後日談1「言え! 愛していると!」
「第一回、防衛隊『愛してるゲーム』選手権! どんどんぱふぱふー!」
バーガー片手に何事かと見守る幼馴染たちに、美都は抗議した。
「反応が薄ーい」
一方の学は微妙な笑いを返す。反応が薄いのではなく、いきなりの無茶振りに戸惑っているだけなのだが。
「だってさー、久しぶりに4人で遊んでるんだし、何か思い出作りしたいじゃん!」
確かに学と倫は勇者活動、千彰と美都はディアのお相手と学生でありながら忙しい毎日を送っている。充実しているから気にしなかったが、4人で過ごす時間は減っているのは感じていた。
なお、ディアはアリサの家に遊びに行っている。
菅野家に続き、彼女も家族に異世界帰りの勇者であることを暴露しあっさり受け入れられた。
ディアを引き合わせてからというものご両親は彼女を溺愛し、事あるごとに連れて来いとせがむ。彼女も子だくさんで遊び相手の多いブランドー家が気に入って遊びに行きたがるため、ようやく防衛隊の初期メンバーとの時間を作ることができた。
学はそういうことかと一応は納得し、質問で返した。
「で、なんでそんな旬を過ぎた遊びをやろうと?」
「手あかのついた遊びの中に楽しさを見出す。それが通ってもんでしょ」
「分かるわ! 子供の頃見た特撮も今見直すと新たな発見が……」
「そういう話じゃないと思うけど……」
いつも通り暴走する倫を千彰がなだめにかかる。
この空気感、久しぶりである。
「まあいいじゃない。美都の遊びに付き合って楽しくなかったことないでしょ?」
こういう時、倫が最も鷹揚、というか動じない。
確かに、美都の盛り上げ力は防衛隊随一。せっかく皆で集まったのだから、ここで乗らない手はない。
と、思っちゃったのである。
「じゃあ、一応ルールを説明してくれ」
「そう来なくっちゃね!」
美都はにんまり笑ってルールの説明を始める。
と言ってもシンプルだ。相手に「愛してる」と言って照れるか笑わせれば勝ち。いわれる方は感情を乱さないように「もう一回」を繰り返す。
レクリエーション用の遊びなのでそんなものだと思うのだが、提案した美都の誤算は防衛隊の濃いメンツにこの遊びを持ち掛けたことだった。
「じゃあ私から行くね! 学とやるのも面白そうだけど、倫に悪いから千彰に言うね!」
美都はわざとらしく流し目でしなを作ると、くねくねと変な動きで愛をささやく。
「千彰、愛してるよん」
言われた千彰を別にして、微妙な空気が流れる。
学は「うへー」と舌を出した。本人は至って真面目なのだろうが、傍から見れば中学生の悪乗りだ。
こいつは自然体で接すれば魅力的なのに、いざ身構えるとなぜこうも残念になるのだろう。
「どうよ?」
えっへんと胸を張って千彰の返事を待つ美都だったが、待望の返事は斜め上だった。
「うん。僕も愛してるよ。美都」
「……っ!」
美都はと真っ赤になった顔を両手で覆う。
「ちょっ、ごめん! 待って! 待って!」
倫は「おおー」と感嘆の声を上げる。
「Gガンガルの最終回みたいだったわ!」
「倫、その感想いらんから! 千彰も、これそういう遊びじゃないから!」
自分はいったい何を見せられているんだろう? 自問する学だったが、千彰はしれっと言い放った。
「ごめん。美都が可愛かったからつい……」
美都はさらにテンパって、普段は出ない広島弁で「許して
このくらいで遁走するならこのゲームをチョイスしないでいただきたかった。
場の空気が変な方向に行ったので、「じゃあ、そろそろ……」と他の話題に切り替えようとするが、倫が許さなかった。
「そうね。それじゃあ攻守交替して次は千彰が言う番かしら」
貴様は鬼か!
千彰は千彰で「良いの?」と期待に目を輝かせる。勘弁してやれと首を振って見せると、片目をつむって「残念」と微笑んで見せた。こいつ最強だなと思う。
「じゃあ、次は学の番だね」
「望むところだわ! 全部受け止めるからどんときなさい!」
両手を広げて見せる倫に、呆れて頭に手を当てる。
「おい、まだやるのかよ?」
「嫌なの?」
微笑む倫は口調こそいつもと同じだったが、その目にはどこか期待の色があった。
これは断れんなと口を開きかけ、それで良いのかと閉じた唇をかむ。
千彰はこんなにも一途に美都への愛情を表現したのに、自分はアリサやツバキとのことでうじうじ悩んで、いや悩んだふりをして倫理観と折り合いをつけようとする卑怯者のままでいる。
本気で”英雄色を好む”を体現するには、そういう迷いは不誠実極まりない。
それなら、精いっぱいの気持ちを返すべきだと思った。
妹と2人さまよったあの公園で、救出に来てくれた時の嬉しさ。
お面を取って顔を初めて見た時の照れくささ。
彼女が虐められていると知った時の怒りと焦燥。
自分の過去を何でもないように受け止めてくれた時の癒し。
そして、こんな自分を好きだと言ってくれた時の歓喜。
そうだ、本当はずっと彼女に惹かれていた。
自分の手が血に汚れているなんて言って逃げていたのは自分の方だった。
だから……。
「倫、ありがとな。愛してる」
付き合いの長い千彰と美都は、その言葉の
普段なら茶化すところだろうに。「そっか」と2人そろって頷いて見せた。
「うん、学の気持ち、確かに受け取った」
微笑んだ倫の笑顔は、なんだかいつもの彼女じゃないみたいに大人びていて、ああ、自分はまた香川倫を侮っていたんだなと思う。そしてますます惹かれている自分に気づく。
「あー、そう言うわけでこれからもよろしく頼む。じゃあこの話題は……」
照れ隠しに話を打ち切ろうとしたが、幼馴染たちはそれを許してくれなかった。
「じゃあ、次は倫の番!」
「そうだね。僕もいろいろ聞きたいな」
「ちょっと待て! だからこれそう言う遊びじゃないだろ!?」
申し立てた異議は、たちまちのうちに却下された。
「最初にあった時、私のことを笑わないでくれたのが気になったきっかけだったわ。いつも私のことをフォローしてくれて、危ないときは駆け付けてくれて、学は私のヒーローで……」
羞恥に悶える学だったが、反面嬉しくて口元が緩んでいた。倫の言葉がとても嬉しかったから。
そんな内実など千彰と美都にはまるっとお見通しで、それから半時の間、天国と地獄の両方を味わうことになる。
だが、ラブコメ野郎の苦労は始まったばかりだった。
翌日、アリサから「何か私に言うことない?」と底冷えする声で説明と正当なる配当を要求され、ツバキからはゴミを見る目で一瞥された。
埋め合わせの行脚を行う学に、和美は笑いをこらえながら追い打ちをかけた。
「おにぃ、一夫多妻はね。それはもう大変な気遣いが必要なんだって」
学はうなだれたまま答えた。
「……痛感してます」
睡眠時間を削って調べたデートコースをプリンターで印刷する。
その実言葉のように暗い気持ちはなかった。
どうしたらそれぞれが喜んでくれるか、そんなことを考えていた。
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