息をついて目を伏せるのだ?

 うーむ、それにしてもベリスは我等男だけではなくリリアナを含む女性まで招待するとはどういうことなのだろうか。招待状が届いたその一瞬、少しは期待したのだがな。

 リリアナ、エドガスと共に席に着き、この会場に集まった者に視線を向ける。ふむ、我らだけではなく、人間もいるのだな。まぁあ奴はあらゆる種族と交わっているからなぁ……数年前、経験人数聞いたら憶えてないと言われたぞ。

 ……待て、あの席に座って優雅にワイン飲んでいるあの白髪の老女……まさか!?


「あなた?」

「すぐに戻る。」


 我は勢いよく立ち上がり、その者の元へと近づき声を掛ける。


「まさか、貴女がこの場にいるとはな?聖女クラリエルよ。」

「久しぶりね?魔王ギルヴァレン。……ギルくんの方がいいかしら?」


 我の呼びかけに反応し老女はこちらを振り向き皺くちゃな顔を綻ばせ、懐かしい名前を告げる。


「いや、その呼び名は止めてくれ。恥ずかしい。」

「ごめんなさい?何せあなたの小さい頃からの付き合いだからね?つい揶揄いたくなっちゃうのよ。」


 この言葉に偽りはない。このクラリエルは人間のはずなのに我よりも長生きなのだ。いつか年齢を聞いた気がするのだが、その時の事は覚えてない。そもそも思い出そうとすると何故が頭痛がするのだ。今だって痛い。

 にしてもこ奴、元聖女という肩書を持っておきながらサキュバスクイーンの館に居るとはまぁ流石というか何というか。


「貴女とベリスは面識があったのか?」

「あら、話してなかったかしら?ベリスちゃんと私は親友なのよ?」

「初耳だが?」

「なら話してなかったのね?ふふふ」


 あぁもう、この女は本当にやりにくい。聖女という割に底意地が悪すぎる。だからこそ、ベリスを親友と呼べるのかもしれんな。ベリスもベリスで人を揶揄うのが好きだからな。何度リリアナに痴態を話すと脅されたものか。


「では親友殿よ、今回のお披露目会なるものは聞いているのか?」

「勿論。」

「真か!?」

「嘘よ?」


 その言葉に思わずため息をつく。嘘をつく可能性は十分にあったはずなのに額面通り信じてしまった自分が恥ずかしい。

 そんな様子の私を見てクラリエルはくすくすと笑い、目に滲んだ涙を拭きとる。泣くほど笑ったのかこいつ。


「残念だけど私も全く聞いてないのよね。あの子ったら私にも秘密だなんて。」

「親友的予想はないのかね?」

「あの子が珍しい服だとか宝石を手に入れたからってお披露目会するほどとは思えないのよね。となるといい人を見つけたとか?」

「あの女が!?」

「ギルくん失礼ねぇ……まぁ否定はできないけど。」


 いや、貴女も失礼ではないか?そう口に出そうとしたその瞬間、この空間に声が響き渡った。

 叫んでいるわけでも無いのに響き渡るこの「テス、テス」と確認するかのような声。ベリスのただ1人の腹心リーザか。姿が見えないかと思ったら司会進行なのか?


「皆さま、ようこそおいでいただきました。これより、ベリス様によるお披露目会を開催いたします。」

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