第7話 言っちまった――タカシくん編

 仕事から帰ってきても、ずっとスマホを見ています。見たところ、ストレートネックになっているようなのですが、そんなことも指摘できません。一度、「スマホ好きだね」と言うと、「仕事でもあるのよ」という反応をしました。そこから、仕事の愚痴を散々聞かされました。「こういうことを言わないためにLINEをしているの」としたり顔でお母さんは言いました。それにあきれて、その後お父さんがスマホをいじっていることに対して、とやかく言うのは止めました。スマホに関して、お母さんは有無を言わさぬのに、お父さんやタカシくんがゲームをやっていると、鬼のように怒ります。

 「そうやってさ、台所のテーブルまで使って、『仕事してます』アピールしてるけど、誰にしてるの。アタシたちにしても意味ないよ」

 アホみたいに仕事ばっかしてるんだから、とスマホのことを注意していないのに、嫌味を言われました。お父さんはだんだんムカついてきました。

 「あのさ、仕事ばっかりしてれば、育児とか家事を手伝わないって言われて、家にいて子どもの話をすれば、嫌味を言われて、そんなに嫌なら、別れようよ」

 とんでもないことを言ってしまいました。

 話を続けるのもいやなので、邪魔をされない場所、トイレに逃げ込みました。

 こういうときに外出できないというのは困りものです。

 「やっちまった」という思いで、便器に座って、頭を抱えてしまいました。

 乗っかって、「離婚」とか言われたらどうしよう。

 いつまでもトイレにいるのも不自然です。「水がもったいない」と思いながら、用を足してないのに、トイレを流して外に出ました。お母さんがトイレの前に立っていました。

 「あなただって、動揺してるじゃない」

 と言い放ち、お母さんはどこかへ行ってしまいました。

 こんな状況で、平静を保っている人間なんていないよ。お父さんは内心ごちました。と同時に「離婚」の話は流してくれたことを、お母さんに感謝しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る