第2話 食い散らかされる結末


クロト「待てベニ!そのロッカーに触れるな!」



ベニ「えっーー」



 クロトの声が届いた時には、既にベニがロッカーを開けた瞬間だった。


 そしてーー中から飛び出すように現れた”それ”に襲われた。



 グアァァァァ!!!!



 ”それ”ーー白目を向いた中年男性が、ベニを喰らいつこうと覆い被さる。



ベニ「うわっ!ヴワァァァ!!!」



 必死に噛み付かれないよう抵抗するが、ベニは徐々に力の限界を迎えていく。



クロト「ベニ!」



 全員が突然の状況に戸惑ったが、咄嗟に動いていたアイガが助け出す。



アイガ「くっ!ちっ!」



 男を横から蹴り飛ばし、教室の端へ叩きつけた。



ベニ「あっ!す、すまんアイガ!」



アイガ「礼なら後にしろ。見ろ」



 全員が男に視線を戻して、その光景に目を疑った。



 男は先程壁に首を打ち付け、右に90°折れ曲がっていた。


 それにも関わらず、痛がる素振りを一切見せず、唸り声を上げながらゆっくり立ち上がった。



ナツキ「うそっ……!?どうして生きてるの!?」



コウダイ「あり得ません……!顎部の可動域は、本来50°と言われています!それ以上折れ曲がれば、言わずもがな、生きていられるはずがありません!」



ソラ「でも立ち上がったよ!?」



ベニ「ワイらと同じように、ここに連れてこられた被害者……ってなワケないわな!」



 異常な光景。


 皆が恐怖で絶句する中、クロトだけが歯を食いしばるように落胆する。



ビャクヤ「ん!?クロト!?何か知っているんだね!?」



クロト「……こいつは恐らくーー『アンデット』だ!」



モモカ「えっ!?『アンデット』!?ゾンビってこと!?」



 にわかには信じ難い事だったが、次の瞬間その名の通り、男は再び近くのベニ目掛けて襲いかかる。



 グワァァァ!!



ベニ「き、きたっ!」



アイガ「普通なら笑ってバカにしてやる所だが、どうやら現実らしいな」



モモカ「アイガお願いっ!」



アイガ「分かっています姉上。お下がりくださいーー」



 拳銃を構えたまま前に飛び出し、男の脚を蹴って払い除ける。


 体制が崩れるのを確認。

 アンデットを四つん這いの姿勢した後、見下すように頭上に銃口を押し当てた。



アイガ「ーー姉上が貴様の汚ぇ返り血で汚れるだろうが。おすわりだ木偶の坊」



 ズダンッ!!



 銃弾が男の頭蓋を貫通し、その場で崩れ落ちた。


 ふぅと冷静に弾を込め直すアイガに、一同は恐怖と安堵を同時に感じていた。



コウダイ「……貴方が味方で、これほど心からよかったと思った瞬間は他に無いですよ」



ベニ「……ほんまやな」



ソラ「相変わらず怖いけど……」



アイガ「勘違いするな貴様ら。俺は姉上だけの専属ナイトだ」

 


 アイガは一切自らを傲る訳でもなく、冷めた表情で台詞を吐き捨てる。


 アンデットを完全に仕留めたが、根本的な解決はしていない。



ベニ「けどなんや一体……!アンデット!?おいおい映画の撮影ちゃうんか!?」



コウダイ「……だといいのですが」



モモカ「カメラも撮影スタッフもいないし……」



 一同が戸惑う中、クロトだけは一人確かめるようにスタスタと歩く。


 クロトの胸の高鳴りが、まるで部屋全体に響き渡っているようだった。



クロト「嘘だろ……!嘘だと言ってくれ……!」



ソラ「クロトくん……?」



 何かを願うように、クロトは教卓の方へ歩いていく。


 座っていたビャクヤはそれに気づき、首を傾げながら道を譲る。



ビャクヤ「どうかしたのかいクロト……?」

 


クロト「……退いてくれ」



 乱暴に教卓の机を退かすーー


 すると床面に隠し扉が出現した。



 中を開くと、床下に人数分の拳銃ーーハンドガンが詰まっていた。



 当然全員が隠し扉と拳銃の存在に驚くが、何より一番ーーそれを分かっていたクロトの行動に驚いた。



コウダイ「クロトさん!?何ですかそれは!?」



ナツキ「クロト!?これはどういうこと!?」



アイガ「貴様……!何故これがあるのを分かっていた!?それにアンデットの事も知っていたな!?どういうーー」



 アイガがそこまで言ったところで、クロトは絶望したような表情で突如叫んだ。




クロト「お前らも分かってんだろうが!!」



 突然の叫びに、全員が眉をひそめて戸惑う。


 こんな常識離れな現状に心当たりがあるはずが無いーーそう考えて当然である。



ソラ「どうしたのクロトくん……!?」



ナツキ「そうだよクロト……!私たちは何も分かんないわよ……!」



クロト「分かんねぇはずがねぇよ……!ここにいる全員はーー”これ”を忘れるはずがねぇ……!」



アイガ「……”これ”だと?」



クロト「……こいつを見ても分からねぇか!?」



 クロトは握り締めていたーー携帯ストラップを全員に見せ付けた。


 ハリネズミに見立てた、9本の針が特徴的なトレードマークがデザインされているーー仲間を意味する携帯ストラップ。



 次の瞬間、全員の表情が凍り付くーー



ビャクヤ「……それは!」



ナツキ「うそっ……!」



 全員が同時に、それぞれのポケットに違和感があることに気がついた。


 取り出すと同じようにーー他7人全員のポケットに携帯ストラップが入っていた。



モモカ「いやっ……!」



ベニ「嘘やろ……!?ほな”これ”って……!」




ーー全員がクロトと同じ思考にたどり着く。



 ”これ”が『過去の事件』と繋がる、地獄のデスゲームであることを。



クロト「全員理解したよな……!?あぁそうだよ……!”これ”はーー『Wonder Land』だ……!」




『Wonder Land』




 クロト達がまだ、夢も想いも同じだった頃ーー


 ちょうど1年前の出来事だった。



 毎日共に集まって、放課後も一緒に遊ぶ仲の良さだった。


 コントローラーを回し合って、夜通し色んなゲームしたりーー

 カラオケボックス数部屋借りて、喉が枯れるまで歌ったりーー


 花火大会の後に、肝試しやお泊まり会もした。



 そんなある日、誰かが言ったーー



「ゲームを作ろう」



 個々の特技や能力を活かして、知恵を出し合って、一つのコンピューターゲームを作ると言う話になった。


 

 テーマはーー

 アンデットや人喰いモンスターと戦い、生き延びるというシンプルなアクションホラーゲームだ。



 中学生でコンピューターゲームを作る事は容易ではなかったが、とある人物の存在が、このプロジェクトの鍵を握っていた。



「僕がプログラムを造るから、みんなはアイデアとかあったら教えてね」



 名前はーー


 ミドリーー気弱で、心優しい内気な少年。


 翠色のショートスタイルの髪型、眼鏡を日常的に掛け、パソコンとゲームが好きな平凡な中学生。



 しかしミドリは、学校の成績は並だが、このプログラミングの知識だけは”天才”の域に達していた。



 自作でアプリケーションやシステムを作成するのは勿論、別のコンピュータへのハッキングなんて事もやってのけた。



 ミドリを入れるこの9人は、夏休みを使って自作ゲーム『Wonder Land』を、力を合わせて完成させることを心待ちにしたーー




 とある”事件”が起こるまではーー




クロト「お前ら覚えてるだろうが……これは紛れもなく、俺たちとミドリが作ろうとしたゲーム……『Wonder Land』だ!」



ナツキ「で、でも……そんなっ」



 ナツキの声が震えていた。


 それだけでなく、クロトを含む8人全員の膝が震えていた。



コウダイ「そんなわけ……あり得ません……!」



ソラ「そ、そうだよクロトくん……ありえないよ。だって……」



ベニ「ありえへんわ……!」



モモカ「クロトくん……クロトくんが一番よくわかっているでしょう……?」



アイガ「姉上……」



ビャクヤ「……ありえない。うんありえないよ。だってーーミドリはもう、”死んでいる”んだからね」



 ミドリは既に死んでいるーー


 過去を噛み締めるように、クロトがこの場で言い直す。



クロト「”死んでいる”……!ミドリは、”殺された”んだ!」 

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