第6話「スクールカーストの洗礼(その1)」
職員室に顔を出したら、案の定前髪の件で白い目で見られた。
「この子、もっと普通だと思ったんだが、大丈夫かな?」と言う心配そうな心の声が表情から伝わってきて、「すみません。以後気を付けます」と謝らざるを得ない。
向こうでは白髪やら銀髪やら青髪やら、実にカラフルな地毛が普通だったので、感覚が完全にマヒしていた。妹や千彰の忠告を聞いておくべきだったかもと思うが、まあ、
そう軽く考えた事が、とんでもない地雷を踏みぬく結果に繋がるのだが。
◆◆◆◆◆
教室に入った時、学の髪を一目見て、誰かが「ぷっ!」と吹き出した。
皆顔を見合わせてひそひそやっている。
教室に千彰と美都を見つけるが、千彰は苦笑で応え、美都は気まずそうに目を逸らした。
ここに至って、こいつはやっちまいましたねと事の重大さを痛感した。
この状況から切り返すのは相当話術が居る。多分、5年間過ごして勝手知ったる向こうなら何とかなっただろう。いや、そもそも魔族や亜人がわんさかいる世界で、髪の色くらいで騒がれることは無いが。
「菅野学です。この髪型は皆さんと上手くやって行けるか不安のあまり勝手に白くなったのであって、別に俺が中二病とかそう言う訳では……」
どんどん氷点下に沈んでゆく空気に、「転移魔法で逃走を図るべきか」を一瞬だけ本気で検討した。勿論却下だが。
何人かがスマホを弄り出し、興味なさそうにネイルを眺めていたギャル系の女生徒は、「あーあ」と大声でため息を吐いた。幼馴染2人に至っては、嵐が過ぎ去るのを待つように身を固くしている。
(魔王軍の軍使より容赦ねぇな、このクラス)
あの時は「食料と女を全部出したら、楽に殺してやる」とかナメた事を言っていたので、身ぐるみはいでお帰り願ったが。
「あの、先生? ワタクシめの事はもう良いので、そろそろ授業をお願いします」
白旗を掲げる学に、担任は「ほらな、言わんこっちゃない」と言う無慈悲な表情で答え、「お前の席は香川の隣、と言っても分からんか。一番後ろの窓際だ」と手で示す。隣と言われた「香川」の席は、誰も座っていなかった。
本来なら一等地なのだが、皆一様に「ざまぁwww」と言う顔をする。何かあるんだろうなとは思ったが、それより担任の言葉が気になった。
「先生、『香川』って、香川倫……」
言いかけたところで、コトンと音がした。
視線を移すと、千彰が「ごめんごめん」と落ちたペンケースを拾っていた。彼の目くばせを確認し、「いや、何でもありません。ハハハ」と大げさに後ろ髪を撫でる。
誰かの舌打ちが聞こえた。
◆◆◆◆◆
一等地が避けられる理由は、フレームを動かす車輪が壊れて窓が開かず、5月の日差しが暑い事だった。まあ、クーラーの無い生活を5年間も送っているので、この位は何でもないのだが、せっかくだから折を見て直してしまおうと考える。
美都とは一切話していないし、千彰もどこかよそよそしい。仕方ないので夜にでも電話で詳しい事を聞こうと決めた。
(しかし、「高校生活」ってこんなのだったっけかな?)
クラスメイト達に囲まれて談笑する美都を見やる。
彼女は幼少時の経験で、着飾るのが大好きだ。おかげでお洒落にも造詣があり、人気者なのだろうとは思っていたが、完全に中心的な位置にいるらしい。
学が彼女に話しかけようとすると、かならず誰かが遮ってくる事からも、それはうかがえる。
その度、美都は目線で「ごめんっ」と謝罪するので、学の方が罪悪感を抱いてしまい、話しかけるのを止めた。
異世界に行く前に散々読みふけったラノベとかラブコメ漫画とかだと、もっとこう「若者独特の緩さ」と言うか、「向こう見ず感」と言うか、居心地の良い空間を想像していた。
学は外見年齢こそ十代半ばだが、中身の方は合法的に飲酒できる年齢である。「これがジェネレーションギャップと言うものか」とおっさん臭い事を考えた。
「菅野殿、菅野殿」
小声で名前を呼ばれて廊下を見ると、クラスメイト3人がドア越しにてまねきしていた。
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