第6話「スキルチェッカー(その2)」
「じゃあ、私行くねー!」
購買のパンでも買うような気楽さで、美都が手を上げる。
思わず「大丈夫なのか?」と尋ねてしまうが「修羅場をくぐって人間的に成長した美都ちゃんをみなさーい!」とやる気満々のご様子。
とは言え、他に選択肢もないので、アイテムに魔力を込める。
『県民のカープ推しって、ちょっと異様やないか? 幼稚園児にカープの劇をさせるって洗脳やんか? そんだけ努力しても他球団に育てた選手をかっさわれるんやから世話ないわなぁ。カープファンは無駄な努力が好きなんか? 優勝までまた25年間待つんか? 暇やなぁ』
あ、これもダメな奴だ。
信号機のように顔色を変える美都を恐る恐る伺いながら、「どうか穏便に……」と呼びかけるが、願いは届かなかった。
「おどりゃー! 言ってええことと悪いことがあるけぇ! カープをかばちたれるバカタレは、皆
普段口にしない広島弁でわめきつつ、机を持ち上げてアイテムに叩きつけようとする美都を千彰が羽交い絞めにする。
河衷防衛隊。割と血の気が多い。
「はぁ、はぁ、ごめん。取り乱した」
「……頼むぜ? これ壊れたらもうスキルを調べられないんだから」
肩で息をする美都をなだめつつ、判定を待つ。
『ピー、スキル、ジョブ共に未発現です』
「ちょっと! あれだだけ言いたい放題言ってそれなの!?」
「まあ、スキルは持ってなくて普通だし、ジョブも遅れて発現する場合も多いから」
学のフォローを受けても、美都は今一つ納得できない様子だが、ぶっちゃけ〔軍団〕みたいなのとやり合うような事態でなければ、現代社会でまっとうな生き方をするのに、スキルなんて持て余すだけだ。
「最後は僕だね」
千彰に促され、アイテムに魔力を送り込む。
他のふたりが散々だったので、もうどうとでもなれである。
『兄ちゃん、娘みたいな子を彼女にしたんか? そりゃ変態やろ。そういう願望は気持ち悪いで? そのくせ見てくれはなよなよしとるし。自分、玉無しとか言われへん? 彼女持つよりお稚児さんにでもなった方がええんちゃう?』
学の顔から血の気が引いた。それは一番やばい奴……。多分、千彰は何とか抑え込もうとするだろうが、問題は……。
がしっ!
やっと落ち着いたはずの美都が、再び机に手をかける。
「……学、悪いけど、私我慢の限界」
貴重なマジックアイテムだが、この状態の美都をなだめる自信は無かった。
「はいはい、僕は気にしてないから、その机は下ろそう」
千彰が美都の腕に手を添え、ゆっくりと机を下ろさせた。
「僕と美都の関係は、娘だの恋人だのに収まるような簡単なものじゃないし、いろんな顔の美都が見られる方がお得じゃないか。容姿に関してだけど、皆はそのことを不満に思うかい?」
ぶんぶんと首を振る3人に、千彰は「じゃあ問題無し。この件は終了」と話を打ち切った。
「お前、一段と凄い奴になったな」
「そんなことないよ。皆のおかげさ」
学にとって千彰は、尊敬の対象で、死ぬまでに越えたい凄い奴なのだ。
『ピー。対象の感情の高まりが規定値に達しない為、計測不能です』
『そりゃそうか』と学。目的である倫のスキルとジョブが分かったので、まあ良いとしよう。
サーシェスの歴史には、スキルもジョブも不明のまま大成した魔法使いがごまんといるのだ。
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