番外編1
第1話「神速の勇者は恋に落ちる(その1)」
突然呼び出された異世界で、魔王討伐を懇願してくる王様や神官たちを前に、200人の「勇者」達は大いに困惑した。
元の世界に返してくれと泣き叫ぶ者もいれば、「召喚」と言う行動が拉致に当たるのではないかと猛抗議する者もいたが、ほとんどの者は現実を受け入れきれず、茫然とするばかりだった。
アリサ・ブランドーは、その中でも比較的早期に現実を受け入れた。
彼女自身の気質もあるが、代々軍人の家で育ったアリサは、「守るために命をかける」と言うマインドセットを知らず知らずのうちに父から学んでいたことが大きい。
自分の足で街を歩き、「この国の人たちは守るに値する」と判断すると、早速剣の訓練と魔物の討伐を開始した。
一緒に組むことになったアポロ・ギムソンもそんな「割り切った」組だった。彼は「
歳が近い事もあり、ふたりはすぐに息の合ったコンビとなった。
だが、割り切ったものはそう多くない。
逃亡を図ってひとりでいるところを魔王軍に消されたり、宿の一室に引きこもって震えていたり、酷い者はどうせ長い命ではないとスキルを使って傍若無人に振る舞い、他の勇者に討伐された。
菅野学の人となりを知ったのは、召喚された勇者の3割ほどが戦死した頃だった。
彼は「無尽蔵の魔力があるのに魔法が使えない」と言う最悪のスキルとジョブの組み合わせを与えられた、言わばハズレ勇者だった。
彼のスキルは〔無限の魔力〕。本来回復に時間がかかる魔力が、学は戦闘中に回復し続ける。このスキルが判明した時、神官たちが歓声をあげたほどだ。
しかしそれはすぐ失望に変わる。
学のジョブは〔魔技師〕。マジックアイテムを製造できるが、自前の魔法が使えないと言う支援職だった。
結局、学は安全な隊商に引っ付いて素材を回収し、ポーションやアイテムを作っては他の勇者に提供すると言う地味な仕事で嘲笑を受けていた。
軍と言う組織を父から学んだアリサからしてみれば、とんでもないはき違えだと思う。
兵站、物資の補給や供給は戦いに大事な要素、これを軽視して勝った軍隊は例外的だ。
それに、学が作ったポーションは質が高い。丁寧な仕事をする人間はそれだけで尊敬に値する。
だが、そんなアリサですら、自分が「菅野学と言う勇者をナメていた」事を思い知る。
◆◆◆◆◆
きっかけは、窮状を知らせる早馬だった。
ハリネズミのように矢を受けた使者から、学が行動を共にしている隊商が襲撃を受けたと報告を受けた。
比較的近距離ではあったが、恐らくもう間に合わない。
「どうする?」
アポロの問いに、アリサは「行きましょう!」と即断した。
確かに立て続けの討伐でふたりの疲労は蓄積していて、相応にリスクは高い。
だが、たとえ可能性が低くても、生存者がひとりでもいるなら駆け付けるべき。アリサは父親が話す3.11の大津波からそれを学んだ。
運命のいたずらか、菅野学は日本人である。
当時の勇者たちはまだ実力が低く、転移呪文やマジックアイテムを持っていなかったため、まず馬を手配することから始めねばならなかった。
馬がそろう頃、使者は静かに息をひきとった。
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