第15話 エピローグ「ヒーロー達は決意する(前編)」
もう夏も終わろうと言うとき、あの戦いに関わった学たちとクラスメイトは、ご苦労様会と称して呉に遊びにやってきた。
拘束した〔
結局、彼らは〔
なお、彼も娘さんとはちゃんと向き合う事にしたらしい。声は失われたままだが、最近笑いかけてくれるようになったという。
「俺、地球に帰ったら腐るほど寝る計画だったんだよなぁ」
河衷町で起きた謎の怪事件は、様々な機関が調査を行ったが、結局「原因は不明」としか言えないとのこと。ある意味当然だが。
河衷はメディアにも注目されることとなり、一星はこれを利用してガラス事業をアピールするつもりだと言う。
なお、半壊した興絆高校は、謎の人物から多額の修繕資金を寄付され、修復後はPCルームとトレーニングルームを増設するとホクホク顔だ。
ちょっと大盤振る舞いしすぎたかもしれない。
目の前では、木本達が海上自衛隊の潜水艦に歓声を上げている。
彼らは相変わらず、オタ道に邁進している。
だが、横田と立元は、木本におしゃれを習い始めた様だ。身だしなみに清潔感が増して、クラスの女子とも普通に会話する場面が増えた。
ミリタリーに興味のない女子たちも、海風に身をさらしてテンションを上げているようだ。
「学! ここに居たのね!」
目ざとく居場所を見つけた倫が、突進してきて学の腕を抱いた。
「お、おい! みんな居るんだぞ!」
「そんなの今更でしょ?」
どんどんアプローチがあからさまになっていく幼馴染に、学は困り果てる。
「あ、抜け駆け禁止!」
倫を追いかけてきたアリサが、反対の腕を占有する。
あれから頻繁に転移魔法でこちらにきて、勉強を習いがてら反応に困るやり方で甘えてくる。
「あんたたち、見ててキモイんだけど。大概にしてくれる?」
汚物を見る視線で学を見てくるツバキに、ふたりはいたずらっぽく笑う。
「あらあら、菅野椿ちゃん、嫌ならあっち行ってていいわよ?」
「本当は、羨ましいんでしょ? 少しなら代わってあげるわよ?」
「誰が羨ましいのよ! 私は人の道理を話してるの!」
ツバキは、決局菅野家に転がり込むことになった。
父をごまかすのにどんな手を使おうかと考えていたら、和美が全ての事情をぶちまけ、父を説得してしまった。和美も大概だが、全部受け止めてくれた父も大物過ぎる。その後父には、「今まで分かってやれなくて済まない」と散々泣かれて閉口したが。
◆◆◆◆◆
「君たち、懲りずに良くやるね。学は結局、一人に決める気無いのね」
あきれ顔のアポロに、アリサは我が意得たりと理屈を並べ始める。
「私たちは、サーシェスで公爵位を貰ったでしょ?」
「ああ、そう言えば貰ったね。どうせ地球に帰るから投げ渡しても懐は痛まないみたいな感じだろうけど」
「サーシェスでは貴族は重婚オーケー、これにて証明終了!」
「いや、滅茶苦茶だよっ! アリサって男性と付き合うとこんなに壊れるんだね……」
一方の倫も、笑顔でドン引きの事実を付け加えた。
「学はまた色々拘ってたから、アリサとふたりで学を部屋に押し込めて、24時間ほど『説得』したのよね」
「君たち、あの女神並みにえげつないよ!」
こいつら色々ひどいと、アポロは頭を振る。
「でも、学はこういう時気のない相手に期待させるようなことはしないだろ? 24時間とかやらなくても、もうそれが答えなんじゃないか?」
学は観念したように「ああ、そうだよ!」と答えた。
「こいつらとの日々が、楽しいと思っちまったんだよ。こうなったら、地獄の底まで面倒見るわ」
割とゲスい発言だが、学らしいと思っていると、「ピッ」と言う電子音が、ツバキの携帯から聞こえてきた。
「いまの、録音したから」
「ちょっ、おまっ!」
もう、ずっとやっていろ。
付き合いきれないと、アポロはバカップル? 達に背を向けた。
(今まで散々苦労したんだ。お幸せにね)
◆◆◆◆◆
そろそろ集合時間だと、皆の元に向かうと、千彰と美都に手をつながれながら楽しそうに歩く金髪の少女を見つけた。
「なぁなぁミサト! 女神はたこやきを所望するのだ!」
「だーめ、もうすぐご飯だから。ディアはカレー好きでしょう?」
「うんっ! 女神はカレー大好きなのだっ!」
「うん、ディアはいい子だね」
一見すると「こいつらどんな関係だよ」と訝しむところだが、3人が纏う雰囲気は何処に出しても恥ずかしくない家族連れである。
「おーい、3人とも。そろそろ集合だ」
「あ、もうそんな時間ね」
この「ディア」と言う少女、〔真・破壊砲〕を受けて力を失った女神のコアである。
学たちは彼女の処遇を大いに悩んだが、千彰と美都が「この子は僕たちが立派に育てる」と宣言した。
流石にツバキの時のようにはいかなかったので、〔博士〕に頼んで美都の両親が彼女に疑問を抱かないように刷り込んだ。どの道子供に関心のない親なので、ある意味好都合ではある。資金面では学もバックアップするつもりだ。
今回の決断で、千彰への敬意が新たなものになったが、それだけでなく、深い尊敬は美都にも払われることになった。
このふたり、いや、3人は最高の家族だろう。
彼女が再び力を得ても、人間を滅ぼそうとはしないだろうと信じている。
集合場所に到着した学に、贄川が「遅いぞ色ボケ!」と軽口を叩く。
一星によると大学を出たら、側近として鮫島商会に滑り込ませるつもりらしい。そこで経験を積んで、自分の会社を興すそうだ。
「ねえ、倫! 『人造人間マシンダー』って続編どうなの? あのクロスチョップかっこいいわよね!」
「いやいや、僕は昭和の終わりに作られた『超人ロボメタルガン』の方が好みだ。レーザーを纏った手刀が燃えるじゃないか!」
加納里桜と望月静磨が、昭和の特撮について倫を質問攻めにし始める。
そう、このふたりはその後すっかりヒーロー作品にのめり込んでしまい、倫とはある意味同志になっている。嫉妬すべきなのかもしれないが、倫の交流が増えたのは嬉しい。
ただ、ふたりとも正統派ヒーローばかりで、ダークヒーロ―に理解が無いのはもやもやする。
「さあ、菅野。昼食の前に、話す事があるんだろ?」
場を仕切りつつ、ちゃっかり傍らの霧花と談笑していた一星が、学に水を向けてきた。
「そうだな。みんな、聞いて欲しい」
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