第4話
放課後の物理実験室は、相も変わらず海の中に沈んでしまったような静けさだった。二人の足音だけがパタパタと鳴っていた。
「3階まで来たのは初めて。静かだね」
「うん。いつ来ても静かだし、誰もいない」
加護くんは興味深そうにきょろきょろした後、黒板に向かって歩き出した。
「ナナコさん、なんか書こうよ」
「えっ、いいのかな」
「いいよ。黒板というのは、何かを書くためにあるのだから」
そう言って私の手に小さなチョークを握らせると、自らもチョークを握って黒板に向き合った。私は何を描こうか悩んだ末に、さっきのふてぶてしい顔をしたクマを描くことにした。
「それ何描いてるの?」
「加護くん」
「嘘じゃん」
クククと笑う加護くんは、アメーバのような形状のよくわからない何かを描いていた。
「加護くんは何描いてるの?」
「ナナコさん」
「それこそ嘘じゃん!」
私の描いたクマと、加護くんの描いたよくわからないアメーバが並んだ。窓の外では少しずつ日が暮れ始めていて、海の中に沈んだはずの私たちは明るいオレンジ色に照らされていた。
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