第2話

 タワーを降りる女を、しばらく上から眺めていた。誰とも会う気配はない。女が見えなくなってから、自分もタワーを降りた。


 まずは、女の胸を見ていた三人。ひとりは国交省の回し者、もうひとりはおそらく商店街の間者。最後のひとりは、誰だ。地上げ屋絡みならさっき抱きついたときに言っただろうから、違う。


 警察か、あるいは新しい勢力か。


 まずはモールから探るか。電話をかけた。


「はい、コンビニエンスドリームロール」


 いきなり店長が出た。この店長、未成年という疑惑がある。


 駅前の、コンビニを装った一大勢力。駅前が平和なのは、このコンビニが睨みを利かせているからでもある。一度動くと、制御が効かないというおそろしい特徴を持つ。最近、郊外にある小さな空港を丸ごとジャックしたらしいという情報もあった。


「崎敷です。何人か借りたいんですが」


「あ、郊外の土地絡みですか?」


 さすがに耳が早い。説明も何も要らない。


「はい」


「なんかそれ絡みで、警察の特殊部隊が駅前入りしてますけど」


「特殊部隊」


 なんでだ。ただの土地の奪い合いだぞ。


「足留めできますか」


「駅前に滞在するならいくらでも足留めできますけど、なんか行き先がその土地みたいで」


「わけわかんないな」


「どうします?」


 人員を借り受けるか、それとも情報か。どうやらそういう二択らしい。


「ひとつ訊いていいですか」


「訊くだけなら無料ただですね」


「どこかに付くとか、ありますか。モールとか商店街とか」


 コンビニエンスドリームロールは、コンビニであってコンビニでない。モールが来ても商店街が出張っても、何も関係はないだろう。ただ、モールに分店を出すとかの可能性はある。


「ないですね。しいて言うなら」


 電話先。わずかな無言。


「土地の権利者を殺した相手がいるとするなら、報復するぐらいかな」


「うおお怖え」


「あなたじゃないでしょうね?」


「違います」


 土地の権利者のじいさん。数日前に、高血圧で倒れた。食事にグレープフルーツでも盛られた可能性がある。高血圧の薬とグレープフルーツは、致命的に相性が悪い。


 その日にじいさんから、郵便が来ていた。その中に入っていたのが、あのカード。土地の権利書と関連書類。早い段階で電子化していて、それが自分の手に渡ってきた。


 じいさんの容態は、微妙なところだった。すでにかなり歳を食っていて、高血圧じゃなくても老衰で逝きそうな勢い。


「人を、貸してください。ひとりでいい。使えるやつを」


「いいですよ。とっておきを一人送ります。検討を祈りますね」


「ありがとうございます」


「あと、こちらも個人的に権利者のかたを病院送りにした相手を探し出して抹殺しますので」


「怖っ」


「では」


 電話が切れた。


「終わりましたか、電話」


「うわっ」


 後ろ。気が付かなかった。撃たれていたら、終わりだった。


「どうも。コンビニエンスドリームロールをごひいきにしていただきありがとうございます」


 仕事が早すぎて、こわい。


「店長の意を受けて参りました。小間遣いの小間です。小間とお呼びください」


「レジの人だ」


「ええ。ドリームロールではよくレジにいますね」

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