第4話「スキルとジョブ」

「それでは、これから魔法についてざっくりと教える」


 空き教室、教鞭片手に「まほう」と書いた黒板をコンコンと叩く学に、幼馴染達は「待ってました!」と歓声を上げた。

 もちろん人払いと盗聴防止の措置は十分に行っている。


「で、どうして千彰と美都まで居るんだ?」


 やばいんだぞ、と苦言する学だったが、ふたりはどこ吹く風だ。


「私たち、もう巻き込まれてるし。もう仲間が大変な時に周囲の顔色うかがってボーっとしてるの嫌だし」

「僕は、まあ美都を守るのに必要な事なら知っておきたいし、学と倫が戦うなら、せめて背中は守ってあげたい」


 割と深刻な話なのだが、窮状でもナーバスさを一切感じさせないのが防衛隊の良いところだ。

 学は「俺の幼馴染は最高だな」と、皮肉とも賞賛ともつかない感想を述べるが、倫は涼し気に「あら、今頃気付いたの?」とすまし顔だ。


「まあいい。地球では知られていないが、大気には”魔素”と言う粒子で満たされている。これは俺が召喚された異世界でも変わらない。魔素は動植物の生態活動。呼吸や食事、光合成によって生物の中に取り込まれ、”魔力”に変換される。これを何らかの現象に転化する技術が魔法だ」

「つまり、呼吸してごはん食べてたら誰でも使えるってことかしら?」

「日常生活で火を付けたり水をコップ一杯出したりする分にはな。ガチで戦闘するなら訓練が必要だし、勇者を名乗る連中は、ほとんどが神の加護を持っている。それが『スキル』と『ジョブ』だ。スキルは俗にいう『特殊能力』だな。空を飛べたり、魔力をブーストしたり、素早く動けたり」

「スーパーパワーね!」


 スキルの話を聞いた倫の瞳が輝きだす。

 「そんないいもんじゃないんだがな」と内心で思うが、わざわざやる気をそぐ必要もないだろう。

 彼女がスキル持ちだとは限らないし、持っていたとしてもおいおい実体を知る事になる


「燃えるわね! 奥歯にスイッチを取り付ける必要があるのかしら?」

「ねーよ! 話の腰を折るなよ。で、俺たちがサーシェスに召喚された理由が、そのスキルを持っていたかららしい。女神の話では、人間に降格したり、人と混血になって遺伝子に混じった神の血が、隔世遺伝で現れるらしい。ざっくり数字にすると、千人に1人くらいらしいが、地域や人種に偏りがあって、1人スキル持ちがいると、その近辺に複数名いることもよくあるらしい」


 一同はふむふむとメモを取る。

 ふざけていても、押さえるところは抑えるのが河衷防衛隊だ。


「じゃあさぁ。学はどんなスキルを持ってるわけ? 試しに魔法を使ってみてよ?」


 期待の目で見てくる美都に「そんな簡単な話じゃないんだぞ」と返す。


「俺のスキルは〔無限の魔力〕だ。普通は少しずつしか補給できない魔力を、常に一定量ずつ補充し続ける能力なんだが」

「それ『ちーと』って奴なんじゃないの? 魔法使い放題ってことでしょ?」

「いや、そう上手くはいかないんだよ。それを話すには『ジョブ』の説明が要るな。これはスキルと違って誰でも持っているが、死ぬまで発現しない事も多い。『どの魔法が使えるかの適性』みたいなもんだ。戦闘向きのジョブを持つと、相性次第でスキルなしで勇者を倒せたりするぞ。俺が戦った魔将軍にもそんな奴がいた」

「それは、スキルとジョブの組み合わせも大切そうだね」


 千彰の指摘に、学は我が意得たりと頷いた。


「俺のジョブは〔魔技師〕だ。魔法をエンチャントしたマジックアイテムを生み出すことが出来るが、自前で魔法が使えない」

「えっ!? それ、せっかくの強スキルが意味なくなるってこと!?」


 学は、肯定の代わりに「苦労したよ」と苦虫を噛み潰したように笑う。


「召喚されたばかりの頃は素材も集まらないし武器も兵士用の量産品だ。〔魔技師〕のジョブなんて誰も相手にしてくれなくて、仲間2人が拾ってくれなかったら、確実に死んでたな。だが、素材が集まるようになると、この通りだ」


 懐のポーチから取り出した、カブトムシのおもちゃに魔力を注入すると、おもちゃは羽を開いて、教室を飛び回り始める。


「すごいすごい!」

「これはただの貴族用のおもちゃだけど、この間ツバキに破壊された警報器は隠蔽と機器探知の魔法をエンチャントさせたものだ。今ももっと上位バージョンをお前ら全員につけてあるぞ」


 自慢げに自作アイテムを語る学に「いやらしい使い方しないでよね?」と美都が念押しした。

 「しねーよ。やったら千彰に殺されるだろ」と学。


「そう言えば、再会した日にも私の部屋に……」

「その件みんなの前で言うの止めて! ほんと反省してるから!」

「何でもするって言ったわよね? 何してもらおうかしら?」


 教室が笑いに包まれる。

 そこで学は、自分が河衷に本当の意味で戻ってきたと感じた。

 それを察してか、倫はあの時と同じ笑顔で言った。


「おかえりなさい学、ようこそ防衛隊へ」

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