第5話「スキルチェッカー(その1)」

「いよいよ私たちのスーパーパワーが分かるのね!」

「スーパーパワーじゃなくて、スキルとジョブな、調べるにはこいつを使う」


 取り出したマジックアイテムを、皆「何の冗談だろうか?」と怪訝そうに見つめる。

 残念ながら冗談ではない。


「これ、猫の置物?」

「可愛くなーい!」

「マスコットキャラならもっとデザインに力を入れるべきよ!」


 まねきねこのような大きさだが、何やらふてぶてしい顔つきの、実に可愛くないデザインだった。

 もちろん、このデザインにもちゃんとした理由がある。


「スキルは感情が高ぶった時に強まるから、こいつを使って怒りの感情を高めるのさ。試しに俺が使ってみよう」


 そう言ってまねきねこ? に魔力を込める。


『あんさん、ネーミングセンスが色々痛々しいでっせ。デバステイターだのバーバリアンだの、横文字使えばカッコ良くなると思ったら大間違いや。あとその髪型、かっこいいと思っとるんか?

 中二病は中二だから許されるんやで。あんさんみたいなのがキラキラネームを子供に付けて嫌われるんや。おっと、どうせ結婚できないから、無用な心配やったな。えろうスンマセンwww』


 学のこめかみに青筋が浮かぶ。

 しかしこのマジックアイテム、容赦がない。


『ピー、貴方のスキルは〔無限の魔力〕、ジョブは〔魔技師〕です』


 学は「知ってるけどね」と口元をひくひくさせる。


「と言う事で、『本人が言われたくないこと』をズバズバ言ってくるから、覚悟して使ってくれ」

「自分の能力を知るだけなのに、ここまで言われなきゃならないの?」

「いや、普通は魔法使い系のジョブ持ちに判定してもらうから、こんなもん普通は使わないんだが、アポロとは連絡が取れないからな」


 頭を掻く学に「メールとか、電話は?」と千彰が尋ねるが、「そんなもん、交換してない」と学。


「マジックアイテムでやり取りした方が便利だから、『連絡先を交換する』なんて発想が出てこなかったんだよ。そもそもこっちに俺たち以外に魔法を使える人間がいるなんて、完全に想定外だった。迂闊だったよ」

「この間使ったワープは?」

「相変わらずジャミングがかかって転移魔法でこの街から出られないし、出られたとしても不味いだろう。俺が海外に行ったタイミングでこっちにジャミングをかけたら、飛行機で帰国するまで、『軍団あいつら』はやりたい放題だ」


 うーんと、考え込む一堂に「さ、次は誰がやる?」と満面の笑みの学。

 そう言えば彼は、こんな遊びが好きだった。


「じゃあ、私がやるわ!」


 学は「KIG!」と、アイテムを倫に向けて魔力を込める。


『……あんさんの大好きなダットマン、金が無かったらただのマッチョやないか。ヒーローチームに普通のおっさんが入ってくるとかありえへんのやけど。銭ゲバの道楽でチームの足を引っ張らんで欲しいわー』


 倫の右手がギリギリと握り拳を作り、その場にいた全員の顔が引き攣る。それを倫に言ったら、絶対血を見る奴だから!


「貴 様 ご と き が ダ ッ ト マ ン を 語 る な !」

「分かるから! 倫の気持ちは痛いほどわかるから落ち着いて!」

「お前それ壊したらもう他は無いんだぞ! 頼むからクールダウンしてくれ!」


 「むがー」と暴れる倫を千彰とふたりがかりで取り押さえる。

 このアイテムを作った奴は、激おこな客が叩き壊して新しいのを買ってくれるのを期待してこんな仕様にしたのではと邪推してしまう。


『ピー、貴方のスキルは〔スピードチャージ〕、ジョブは〔万能職〕です』

「おお、いきなり来たな! この組み合わせはいいぞ!」


 肩で息をする倫をなだめつつ、判明したスキルとジョブをメモする。


「〔万能職〕って、仕事なの? 全然褒めてないし」

「〔スピードチャージ〕は魔力の充填時間を短縮できる速攻スキルだ。〔万能職〕は、他のジョブのように特化した能力を持たない代わりに、訓練次第で全部の魔法に適性がある」

「一点突破できないってことかしら?」


 問い返す倫は不満そうだ。性格上一点突破の力押しの方が好きだろう。


「ジョブはあくまで適正だ。世の成功者には『お前才能ない』って言う評価を覆したやつなんてごまんといるだろ? それに、俺が火力馬鹿のパワータイプだから、補い合うバディは万能型が良い」

「うーん、でも私がそんなにあれこれ使い分けられるのかしら?」

「そのために俺が居るんだろ? ダットマンだって様々なアイテムを使い分けるし」


 ダットマンの名前をだされて俄然やる気を出す倫。

 傍らで見ていた千彰と美都は、「相変わらず倫の操縦が上手い」と感心しているのだが、本人たちは無自覚である。

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