第3話
加護くんは大抵はいつも今日の授業がだるいだとか、この間面白いことがあっただとか、そのようなことを気まぐれに私に話してくる。これまで私たちは「隣の席のクラスメイト」の範疇を超えたことはなかったので、こうやって二人で学校内を歩くのは初めてだった。渡り廊下に差し込む光が加護くんの横顔をキラキラと照らしているのも、話すときに私が加護くんを見上げる形になるのも、全部が新鮮だ。
「ナナコさんって頭いいよね」
「え?そんなことないよ」
「いや、でもいつも真面目に授業聞いてるじゃん。偉いと思う」
うんうん、と加護くんは1人で納得している。
「そういう加護くんは、いつも不真面目よね」
「いや、俺はいつも愛と平和について考えてるからさぁ。授業より有意義なわけよ」
愛と平和って。馬鹿みたいなことを大真面目な顔で言う加護くんがおかしかった。
「私も愛と平和について考えたほうがいい?」
「そのほうがいい」
愛と平和かぁ、と私は思う。そう言われてみれば、これまで愛も平和も心底どうでもいいと思って生きてきたような気がする。ただ自分の周りの環境を整備できればそれで良いと思っていた。愛と平和について考えたほうがいいという加護くんの馬鹿げた話は、案外的を射ているのかもしれない。
「え、そんな大真面目に考えなくていいよ」
「いいえ、大事な事です。加護くんは愛と平和についてどう考えているの?」
「えぇ」
困ったなぁと頭を抱え始める加護くん。ようやく加護くんが「愛と平和は夢物語だ」と結論を出したところで、私たちは第2校舎についた。第2校舎は第1校舎よりもずっと古く、床の塗装はほとんど剥げていたし、壁は薄汚れていた。
「ここで拾ったんだよね~」
「加護くんここに来たの?第2校舎なんてほとんど使わないのに」
「うん、好きなんだよね、ボロくて」
私が第2校舎3階の物理実験室に入り浸っているみたいに、加護くんもこの校舎に来るんだろうか。だとしたら、すごく嬉しい。加護くんが例のクマを窓辺にちょこんと置いて、一緒に来てくれてありがとうとほほ笑んだ。加護くんの笑顔をこんなに近くで見れる日が来るなんて思わなかった。出来ることなら、もう少しだけ独り占めしたい。
「加護くん」
「うん?」
「私、この校舎の3階にある物理実験室が好きなの。今から行かない?」
「へぇ。物理実験室。いいよ」
快く受け入れてくれた加護くんを連れて、私は3階へ上がる階段を上った。
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