第21話「出戻り勇者、戦う(その2)」★
ポーチから取り出したのは、魔銃「デバステイター」。
召喚された勇者の1人がたまたま持っていたショットガンを学が改造したものだ。
ハンドグリップを引いて薬室を開放。電撃魔法がエンチャントされた弾丸を押し込み、ハンドグリップを戻して装填。
貫通力を最低限に抑えて雷撃を撃ち込めば、カップルを傷つけずに、バーサーカーをストップできる。ただし、場合によってはショックで止まった心臓が二度と動かないこともあり得る。
麻痺などのバッドステータス付与なら殺さず済む可能性はあるが、万一「バットステータス軽減」の属性を持っていたら、カップルは助けられない。
ここで逡巡していては結局誰の助けにはなれない。サーシェスでは心優しい勇者は皆死んだ。生き残ったのは少数を切り捨ててでも多数を助け、その命を背負って前に進む勇者たちである。
(すまん!)
心の中で手を合わせ、トリガーへ掛けた指に力をこめとしたとき、奇跡が起こった。
振るえていた彼氏が雄たけびを上げ、暴漢の前に立ちふさがったのだ。
普通なら無謀な行いだが、バーサーカーは彼が投げつけた手元のバッグ弾き飛ばしてた時、バッグが激しく燃え上がり、暴漢がのけぞる。
後で分かったのだが、バッグには安物のリチウムイオンバッテリーが入っており、人外の力で衝撃を受けたことで、電気回路がショート、筐体内にたまっていたガスに引火したのだ。
学は、ここで決断を戸惑うほど甘ちゃんではない。彼が作ってくれたわずかな隙を利用して、雷撃の弾丸を排莢。召喚魔法の弾丸を再装填する。
この術式も学が組んだものだ。効果は、装備一式をポーチから転送し、装備状態にすることだ。
「召喚」
起動コードと共に銃口を上空に向け、トリガーを引く。
次の瞬間、学の体は、黒衣の軽装鎧に包まれていた。体になじむ感覚に、彼の中に宿る勇者の血が熱くなる。
男がもつれた足で立ち上がった時、学は宙に舞っていた。足に装備した〔騎龍のブーツ〕は、学の魔力に反応して反発力を生み出し、高高度の跳躍を可能とする。当然着地時に相当な衝撃を受けるが、反発の力を調整して衝撃を殺すことと、使用者の魔力をコストに身体能力を底上げする〔漆黒の闘衣〕により、安全な着地が可能だ。
学は両手に装備した〔初心者の籠手・改〕に魔力を送り込み、魔法を発動させる。〔初心者の籠手〕は初心者が魔法を練習するために、魔力を魔法に変換するアイテムだが、変換効率が悪く大威力の魔法は行使できず、本来勇者の使う装備では無い。
しかし、人間離れした魔力貯蔵量を持ちながら、スキルの縛りで自前で魔法を使う事が出来ない学は、日本人的執拗さでこの道具の改良を行い、燃費を犠牲に極大魔法への変換を達成していた。
魔力を込めた拳がスパークし、白熱する。
「電磁ブレイク!」
学は彼氏と暴漢の間に着地すると、最低威力で発動させた白兵戦用の魔法を叩きつけた。
電気を纏わせた拳で、相手を痺れさせたり、白熱させた打撃や斬撃でダメージを与える、彼がサーシェスで最も多用した魔法である。魔銃よりも威力の調節が容易で、非殺傷の魔法としても使用可能だ。
バーサーカーは、獣の様な悲鳴を上げると白目を剥いて崩れ落ちた。
学はただのDQNに戻ったバーサーカーの体を手際よくひっくり返し心臓に耳を当て、安堵のため息を吐いた。
「ざまぁ無いな」とつぶやいた対象は、倒れている男ではなく、自分自身だ。
信じてやるべきだった。この勇気ある青年を。
肩で息をしている彼氏さんを見やり、「助けられた。ありがとな」と親指を立てると、珍獣でも見るような目で学を見つめる彼女さんに「こう言う男はそう居ないぞ。離さない方が良い」と我ながら余計な一言を付け加えた。
我に返った彼女女史の返答は「言われなくっても、離しませんっ!」だった。
学は呵呵と大笑すると、デバステイターをポーチに戻す。
「それじゃ、末永く爆発してください」
しゅたっと二本指で敬礼しすると、地に伏した男を軽々と肩に担いで跳躍し、夕暮れの空に解け込んでいった。
後に残された彼氏氏は、何が起きたのか理解できない頭で、恋人の顔を見合わせていたが、不意に手をぎゅっと握られ、赤面して想い人から目を逸らした。
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