第35話 罠

 黒を基調としたゴスロリ服を着た人でした。足は枯れ木のように細く、背もユミくらいの身長でした。

 DMでは着ている服の指定までされていませんでした。しかし、時間と場所は一致していて、その人しか周囲にはいないようなので、きっとこの人です。普段なら近寄りがたい人です。

 その人の顔は夕日を背にして立っていたので、はっきりとは見えませんでした。

 しかたなしに近づくと、その顔は老人でした。しかもおばあさんではなく、おじいさんでした。老人は白髪の口ひげを生やし、大きく目を開いて驚いている表情でユミを見ています。ユミが覗き込むように老人を見てしまって、驚かせてしまったのだと思って、ユミは身を引きました。

 一瞬、ユミは戸惑ってしまいました。しかし、気持ちをすぐに建て直して、話し始めました。

 「あの私、ここに荷物を・・・・・・」

 声が裏返り、震えてしまいました。

 話しかけた途端、老人はユミの腕をがっしりと握りました。

 「やあ、君久しぶりだね」

 と老人は話しはじめ、ユミを両手でがっしりとハグしました。

 見ず知らずの老人にハグされて、身の毛のよだつほど気持ち悪くなり、必死に引きはがそうとしました。もがくのですが、老人とは思えないほど強い力で、掴まれています。もはや、ハグと言うより、捕獲された獣になった気分です。

 「君、うちの短大の学生だっただろう」

 ユミの耳元で老人がそう囁きました。

 ユミの胸が大きく鳴りました。

 ゴスロリ服の老人が身を引きはがし、ユミの両肩を掴んで目をじっと合わせました。

 よく見ると、短大の担任のホワイト・デュークでした。

 「この格好に驚いたかい。これが本当の私なんだ」

 両手を広げて、ホワイト・デュークは自分の格好を見せつけるような素振りをしました。

 「それにしても、久しぶりだ」

 再度ホワイト・デュークはハグをしてきました。

 呆気にとられすぎて脱力してしまい、なすがままにされていました。

 「まわりに警察がいて見張ってる。話を合わせなさい」

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