第26話「これからのこと」
告白ラッシュは自分が非モテだと信じている学が、ようやく好意を持たれていると理解するまで堂々巡りを繰り返した。
結局「ありがとう。ちゃんと答えは出すから、もう少し時間をくれ」と言う大方の予想通りな回答となったが。
「まあ、いいわ。これから、ちゃんと私たちの事を見るように」
「そうよ、いつまでも幼馴染のままじゃ、もう駄目だからね」
と、告白した2人は何故か口を揃えて微笑み合いながら、学に苦情を入れる。
本当にこいつら、何があったのか。
◆◆◆◆◆
「巻き込んで済まない。皆の事は必ず守ると誓う」
学は、いつもみせる軽薄な態度をかなぐり捨てて、〔
反応は二分された、半分は加納里桜を中心とした、「お前がいるから危険にさらされた」と学がこの街から去る事を望むグループ。
もう半分は今まで学が厄災を食い止めてくれたから酷いことにならずに済んだと言うグループだ。
収拾がつかなくなりそうなとき、一星が動いた。
「相手はあれだけの力を持った連中だぞ? 菅野たちに守ってもらえなかったら、標的にされた時どうするんだ? 俺たちはもうあいつらの姿を見てしまったんだぞ?」
これには、前者のグループもぐうの音も出なかった。
結局、学は今までどおりに過ごす代わりに、クラスメイトの安全に責任を持つことが決まった。
吹き飛んだ校舎は、人払いの魔法で誰もいないのを良いことに「大きな音がしたので校外に避難した。後は知らない」で押し通すことになった。
「すまない」と頭をさげる学に、「ほんの礼だよ」と受け流す一星。
「それより、奴らがわざわざこの街で事件を起こす理由が知りたいな。あのツバキとか言う娘はお前への私怨だとしても、あれだけ大勢の勇者とか言う連中が行動を共にするのは何か理由があるかもしれない。こちらでも調べてみるから情報を全部寄こせ」
積極的に手伝いを申し出る一星に、「俺も手伝うわ」と贄川。
学は「ありがとう」と頭を下げた。
自分は自分のやれることをやろう。まずは、周囲に飛ばした魔導式ドローンがツバキを見つけるまで、魔力をチャージしておかねば。
◆◆◆◆◆
兄の通う興絆高校で、ガス爆発があったらしい。
慌てて電話すると、元気そうな兄の返答に、拍子抜けした。
「最近のおにぃ、なんか張り詰めてるもんなぁ」
菅野和美は、こちらへ引っ越してから、兄の変貌ぶりに頼もしい半分心配半分だ。
きっと、兄学が変わったのは、良い事ではあるんだろうと思う。
だけど、時折見せる、自分を責めるような表情に、とても心配になる。
どうか、倫たち防衛隊の面子に、彼の張り詰めた部分を癒してやって欲しい。心からそう思う。
和美が通う中学も、興絆高校と同時期に建てられたと言う事で、ガスの点検のため休校となった。
時間が出来たので今日は、兄の夕食当番を変わってやろう。何か好物を作ってあげるのもいい。からあげとか良いかも知れない。あれは油が汚れて大変だから、本来は休日メニューだけど、今日なら大丈夫だろう。
そんなことを考えながら道を歩いていると道路に隣接した畑で、何かが動いた。
草が風で揺れただけかと思ったがもう一度目を凝らすと、それは小麦色をした人間の肌だった。
「あのっ、大丈夫? 今救急車を」
スマホを取り出す和美に、目の前の少女は「……救急車は、駄目。どこか休むところを」と告げた。
本能が警報を鳴らす。彼女の頭には二本の角。とても作り物とは思えない。彼女は危険だ。
だが、和美とて河衷防衛隊の一員。困って居る人を放って逃げるなどありえない。
「分かった。うちが近いから、そこまで運ぶわ」
「……あり、がとう」
和美は少女に肩を貸して、ゆっくりと自宅へと歩き出した。
第3部へつづく
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