第33話「騒動の終焉後にはお仕置きがまっている(その1)」
身内の話は綺麗にまとまったが、これから面倒臭い問題が横たわっていた。
ツバキの尻馬に乗って美都を危機にさらした馬鹿どもの処遇である。
男子と女子が4名ずつで、半数が1軍。
こちらを遠巻きに見ていたのは、自分から謝罪する勇気もなく、かといって逃げ出して状況を悪化させるのも嫌だったからだろう。
その辺をねちねちと弄ってやろうかと思ったが、倫から聞いたツバキのドSっぷりを思い出し、鏡を突きつけられた気分になったので思わず口をつぐんだ。
だが、彼らを放置する気もない。学はサーシェスの経験から、この手の人間を決して信用しない。
一線を越えた人間は、完全に「敵」であり、排除の対象だ。今回は傍観していただけなので「越えた」かどうかは微妙なところだが、信用できないのは同じだ。
本来は千彰と美都がやるべきことだが、2人は人が良いし、荒事に慣れていないから、丸投げすれば禍根を残すやり方になりうる。
自分が仕切るべきだと学は判断した。
「で? この落とし前はどうつけてくれるんだ?」
我ながらヤクザみたいだが、この手の交渉は彼らの流儀に倣うのが手っ取り早い。
幼馴染達は複雑そうな顔をするが、何か言ってきたりはしない。彼らが踏み抜いた地雷が、それだけ巨大だからだ。
「あれは、あの子が……」
案の定ツバキに全ての責任をひっかぶせようとしたので、「おい!」とドスの利いた声で黙らせた。
「俺はお前の言い訳を聞きたいんじゃない。この落とし前をどうつけるか聞いてるんだ」
言い訳が通じないと踏んで、彼らはだんまりを決め込む。贄川ですら、いつもの威勢は吹き飛んだ様子。
こんな時の反応は、割とテンプレだから対応しやすい。黙っていて状況が良くなる可能性は皆無なのだが。
圧力に耐えかねて、女子の何人かが泣き出した。
学だっていい気はしないが、ここで手打ちにする段階では既になかった。
「今までは泣いて許されたかもしれないが、今回はそうはいかない。お前たちはどこの誰とも知らない人間の尻馬に乗って、未来ある女の子の心に消えない傷をつけた。もし誰かが責任を自覚して明確に反対していれば、彼女がここまで怯えて傷つく事は無かった。もし千彰と倫が駆けつけなければ、美都は一生トラウマを抱える事になったし、お前ら全員少年院だ」
「少年院」と言う単語を出されて、ようやく状況の一端を垣間見たようだ。
彼らの表情から、何とかこの場から逃れたいと言う姑息さが薄まった。
「いいや、違ったな。お前らが少年院に入る事は無い」
念押しに、8人の顔を順番に見回して、念押しの一言を発した。
「美都に何かあったら、俺がお前たちを生きたまま解体して瀬戸内海に沈めていたからだ!」
瀬戸内の海もそれを守る神様も、こんなのを沈められたら迷惑だろうが、もし最悪の事態になっていれば、自分がそれを選択しない自信が無い。たとえ、5つの誓いを破ってアリサとアポロを敵に回してもだ。
彼らとて「許してやるべき」などとは言わないだろうし、一瞬「女の敵に災いあれ!」などと言って学を後押ししようとするアリサの姿が浮かんだが。
ほとんどの者は、表情を失って茫然とするか、小さく嗚咽を漏らしていたが、1人の男子生徒が、カッと目を見開いて、美都に向かって両手をついた。
「済まなかった! こんな事になるとは思わなかったんだ! この通りだ!」
田崎という、一星を経由して千彰に状況を知らせた2軍の生徒だ。
実際に行動しただけあって、他の者より自分がやった事が見えている。
「どうする?」
美都に問いかける。
辛いかも知れないが、この判断を学が勝手にやるわけにはいかない。
「もう二度と、私たちに関わらなければそれでいい」
美都は暫く考え込んだ後、はっきりとそう告げた。
両手をついた生徒は、それでも謝るのを止めなかったが、残りの7人は「悪かった」「ごめんなさい」と小声でぼそぼそやりだした。
「こりゃあかん」と学。
要するに、謝罪して許された前例が出来たので右に倣ったが、まだ事態の重さを認識しきれていないので、こんな中途半端な態度になったのだ。
だが、このまま彼らを糾弾すると、一応はちゃんと謝罪した田崎と、それを許した美都が面倒くさい目に遭いそうだ。かといってこのまま放置すれば、こいつらは痛みを忘れてまた同じことを繰り返す。
さてどうしたものかと思案していると、謝り続けている彼が言った。
「このままじゃ俺は自分を許せない! 何か償いをさせてくれ!」
多分に自分に酔っ払った発言だったが、良いことを思いついたと学は邪悪な笑みを浮かべる。
「そうかそうか、美都は許すそうだが、君
美都は、「わー、いつもの胡散臭い学だ」と口元をひきつらせたが、「わ、分かった」と応じる。
その時、千彰の携帯が着信する。
「わっ、一星からだ、そう言えば報告をすっかり忘れてた!」
何とか事態は収まったと報告する千彰に、カモがネギしょって歩いてきたと学は口角を上げる。
報告が終わったタイミングで、通話を代わってくれと催促する。
「いやあ、ご協力ありがとう。おたくも駄犬のしつけ、大変だね?」
しょっぱなから皮肉で入るが、向こうもそれは織り込み済みだったようだ。今回は事態収拾に動いてくれたが、倫の件を放置している。こちらが好意的でないのは百も承知だろう。
電話の向こうで憮然としている一星が、容易に想像できた。
『今回の件は何を言われてもしょうがない。どうして欲しい?』
「流石、分かってらっしゃる」
今回の件を以て色々譲歩を迫ることも出来るだろうが、今はその話より、美都の件をどう着地させるかだ。
「何、簡単な話だ。あんたのところで付き合いのある土木業者をいくつか紹介して欲しい」
『……何をする気だ?』
こちらの意図が読めず、感じている不審を隠さずに問い返す一星に、学は構わず言い返す。
「だから、駄犬のしつけだよ」
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