第7話「今後の方針」

「さて諸君。今後の〔軍団バタリオン〕対策を考えてきた」


 再び教壇に上がった学が、「軍団対策会議」と書かれた黒板を手の甲でノックする。


「昨日倒した勇者のコスプレイヤーふたりから得られた情報は、以下の通りだ」


 仮にも魔王を退けた勇者相手に、コスプレイヤー扱いとはひどい話だが、件の二人組の行いは輪をかけて酷いので文句は言えまい。

 彼らは今、学のマジックアイテムの監視の下、復讐に怯えながら贖罪活動に励んでいる。


「〔軍団〕は異世界帰りの勇者の相互扶助組織らしい。建前は」

「相互扶助?」

「例えば、勇者同士の諍いなんかがあれば、群れていた方が有利だろ? 何かの拍子に自分の能力がバレそうになった時、仲間にそれをごまかせるスキル持ちがいれば、丸く収まる」

「随分原始的な組織だね?」

「まあ、実際少人数の組織らしいから、そんなことになるだろう。で、最近ボスの〔元帥マーシャル〕と言う男が、俺の打倒を宣言した」

「学を? 何で?」


 首をひねる倫だが、学としても「俺にも分からん」と言うしかない。


「最大のネックは、こちらは軍団の情報がないのに、向こうはこちらのことをある程度知っている点だ。メンバーの情報は、全て〔元帥〕と右腕の〔将軍ジェネラル〕が管理していて、メンバーに共有されてはいないらしい。実にいやらしいが、有効なやり方だ」

「純粋な戦闘力で考えたら、学はあいつらに対抗できるの?」


 挙手した倫相手に、学は「何とも言えないが」と前置きして、不敵に笑って見せた。


「昨日のふたりは論外として、もし相手が前回戦った〔騎士ナイト〕レベルの勇者ばかりだとしたら、同じ条件でのタイマンならまず負ける事はないだろう」


 幼馴染達は「おおっ!」と感嘆の声を上げるが、学は「だが問題は別にある」と上げて落とす。


「情報格差が酷すぎて、そもそもタイマンに持ち込むのが無理臭い。前回俺の足止めをしたのが〔騎士〕ひとりだった事実から推察して、コスプレイヤーの情報通り〔軍団〕にそれほど多数の勇者が所属しているとは思えない。だが、連中だってもう同じ轍は踏まないだろう。多分戦力の逐次投入は避ける」

「じゃあ、どうするんだい?」

「連中に悪手を打たせる。具体的にはこのままスクールカーストの解体を続ける」

「えっ!? いまそんなことをやってる場合なの!?」


 美都が驚くのも当然だが、学としてはこれが唯一打てる対策だ。


「ちょっと話した感じだが、あのツバキと言う魔族は感情の制御が上手いとは言えない。俺を仇と狙っているようだから、もしスクールカースト解体が順調に進んでいたら、何かしら妨害をしてくるはずだ。恐らくそれが〔軍団〕の意思に反したとしても」

「相手の出方を待つって事? それはまずいわ。こちらが後手に回って翻弄されるじゃない」


 さすがヒーローマニア、こういうことは良く見ている。

 防御に徹する戦い方は、「相手に行動の選択肢=主導権を与える」と言う弱点を持つ。

 守りに入って勝った例は、別に相手の行動を掣肘せいちゅうする策を打ってあるか、待てば状況が良くなる場合がほとんどである。

 そして、今回学が立てた作戦は前者である。


「実は、昨日すぐに現場に駆け付けられたのは理由がある。美都を助けに行った直ぐ後、町中にパッシブ式の魔力探知機をばらまいておいた。誰かが町中で魔法を使えば、俺に情報が届く仕組みだ。

 使った魔法から、スキルやジョブが推察できるし、上手くすれば奴らの拠点が割り出せる。どうやら〔軍団〕は呉越同舟ごえつどうしゅうの組織みたいだから、ツバキ以外のメンバーもこうやって締め付ければ必ず昨日みたいに暴発する。

 これはサーシェスで考案した作戦の為に作ったものだが、実際にその手は使わなかったし提案もしてないから、ツバキは知らない。つまり連中もまだ対策を練ってない筈だ」


 学が取り出したのはビー玉サイズの球体だ。

 魔力を込めると、ふわふわと教室を浮遊する。


「でも、前みたいに見つかって壊されるんじゃないの?」


 目の前で警報器を破壊された美都が当然の疑問をぶつけてくるが、学の答えは決まっている。


「やらせておけばいい。探知機はたくさん作ってあるから、次を飛ばすだけだ。俺は元々魔族に占領された国ひとつをひっくり返すつもりでこいつを大量に作ったんだ。在庫はあり余ってる」

「そんな気合い入れて作ったのに、何で使わなかったの?」


 一瞬、得意げだった学の顔が曇った。

 それを見逃す幼馴染たちではない。


「何か、あったのね?」

「話なさい、今すぐ!」


 嘘をついても無駄と、学は首肯する。


「すまん。まだ言えないが必ず話す。もう少しだけ待ってくれ」


 問いただした倫も、これ以上は追及しなかったが、「分かったけど、ヘタレたらパンチだから」と釘を指すのを忘れなかった。

 頼りになる幼馴染だと苦笑して、「質問の答えだが、大した話じゃない。作戦を提案する前に、国を占領してる魔族ごと魔王に反旗を翻したんだ」と付け加えた。


「考えてみてくれ、町中を正体不明のマジックアイテムが飛び交ってたら、それなりに警戒するだろ? その場合、取りうる対応は2つだ。一気に行動を起こすか、情報を集めつつ対策を練るかだ。そして〔軍団〕の場合前者は無い」

「どうして?」

「戦力の逐次投入と言う愚を犯して俺にちょっかいかけたからだ。もし奴らが行動を起こす条件がそろっているなら、俺なんか無視して行動しているだろう」


 なるほどと皆が頷くのを確認して、学は話を続ける。


「恐らく、〔軍団〕はスキルが割れるのを覚悟で誰かひとりに探知機を破壊して回らせるか、行動直前に一斉に探知機を排除すると言った手を使うだろう。どちらにせよ、準備ができるまで魔法の使用は控えるだろう。だが、そんな状況で俺がイキってカーストを壊して楽しそうにやってたら、あいつの性格ならどうすると思う?」


 その場の全員に、あの気性の激しい怒り狂った顔が浮かぶ。

 皆同じ結論に達した。


「恐らく、勝手に動くだろうね」

「そこが最後のチャンスだ。ツバキを捕らえて、洗いざらい情報を吐かせる。可能ならジャミングを解除させ、仲間の勇者を呼び寄せれば、一気に突破口が見えてくる」


 再び上がった感嘆の声に、学は満足げに頷いた。


「じゃあ、スクールカーストの方は、今後どう動くのかい? このままゆっくりとやってたら、〔軍団〕に時間をあたえちゃうよね?」

「それなんだがな……」


 学は頷いて、スクールカーストにとどめを刺す、切り札を打ち出した。


「一星をこちらに引き込もうと思う」

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