第2話
こんなやり過ごすような毎日を送っていても、ちょっとした楽しみというのはいくつか存在した。例えば学校に来る途中、コンビニに寄って豆乳とスニッカーズを買うこと。特に抹茶味の豆乳が好きで、体に良いような気がして毎朝飲んでいた。ベタベタに甘いスニッカーズを豆乳で流し込むと憂鬱が少しマシになる。それから、放課後に第2校舎3階の使われていない物理実験室で窓の外を眺めること。廊下も隣の教室も全部が静まり返っていて、ほんのり薄暗い。校庭から賑やかな声がかすかに聞こえるのみで、それがまるで水の中にいるみたいで気持ち良い。目を閉じて、冷たく黒い机に頬をくっつけるとそのまま死んでしまうのではないかという気がしてくる。けれども私が何より愛していたのは、加護くんと言葉を交わすことだった。
加護くんは私の隣の席の男子だ。いつも眠そうに目をこすっていて、授業中はいびきをかいて寝たりスマホをいじったりしている。加護くんは気まぐれに私に話しかけてくることもあって、そんな時は全身の血が湧きたってしまって、指先までジンジンと熱くなるのを感じながらも平静を装った。
「ナナコさん、これ見てよ」
ある日、いつものように気怠そうな顔で加護くんが見せてきたのは加護くんのように気怠そうな顔をしたクマのキーホルダーだった。
「かわいい。どうしたの、これ」
「拾った」
「え、拾った……?」
加護くんはなんでもなさそうな顔でクマをいじくっている。
「なんか可愛いなと思って」
「落とした人が探してるかもしれないし、戻したほうがいいんじゃない?」
私が至極真っ当な意見を述べると、加護くんはそれもそうかと言ってクマを私の机に置いた。いや、なんで?
「私は戻しに行かないよ」
「いいじゃん。一緒いこうよ」
ふっと笑った顔に私がなす術なんてあるはずもなく。わかったよ、とそっぽを向くと、加護くんがケラケラ笑う声が聞こえた。
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