第24話「勇者はKYの限りをつくす」
「てめえ、いい加減にしろよ!?」
登校早々バカ騒ぎする学にたまりかね、贄川光雄は怒りをぶつけた。
何人かの一軍生徒やその取り巻き達が、「良く言ってくれた」と言う視線を送ってくる。
香川倫がクラスに戻ってから、こいつらは教室に入るなりナントカマンだのナントカ仮面だのと下らない話を大声で離す。
遠巻きに見ていた木本達も、最近は輪に加わる様になった。
最初のうちは下らない子供番組の話だったが、だんだん「萌え」だの「ギャルゲー」だの、キモイ悪い話を楽しそうにし始める。
香川なども、それに一切抵抗を示さず「魔法少女はノーマークだったわ! お勧めを教えて頂戴!」などとキモオタ共と意気投合し始めた。
何度か
この時も、贄川が怒鳴りつけたのは木本だったが、「待っていました!」とばかり学が出て来て、生徒手帳を取り出し、ペラペラめくり始めた。
「いやあすまんすまん。魔法少女の話をしちゃいけないとは知らなかったんだ。今後同じことを繰り返さないように、校則の何条に書いてあるか教えてもらえるか?」
大げさに「あれれー? おかしいなぁ、何処にも書いてないぞぉ?」と手帳をひらひらさせる姿に、後ろのオタ軍団が「ぷっ」と吹き出す。
こいつは性根がゆがんでいると贄川は思う。
「ルールに無きゃ何でもやっていいってもんじゃねぇだろ! モラハラ野郎!」
モラハラ呼ばわりされても、学は全く答えた様子が無い。
「それはそうだ。いいこと言うな。ルールに書いてないからと言って、好き勝手に振る舞う人間は冷たい目で見られて排斥さえるのが世の常。だから好きなだけ冷たい目で見て、軽蔑してくれ。俺は痛くもかゆくもないけどな」
「学、それはいけないわ。自分の行動を省みないのは、ヒーローじゃなくて
「そうだな。クラスメイトを趣味の違いでキモイなんて罵倒して追い詰めたり、掃除を押し付けたり、そういうことやっちゃいけないよなぁ。ゴメンよ贄川君。俺キミの言葉に目が覚めた。人のふり見て我がふりなおすわ」
「……この野郎!」
殺気立つ贄川を前にがははと馬鹿笑いして、今度は新聞を広げ、昨日の野球について話し始める。
オタク話についていけなかった3軍の何人かも、学に話を振られこの話題ならと加わり始める。
「今年のルーキーは有望なのばっかりだな!」
「私、雨月選手はずっと目を付けてたの! ヒーローインタビューがとっても可愛くて」
学に話しかけられた女子は、三軍でもファッションがダサい馬鹿にされていた生徒だ。いつも縮こまる様に放課後を待っている様なキャラだったのに、今は人が変わったかのように早口で話している。
何度か、個別にクラスの三軍を捕まえて、あいつらと話すなと
だが、彼らは暫くは「忠告」に従うものの、遠慮なくずけずけと話しかける学や倫を前に、少しずつ対応する様になり、やがて元の木阿弥である。
一軍リーダーの望月静磨には「一度痛い目に遭えば忠告に従う」と提案したものの、「そういうのはいけないよ」と珍しくにべもない態度だった。食い下がろうとしたが、あの凄みのある目で静かに見下ろされると、贄輪は何も言えない。
気に入らない。何でこいつらこんなにきもいのに、こんなに
こっちは空気読んで
◆◆◆◆◆
放課後、1軍・2軍のメンバーはファミレスに陣取って、学たちの行動に散々悪態をついていた。
なぜこれほどの怒りを抱くのかと言うと、自分たちは否定されないよう「空気」を読んで生きているのに、好き勝手やっている学とその取り巻きが許せない。彼らを肯定したら、いままで自分たちが払ってきた「我慢」や「不快」と言うコストが無駄になる。「空気」と言うマニュアルを無くしたら、どう振る舞って良いのか分からない等々。
割と下らない理由ばかりなのだが、自覚できない事は直しようがない。
結局、菅野学や香川倫がいかにクラスの輪を乱すヒドイ人間であるかと言う、それこそ下らない話題が延々と交わされた。
このままでは、穂村美都と浅見千彰も彼らに取り込まれるのではないか? 一軍の一角が崩れらたら、「クラスの和」が崩壊する。彼らはそんな恐怖に駆られる。
この場にリーダー格の静磨か参謀役の一星が居れば、彼らの根源的な恐怖を上手く統制し、和らげただろう。
加納里桜なら、誰かを
しかし、彼らはそれぞれ多忙で、この場にいなかった。
被害妄想じみた恐怖心が、雪だるま式に膨らんでゆく。
「ちょっといいかしら?」
横合いから話しかけられて、見上げた男子の視線が釘付けになる。
「ごめんなさい。隣の席で話を聞いてしまったの。クラスを面白半分でひっかきまわすなんて、そのマナブと言うのは酷い奴ね。みんな辛い思いをしたのでしょう?」
男どもは、今こそアピールの時と「そーなんだよ!」と口々にあること無いことを言い始める。
本来警戒心を抱く筈の女子生徒達も、意外に聞き上手の少女に、少しずつ打ち解けてゆく。
自尊心が揺らいだ人間にとって自分の「敵」を一緒に批判してくれる「善意の第三者」は喉から手が出る程欲しい存在だ。
結果、普段敏感なはずの彼女たちの直感も、この時は完全になりをひそめていた。
ひとしきり学や倫の悪口に興じた後、少女は「こう言うのはどうかしら?」と「提案」を始め、皆食い入るように耳を傾ける。
誰か冷静な者、例えば加納里桜がこの場にいれば、「静磨に相談してからでも……」と発言しただろう。
しかし、「こう言うのは少人数でさっさとやった方が良いわ。失敗しても証拠なんて無いし、ちゃんと立ち回ればデメリットはゼロだから」と言いくるめられ。皆目の色を変える。
普通に考えたら、かなり思い切った行動を取ることになるのだが、皆気が大きくなってそれに気づかない。
(
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