第21話 ランボー最後の・・・・・・。

 夕飯は「日清カップ焼きそばUFO」にしました。

 COVID-19の騒動が起きたときに、真っ先にコンビニやスーパーに走り、なけなしの金をはたいて、カップ焼きそば、袋入りのラーメン、うどんの乾麺などを安いものから買いためました。これでまったく外出しなくても、ひと月は暮らせる量の備蓄がありました。

 レトルトの商品のなかにも、野菜入りのものがありますが、そんなものは高くて買えません。流し台で湯切りをして、「ベコン」とステンレスが情けない音を立てたとき、ふと積み上がったチキンラーメンのパッケージが目に入りました。

 かわいらしいひよこのキャラクターを見たら、目尻に涙がたまりました。湯切りが終わっていないので、涙を肩で拭きました。きっと、COVID-19対策的にもこれが正解のはずです。しかし、インスタントラーメンも焼きそばも食べるのに、どうして今日に限って、涙が出るのか。ユミはそう訝しく思いました。

 電気代も節約せねばならないので、テレビは今日からしばらく見ないと決めました。

 テレビとHDDレコーダーだけは若いころにきちんと購入しました。特にNHKでは美術系の情報が流れます。そして映画も見ておかなければなりません。たまにTSUTAYAでレンタルすることもありますが、テレビの映画も名画を流してくれるので、まめにチェックすればいい作品が流れます。それらのジャンルをまとめて録画するように設定してあります。

 テレビ最後の夜は、HDDに残っていた「ランボー最後の聖戦」を見ました。

 平和ぼけしている、アメリカ人の宣教師のガイドを、元グリーンベレーのランボーは不承不承引き受けます。一行は紛争地帯の奥地に行くのですが拉致されます。もちろん、ランボーと別れた後です。米軍に秘密裏に依頼を受けたランボーは傭兵軍団とともに、宣教師たちを助けに行くのですが、傭兵軍団は壊滅。ランボーと少人数しか生き残りません。

 危機的状況のときは「大丈夫」、「自分だけは生き残る」と過信したものが死ぬのです。勇気があるものもまず死にます。臆病で慎重なものが生き残るのです。

 ユミは「ここは戦場だ。うまいものは生き残ればいくらでも食える」と自分に言い聞かせ、ランボーが戦うシーンを見ながら、「日清カップ焼きそばUFO」をすすりました。

 そのあとに一番好きなヴィム・ヴェンダースの「パリ・テキサス」を見ました。

 短大時代、課題で「パリ・テキサス」を見ました。青空にすっと入ってくるスーツに赤い帽子を被ったひげ面の男、このカットでユミは完全にやられました。ストーリーといい、映像といい、美しいものがたくさんならんでいる映画です。トラヴィスは妻を捨てて放浪しています。そして、テキサスの砂漠のど真ん中で行き倒れになってしまいます。彼を弟が助けに来るところから物語は始まります。どうして彼らの住む場所から遠いテキサスにトラヴィスがいたかというと、親にテキサスにある「パリ」に土地を買ってあげたかったから、と言います。「パリ」は本当に存在する場所です。しかし、最後、トラヴィスとトラヴィスに捨てられた妻が再会するのですが、復縁しないで別れます。どうして妻を捨てたのかが語られます。妻といるのが怖くなったからです。妻とトラヴィスは年齢がとても離れていました。そこだけ、心情が理解できませんでした。もしかすると、ユミ自身に恋愛の経験がないからかもしれない、と課題レポートに書きました。同じ事を同級生に言ったら、「じゃあ、戦国時代を体験しないと、戦国ものの映画が理解できないの?」と反論されました。ユミは何も言い返せませんでした。そんな思い出があり、この映画はとても好きなのです。自分の前にぶら下がった謎を理解したいからかもしれません。

 見終えた後、完全にテレビの類いの電源を切りました。深い溜息が漏れました。

 ランボーのように鉢巻きをしようと思い立ちましたが、そんなものはありませんでした。

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