第14話「防衛隊は街に繰り出す」
週末、防衛隊の面子は市内に向かう電車の中にいた。
ちなみに、駅と繁華街は少々離れているためバスの方が便利なのだが、運賃を考えると選択肢は電車に絞られる。
美都がごひいきのマツダスタジアムは駅に隣接しているため、野球観戦は電車一択だ。
何故市内に出るかと言うと、霧花が「変わる」ための第一歩として「霧花っちお洒落化計画」を美都が立ち上げたからだ。
本人曰く、別にユニシロの安い服ばかり着ているのは自分の趣味ではなく、「本にお金をつぎ込んでお洒落に使う余力がない」と言うだけの理由らしい。
だから、美都の見立てで来週の私服週間に着ていく服を買いに行くことになった。
「私服週間」と言うのは、興絆高校に代々伝わるイベントで、衣替え前の1週間だけ、私服で登校すると言うイベントだ。昔の生徒会が始めたそうだが、現在は生徒の身だしなみやセンスを磨くための行事と位置付けられており、リア充層の腕の見せ所である。
非モテ層からは「公開処刑週間」などと呼ばれてもいるが。
学たちは、これを利用して次の一手を打つつもりだ。
◆◆◆◆◆
「というわけでごめんなさい。小暮をダシにして一星と賭けをしました!」
バスの中で学は、一星とのやり取りを説明し、スタンドプレーを謝罪した。
本来は陰で立ち回るつもりだったが「仮にも防衛隊の入隊希望者に、情報を開示しないなんて不誠実」と倫からお説教を頂戴した。
入隊云々は置いておくにしても、完全にもっともな話で、やっぱり自分はサーシェスで相当に擦れてしまったと自覚する。
「良く分からないけど、おにぃが転校早々やらかしたのね。愚兄がごめんなさい。何なら
「おまえ、エンコとか何処で覚えてくるんだよ!」
久しぶりに参加した和美が容赦ない言葉を吐くが、勝手な行動をしたのは事実である。
「ねえ、和美には勇者の事とか、教えてないの?」
小声で問いかける美都に、学はガシガシとあたまをかく。
「いや、話そうとと思ったんだが、きっかけがつかめず、つい」
「学のシスコン!」
「傷つくからマジで止めてくれ」
サーシェスでは他人に向けた誠意や優しさが、そのまま返ってくるとは限らなかった。
だが、ここは日本だ。いい加減拗らせ過ぎだと妹に怒られるような真似はやめよう。
「もちろん、この件でお前に不利益はもたらさないし、何か不都合が起きたら必ずお前をフォローする。それでも嫌なら、今すぐ一星に連絡して頭を下げるよ」
文句のひとつも言われると覚悟していたが、霧花は苦笑気味に「もういいよ」と返した。
「菅野君がみんなの為に動いてくれてるのは見ていれば分かるし、きっとこれはいいチャンスだと思うから」
「すまん。そう言ってもらえればうれしい」
霧花は完全に腹をくくったようだ。
人間、一度「やる」と決めてしまえばそれなりに腰が据わるもの。そしてそうなった人間はなかなかに堅固だ。
「でも、何で引き込むのが一星なの? あいつ1軍にはいるけど、忙しくてあんまり他のメンバーとつるんでない感じだけど」
「そりゃ、あいつ嫌々1軍にいるの見え見えだし、鮫島商会の御曹司が俺たちと一緒に好き勝手やり始めたらそれこそカースト崩壊の一手じゃないか」
いつものように悪い顔で笑う学に、「うわー、相変わらずえげつないなー」と苦笑いの美都。
こういう時の学は無駄に生き生きしている。
「ねえ、じゃあ私が頑張ってお洒落したら、一星君のためにもなるってことかな?」
言ってしまった後、自分の言葉が何を意味するか気付いたようだ。俯いて「ごめん、忘れて」と消え入りそうな声で言った。
男2人は言葉通りスルーし、倫は言葉の意味に全く気付いていなかったが、和美と美都はそうはいかない。「なになに!? 恋バナ!?」「じゃあ、頑張らないとね!」と手を叩き、一星の何処を気に入ったのか根ほり葉ほり聞き始めた。
「学、こういう時の女子ってさ……」
「言うな。俺も今痛いほど感じてる」
車内には逃げ場がないので、甘ったるい話を小一時間聞かされた。
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