第13話「勇者たちは神に挑む」
勇者たちは、衝撃波に7度耐えた。
帯刀の愛刀は叩き折られ、倫はろっ骨をやられた。
全員息も絶え絶えで、肩で息をしながら各々の武器をつっかえ棒にして立ち上がる。
だが、屈しない。
何か、反撃の糸口があるはず。
『おにぃ! 聞こえてる!?』
懐に入れた携帯が妹の声を受信する。
戦いの様子を伝えるために、繋ぎっぱなしにしていたことを思いだす。
「和美か、おにいちゃん今忙しいんだが」
不安にさせまいと、いつもの茶化すような口調で返事をする。
和美はそれに構わず、話を続ける。
『〔
こんな時に、何を話すつもりだと言い返しかけるが、〔博士〕がもたらしたものこそ、反撃の糸口だった。
『学君、私が女神の影響下にあるとき、僅かだが彼女が持っている情報を得られました。君の中に眠る主神の力は、膨大な魔力を呼び水にすれば目覚める可能性があります』
「そんな魔力、どこにあるって言うんだ?」
『この町に充満している魔力と、全ての住民から集めます。一般人の魔力は微々たるものですが、町ひとつ分丸ごと終結すれば、呼び水ぐらいにはなります』
「それは、どうすればいいんだ?」
よろよろと立ち上がった武史が、学に語り掛ける。
「……僕は、女神が裏切った時のため、町内の魔力を集結して撃ちだすマジックアイテムを作らせて各地に配置しました。それを学君に集中させれば、あるいは。……ただ、設定を変えるのは、アイテムを直接操作する必要があります」
「そんなもん、誰が操作なんか……」
『その件なんですがね。今君のクラスメイトたちが、アイテムを操作するために町中へ散っていきましたよ』
「……あいつら」
本当に、彼らはどれだけ自分を嬉しい気持ちにすれば気が済むんだろう。
皆ががんばっているのに、勇者がへこたれるわけにはいかないではないか。
「みんな聞いたな!? あとちょっとの辛抱だ! もう少しだけ耐えてくれ!」
仲間たちから一斉に元気の良い返事がある。
勇者たちは、まだ敗れてはいない。
◆◆◆◆◆
既に暗くなり出した道を、望月静磨は走った。
嫌だった。
このまま菅野学に負けっぱなしでいるのが嫌だった。
誰かに押し付けられた価値観に怯える自分でいるのが嫌だった。
ボタンを押せば新しい自分に、そんな虫のいい話を信じる気は無い。
今行動しなければ、一生菅野学に勝てない。そんな気がした。
それに、香川倫はいま戦っている。
自分は力があるわけじゃない。でも、きっと彼女は力があるから戦っている訳ではない。そのことにやっと気づいた。
僕だって、ヒーローになってやる!
望月静磨は、ひたすらに走った。
◆◆◆◆◆
加納里桜は走った。
憧れた。
自分の危機に颯爽と現れた勇者に。
ヒーローなんて馬鹿な男の幼稚な趣味だと思っていた。
でも、彼らは助けに来てくれた。万難を排し、トラウマにのたうち回りながら、自分を、母を救ってくれた。
自分は、自分のことしか考えていなかった。
人のために生きることが、こんなにかっこいいことだなんて、知りもしなかった。
一杯苦しめるような事をした。
暴言だって吐いた。
でも、自分は、加納里桜は、ヒーローの助けになりたい。
加納里桜は、懸命に走った。
◆◆◆◆◆
20回目の衝撃波で、アリサが足を折られた。
彼女は剣を杖にして立ち上がろうとする。
「もういい! 休んでるんだ!」
悲痛な表情で叫ぶ学に、びっしょりと汗を浮かべてて、不敵に笑う。それは、いつものアリサ・ブランドーの生き様だった。
「……ここでっ、戦線離脱は無しよ!」
皆満身創痍だ。それでも、希望はあると信じて、勇者たちは立ち上がる。
残った魔力で牽制を行い、少しでも衝撃波のタイミングをずらそうとする。
弱点を見つけるため、少しずつ部位を探りながら攻撃を行う。
だが、効果は見られない。
『そろそろ、終わりですかね』
21回目の衝撃波が放たれた時、もう彼らは歯を食いしばる以上の対抗策は無かった。
「学! 〔鉄壁の肩当て〕を展開して!」
反射的に両肩の防具を発動させ、衝撃波を減殺する。
おかしい。既に魔力は枯渇している筈なのに。
「学! 倫! 大丈夫!?」
駆け付けた浅見千彰はしっかりした足取りで、学の傍らに立った。
「千彰! お前……」
「〔博士〕さんに僕のスキルを見て貰ったんだ。〔マジカルアンプ〕って言うらしい。周囲の魔力を集めて増幅して、触れた相手に手渡せるらしい」
「……最高の支援系スキルじゃないか。やっぱりお前は、美味しいところを持ってゆくな」
「学に言われたくないよ。僕が皆から魔力を集めて増幅する。学は衝撃波を防いでくれ!」
しかし、最大出力の〔鉄壁の肩当て〕でも、女神の力は防げない。
スキル以外戦う力を持たない千彰では……。
そう思いかけて、首を振った。浅見千彰は、凄いやつなのだ。
勇者たちは34回の衝撃波を乗り切った。
防壁で軽減されたとはいえ、千彰もボロボロだ。もしかしたら何処かの骨がやられているかもしれない。
だが、彼は弱音ひとつ吐かない。
そしてその時、校庭に莫大な魔力が収束し、千彰に集まってゆく。
「学、神様の力を手に入れても、ちゃんと学のままでいてよね」
「K・I・G!」
学と千彰はハイタッチを決める。
増幅されて得られたのは規格外の魔力だった。
心臓が早鐘のように鳴り響く。
『息子よ……神の子よ……』
心の中で、何かがささやいた。
『もし、私の子供たちが、道を誤ることがあるなら、どうか正してやって欲しい』
どいつもこいつも、お願いが多いんだよ。
だけど、しょうがない。
「やってやるよ! 俺はヒーローだからな!」
神の力が、発動した。
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