第3話「勇者はその手を血で汚す」★

 銃口の先にいるのは、魔物でも魔族でもなく、救いを求めてきた辺境の村人だった。

 村人は声にならない悲鳴をあげて、後ずさりし、腰から崩れ落ちた。


「……失せろ」


 〔破壊の勇者デストロイヤー〕は汚物でも見るように村人たちを睥睨し、命令した。


「勇者様! どうか村を助け……」


 諦めずに食い下がる老人に向けて、学は容赦なくトリガーを引く。

 耳元を光弾が走り抜け、老人は恐怖で失神する。

 無感動に老人を見下ろして、学は再び命じる。


「そいつを連れてとっとと村へ戻れ。総出で防壁を建てれば、まだ襲撃に間に合うかもしれんぞ」


 有無を言わせない威圧を受けて、村人たちは棒立ちになった。

 学はそれを確認すると、村とは逆方向に歩を進める。

 真っ青になっているアリサとアポロには「行くぞ。ザンキが待っている」とだけ告げる。まだ迷いを感じている様だが、もはやどうしようもない。


「これからも同じことが起きるだろうが、その時は全部俺に言え。今みたいに全部処理・・してやるから」

「学! 馬鹿にしないで! あなたは私たちが背負うべきものまで自分が抱え込むって言うの!? それは傲慢よ!」


 普段は弟分たちを甘やかすアリサが、珍しく声を荒げる。

 アポロも眉間にしわを寄せ、ただ頷いた。

 理屈では分かっている。恐らくだが、自分は2人にとても失礼な物言いをしている。だが、止まらない。止まったら心が壊れそうだった。


「憎しみを向けられるのは俺1人の方が効率がいい。〔神速〕と〔凛冽〕まで恨みを買ってみろ。人類連合の結束にヒビが入る」

「そう言う事を言ってるんじゃないわ!」


 身を乗り出すアリサの肩を、アポロが押さえる。


「アリサ、何を言っても無駄だ。今は・・ね」


 学の言葉は自傷行為だった。苛烈な言葉で自分を貶めている事で、理性を保っているのだ。


「私は、納得してないから!」


 吐き捨てて背中を向けるアリサを追って、2人も後に続く。

 どうしようもない。どうしようも。


(ごめんな倫。そっち地球へ帰っても、お前と一緒にヒーローやるのは無理かもしれない)


 結局、自分は壊す事しか出来なかった。

 ある意味〔破壊の勇者デストロイヤー〕の名前は出来損ないの自分にお似合いだろう。

 それでも、自分に出来る事をしなければ、皆焼かれてしまう。壊さなければ、壊される。

 学は、力なく笑った。


 だが、アポロが予測した「その時」は、地球への帰還後、直ぐにやってくる。

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