第13話 やっちゃん――タカシくん編

 「やっちゃんって、誰だい」

 「学校の同じクラスの、やっちゃん」

 「そうか、そのやっちゃんのお父さんが亡くなったのかい」

 うん、と伏し目がちにタカシくんは歩いていきます。

 「どうやってそれを知ったの」

 話が話だけに、詳しい経緯を強いて聞くのもどうなのか、と思いながらも、お父さんはさらに聞いていきます。きっと話したいから言いだしたんだろうと考えたのです。

 「さっき、ZOOMで話したの」

 「ZOOMなんてやってんのか。それでさっきうるさかったのか」

 テレワークで活躍しているウェブ会議用のツールを、タカシくんがやっていることに、お父さんは驚きました。

 「お母さんたちが、僕らが話せないのが可哀想って、LINEで話になったみたいで、やることになったみたい」

 またお父さんが与り知らない昼間の家の、余計な情報が一つ。お父さんは内心で動揺してしまいます。お父さんが知らないネットワークはCOVID-19があろうと無かろうと、稼働していて、昼間の家庭を動かしています。

 自分が仕事で飲みに行ったり、仕事場の連中で出掛けることになったりするときは、逐一把握したがるくせに、どうしてお母さんは自分のことを絶対に言わないのか、不思議に思いました。それはともかく。

 「それで、やっちゃんもZOOMをしてたのか」

 「ううん。他のやつが言ってた」

 「もしかして、コロナで亡くなったのか」

 「ううん。違う。仕事がなくなっちゃって、自殺したって、言ってた」

 自然と、お父さんの歩調が、ゆっくり歩くタカシくんに合っていきます。森のなかの土を踏みしめる音がやけに大きく響く気がします。

 「仕事がなくなっちゃって、どうしたらいいか分からなくなったんだって」

 「そうか」、としかお父さんは言えません。

 大人でも、子どもでも、性別に関係なく、逃げ場のない異常な世界にいるのだから、自分たちにもやってくるかもしれない事態なのだ、とお父さんは思い知らされました。背筋に何度も何度も寒気が走りました。

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