第2話「勇者は勇者に無双する(その2)」
初撃は倒れている女学生を庇ってか、散弾は使わず、通常の〔
ふたりの敵は、散開して回避し、〔破壊の勇者〕と距離をとる。
双翼をはばたかせ、宙を舞った〔
「じゃあね。口だけ野郎さん♪」
〔荒鷲〕の翼から、次々と羽が飛び出し、眼下の学めがけて突進してゆく。
黒い軽装鎧に触れた羽は次々と炸裂する。
〔荒鷲〕のスキル〔黒翼〕だ。空を自在に飛行でき、羽に魔法をエンチャントして撃ちだすことが出来る。魔王を一撃で倒した切り札である。
続いて、距離を取っていた〔
ナイフは、通常の魔力による投擲とは比べ物にならない速度で、〔破壊の勇者〕を引き裂こうと飛翔する。
〔団長〕のスキルは〔磁力投射〕。魔法で撃ち出した投射物を、磁力を操って自在に加速できると言うものだ。彼は、これを用いて魔王の防御結界を突き破ったのだった。
数百発も撃ちこんだだろうか。最後まで菅野学は微動だにになかった。
炸裂した羽が巻き上げた砂煙が収まった時、ふたりは小さな悲鳴を上げた。無傷の〔破壊の勇者〕が、今まで彼らが撃ち込んだ魔法を右手に抱え、首を曲げて肩をほぐしていたからだ。
「お前ら、やっぱり三下だわ。ツバキからの情報で、俺が魔法を反射できるって知ってたよな? 自分の魔法は強力だから通用しないと思ったか? 悪いけど、この程度なら余裕で反射可能だから」
マジックアイテム〔反射の額当て〕の効果は、一定量のダメージをストックし、与えた敵に跳ね返すものだ。これは魔将軍クラスの強力な魔法には通用しないが、目の前の自称勇者が振り回す魔法には、問題なく対処可能だった。
「じゃあ、約束通り教えてやるとしようか。『虎の尾を踏む』って言葉をな」
刹那、逆流した魔力の奔流がふたりの勇者崩れを襲った。
軽装の〔荒鷲〕はこれを防げず直撃を受けて墜落。重装鎧で身を固めた〔団長〕も、反射した魔力は一点に絞って叩きつけられたため、ミスリル板を貫通。あばらをへし折り、意識を刈り取った。
◆◆◆◆◆
ふたりの意識が戻った時、首に違和感を感じた。
それが、首輪型のマジックアイテムだと気づき、慌てて跳ね起きた。
「おや、お目覚めかい?」
「おい、この首輪はなんだ!?」
詰め寄る〔荒鷲〕に「やれやれ、さっきまでの余裕は何処にいったんだろうなあ」と皮肉をぶつけて、菅野学は種明かしをする。
「『スキルロック』を知らないのか? お前たちのスキルや魔法は現在使用不能だ。本来は本人の同意なしには使えないが、実力に大きな開きがあれば例外的に使用できる。お前らには使えたようだ。残念だったな」
〔荒鷲〕と〔団長〕は二重の意味で打ちひしがれた。
ひとつは、スキルロックが成立するほど自分達と菅野学の実力に大きな隔たりがあること。
もうひとつは、いままでのやりたい放題を担保していたスキルと魔法が一切使用不能なことだ。
「たっ、頼む! これを外してくれ。情報なら知っている事は全部話す!」
「いやだね。これを外したらお前ら、また欲望のままに動くんだろう? そうそう、この首輪は近くで魔力を感知するとその情報を俺に届けるようになってるから、恐らくお仲間も助けに来ないだろうなぁ。お前ら下っ端っぽいし」
「
〔荒鷲〕が母国語でついた悪態を、心地よさそうに聞き流し、言った。
「お前らには2つ選択肢がある。このまま初夏の瀬戸内海に沈むか、知っている事を全部話して贖罪を頑張るかだ。今後の行い次第で、もしかしたら気まぐれを起こしてそいつを外したくなるかも知れんぞ」
「選択肢」と言いながら、有無を言わせぬ口調だった。
不承不承2番目の選択肢を選ぶふたりに、学は
「世の中には悪い業者がいてな。粗大ごみや産業廃棄物を安価で引き取ってきて、山に捨てに行くんだ。おかげで山の土壌が汚染されて、農作物に被害が出ている。これは”勇者”としては見逃せないよなぁ。まず県内のごみから綺麗にしてみようか。もちろんスキルなしで」
勇者崩れふたりの顔が引き攣る、一見穏健な措置に見えるが、毎日大量に遺棄される粗大ごみを、たったふたりで、しかもスキルも魔法も無しでひたすら片付け続ける。
人、それを拷問と言う。
彼らは自分が敵にしてはならない人間を相手にした、虎の尾を踏んだ事実を痛感したのだった。
◆◆◆◆◆
「学、彼女を病院に届けて来たわよ! 敵はどうしたの!?」
合流した倫のキラキラした憧れの目をかわし、「倒したよ」とだけ告げる。
最近、彼女の学を見る目が、罪悪感を掻き立てることがある。だが、それを本人に告げるわけにはいかない。少なくとも、今は。
「それより、あいつらから情報を得たぞ。こっちの出方も決まった」
〔破壊の勇者〕の使命はひとつ。
皆の幸せを奪うものを、ぶっ壊すことだ。
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