第14話「勇者は神の力を受け継ぐ」★

 まず感じたのは、全身から溢れてくる魔力。

 容量と言う概念は無くなり、無限に等しい魔力が与えられた。

 恐らく、無尽蔵の女神の魔力ですら、今の学に比べれば微々たるものでしかない。

 そして、これは体の内部から湧き上がってくるものではない。

 仲間たちの想いの力が、魔力となって体に宿るのだ。

 学は確信する。この力は、一人では発現しなかった。

 これは、絆の力。これこそ勇者の力。


(主神とやらも、粋な事をするな)


 有り余る魔力を放出して、ゆっくりと浮き上がる。

 学は、女神に対峙した。


 右手に魔力を集中させる。

 どうやら、神の力は〔魔技師〕のジョブを超越するらしい。

 癒しの力を振りまくと、仲間たちの顔に生気が戻ってゆく。

 同時に、枯渇した魔力が回復し、更にその魔力が学の力を増幅させた。

 チート級の倍々ゲームである。


 学は、仲間たちひとりひとりを見下ろし、語り掛けてゆく。


「倫、あの時お前が駆け付けてくれて、俺の過去を受け入れてくれて、嬉しかった。これからもパートナーでいてくれ」

「ええ! 私たちはバディよ!」


「アリサ、お前が居なかったら、今の俺は無い。支えてくれて、本当に感謝してる」

「分かってるじゃない! これからもあなたが嫌だって言っても支えるから!」


「ツバキ、あの時のパンチは効いた。今後も俺たち兄妹を頼めないか?」

「ふん、都合のいいこと言ってくれるじゃない。まあ、検討してあげるわ」


「千彰、お前は本当に凄いやつだ。お前みたいになれるよう、俺頑張るよ」

「僕は、学の方が凄いとおもうけど、ありがとう」


「アポロ、俺が甘ちゃんで決断できないとき、いつも厳しい意見をくれた。本当に助かった」

「生き残るためさ。どちらかと言えば、学は好きだからね」


「志賀さん、俺がへこんでる時、スクールカーストの話をしてくれた。ありがたいと思ってるよ」

「学君、すまない。そしてありがとう」


「ネフィル、志賀さんとの明るい未来を祈ってる」

「……ありがとうございます。きっと、きっと未来を掴みます」


「帯刀」

「ふっ……」

「お前馬鹿っぽいけど、伸びしろはなかなか凄いと思うぞ?」

「貴様、俺だけ扱いが違わないか!?」


「美都、和美、一星、小暮、クラスのみんな……」


 ここにいない仲間たちも学に力を与えてくれているのが分かる。

 自分は、幸せ者だ。


 目の前の女神に向き直り、すっと息を吸う。

 そして、宣言した。


「皆! 共に戦ってくれ!」


 地上の仲間たちから「おう!」と掛け声が上がる。

 これで千人力、何物にも負ける気はしない。


『何故です! 何故神の力を手にしながら、人間などに味方するのです!』

「その人間なんかが、大好きなもんでな。どうする? そっちから来ていいぜ?」


 女神の感情の高ぶりが、学には見えた両手から雷撃がほどばしり、学の四肢を焼こうと殺到する。


「〔神速〕!」

「〔縮地〕!」


 アリサと帯刀が使用したスキルが、学の身体に宿る。

 高速で空間を跳躍しながら、雷撃を回避してゆく。


「〔氷壁〕!」


 アポロから受け取ったちからで、女神の両手を氷結させる。

 火の魔法に切り替えて氷を除去するが、その間の雷撃は停止する。


「〔スピードチャージ〕!」

「〔武装召喚〕!」


 倫から受け取った〔スピードチャージ〕で、武史の〔武装召喚〕を使用、高速で数百のレーザー砲を召喚し、女神を取り囲む。

 一斉砲撃を加えられた女神の表情から、余裕が消えてゆく。


『馬鹿に、するなぁ!』


 カッと、女神の双眼が開かれる。

 女神のスキル〔魔眼〕。視線を合わせたものを即死させることができる、神級のスキルである。

 だが、今の学には問題ではなかった。


「〔魔力吸収〕!」

「〔影使い〕!」


 ネフィルのスキルを受けて、学の眼前に巨大な影が展開する。

 女神が放った即死の魔法は、ツバキの〔魔力吸収〕に全て吸収され、全て学のものとなる。その魔力は仲間たちに分配され、更に学の力が増幅される。


『主神よ! なぜこの仕打ちなのです! 私は、こんなにもあなたを!』


 開いた双眼を血走らせ、女神が絶叫する。

 勇者なら、いや、ヒーローならそれを教えてやらねばならない。


「神の力があろうとなかろうと、俺のやる事は変わらない。お前みたいなのをぶん殴って、目を覚まさせることだ」


 右手に魔力を込め、魔銃〔デバステイター〕を召喚する。

 倒れた勇者から譲り受けて以来、苦楽を共にしてきた武器だった。

 銀の呪文が刻まれた弾丸シェルを装填。ゆっくりと女神に向けた。


「お前のしがらみを、ぶっ壊す!」


 魔銃に魔力を込め、トリガーを引いた。


「「「「〔真・破壊砲〕!!!」」」」


 学と共に、仲間たちも絶叫する。

 神の力を得た〔破壊砲〕は、辺り一面を魔力で満たし、河衷町を囲っている防壁を叩き割り、世界中を走り抜けた。

 だが、対象以外のものは何一つ破壊されない。

 人の幸せを奪う者だけを破壊する。それが〔真・破壊砲〕。


『主神よ! 私は!』


 天文学的な魔力の直撃を受け、女神はその姿を保てなくなり、崩壊してゆく。


『……これが、人間の、絆……』


 女神が遺した言葉は、後悔だったのか。

 ともあれ、勇者たちの戦いは終わりを告げた。


 少なくとも、とりあえずは。

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