第4話「5年ぶりの地球はある意味浦島太郎」
目が覚めた時、自分がごわごわした藁では無く、ベッドに敷いた木綿製の布団の上に寝ている事に気づいた。
(戻ってきた……か)
五年ぶりの自室だったが、そもそも
が、5年ぶりに見る地球の文物は、胸に来るものがある。
スマホのアラームが鳴りだして、起床時間だと知らせてくれた。
起動ボタンを押すが、認証のフリックが上手く行かない。
(5年間も触って無かったからなぁ)
四苦八苦していると、ドアがどんどんと叩かれる。
「ちょっとおにぃ! うるさいよ!? どうせ倫ちゃん達と会えるからって、興奮して寝られなかったんでしょ!?」
遠慮無く入ってきた妹の呆れ顔は5年前と同じで、目頭が熱くなる。
まさか「妹よ! もう会えないかと思った!」などと言ってぼろを出す訳にはいかないので、曖昧に笑って「いやあすまん。これ、止めてくんね?」とスマホを差し出す。
「おっ、おっ!」
和美の方は、学を見つめて口をパクパクさせている。
「な、何だよ?」
怪訝そうに見つめる学に回れ右をして、和美は駆けて行く。
「お父さん大変! おにぃが里帰りして中二病に戻っちゃったぁ!」
遠ざかって行く足音を見送って、「失礼な」と鏡を覗き込み、げっ! と悲鳴を上げた。
外見年齢こそ召喚前に戻っていたが、異世界で白くなった前髪がそのままだった。
「あのクソ女神! 雑な若返りさせやがって!」
吐き捨てた言葉にはっとして、開けっ放しのドアを見ると、苦虫を噛みつぶしたような表情の父と、笑いを堪えて頬を膨らませる和美だった。
「女神! 女神だって!」
「ちげえ! ちげえんだって! おい指差すな!」
苦労して帰ってきたのに、感慨にふける暇も許されないらしい。
(そうだった。こっちの生活はこんな感じだったな)
「学、何かストレスでもあるのか? なんでも話してくれって言ったじゃないか」
「ねえ? 女神様に異世界連れてってもらうの? トラックとかに轢かれるの? ブラック企業に勤めちゃう? 魔法学園でハーレムとか作っちゃう?」
(今帰って来たばっかりだし、ハーレムどころかずっと使い走りだったよ! ああ、ある意味ブラック企業ではあるか)
妹に異世界転生物のラノベなんて布教するんじゃ無かったと頭を抱える。
しかしながら、あちらとは別の意味での騒がしさに、ようやく帰ってきた実感を得ることが出来た。
「とりあえず、着替えたいから」
2人を追い出して、ようやくひといきついたのを実感すると、ハンガーに吊るした新品の制服に手を伸ばし、襟にお気に入りのピンバッチが付いている事を確認し、そっと撫でた。
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