第15話「防衛隊は旧交を温める」
広島の街は赤い。
別に街をあげてコミュニズムの理想を追求している……などと言ったことは当然なく、広島カープのイメージカラーである赤い看板に目が着くからだ。
そこら中にカープの看板でまっかっか、と言うわけでは無いが、地方銀行が看板でカープ推しをアピールし、マツダスタジアムに隣接するコンビニは看板が赤色。大手書店では赤い装飾と共にカープグッズコーナーが併設など、要所要所で赤色要素をぶっこんでくる。
自前の野球チームを持つ大手キャリアの販売店ですら、看板が赤いのだ。
本部に怒られないのかと心配になるが、この街で商売するにはそういう事も必要と割り切っているのかも知れない。
「さて、霧花っち。予算はどのくらい使える?」
路面電車を降りたって、ブランドショップ前で美都が尋ねた。
「あ、金なら俺が……」と名乗り出た学は「シャラーップ!」とお口チャックさせられた。
「おしゃれは自分の懐を痛めながら学んでいくものなの! いきなり誰かに出してもらったら、いつまでも身に付かないわよ!」
「おにぃ、反省!」
幼馴染と妹との挟撃に、学は「ごめんなさい」と肩を落とす。
倫に至っては、「せっかく市内に出たんだから、宇品のトイザラックでヒーローグッズでも」などと発言してシャラップを食らっていた。
何でお前が「こちら側」なんだよと乾いた笑いが出た。
「ごめんなさい。そんなにお金が無くて、このくらいなら……」
恐る恐る霧花が指を立てるが、美都はサムズアップで「ノープロブレム!」と答える。
「美都師匠! 私も今日の為にお小遣い貯めてきました!」
「おお、弟子1号よ! お前こそ万夫不当の豪傑!」
がっしり抱き合う美都と和美。
昔から思うが、この2人、ノリが似てるなと思う。
千彰に視線をやると、肩をすくめて見せた。
「じゃ、行きましょうか!」
「えっ、ブランドショップに入るんじゃないの?」
「まーまー任せて!」
5分ほど歩いてたどり着いたのは、大通り沿いの大手中古書店。
立ち読み客がごった返す、暇人の楽園である。
「ここって……」
「お金が無ければ、知恵と手間をかければ良いの! ここの古着コーナーは品揃え良いし、古着は一期一会で探す楽しみも一塩よ」
そう言って、漢らしい足取りで店内に突入する。
学はその姿に、昔の漫画に出てくるバーゲンに詰め寄せるテンプレな女性客を思い出した。
なお、倫は耐えきれずに玩具コーナーに消えていった。お前は本当に高校生かと問い詰めたい。
「ほら、これなんかどう?」
「えっ、こんなに安いの!?」
「ほら、ここボタン取れてるし、袖も擦れてるから。でもこのくらいなら私でも修繕可能だし」
「……そうか、私はそんなことも調べないで、『お金が無いからおしゃれはできない』って言い訳してたのね」
しみじみと語る霧花に、美都は「良く気付いた! 弟子2号!」と笑いかける。
霧花の方も、はにかんだ笑みを返す。
女子3人は、カートに古着を次々投入してゆく。
このエネルギーは、サーシェスの冒険者が装備品にかける情熱を
途中から、おもちゃ売り場から連行されてきた倫が加わり、カートは古着が積み上げられる。
「パンタロンは無いの!? ひらひら付いてる奴」
「あーハイハイ。倫の美的センスには期待しないから、こっちで適当に選ぶわよ」
「なんでよっ、白いパンタロンは若者のあこがれじゃない!」
「いつの時代の若者よっ! ひらひら付いたズボンなんて、そんなもん今時売ってないわよ!」
幼馴染たちのバカ騒ぎを、苦笑気味に見守っていた学の背中を、和美がバシンとたたく。
「良かったねおにぃ。取り戻せたじゃない」
和美は、引っ越し先である画伯の絵に出合い、絵の道を志した。
美大の勉強や絵の練習に追われ、今までみたいにずっと一緒にバカ騒ぎは出来ないだろう。
でも、それを押して自分の道を追いかける妹を、本当に誇りに思う。
だから、そんな和美の一言が妙に嬉しくて、照れ笑いを隠して「お前の兄は勇者だからな」と冗談めかして呟いた。
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